第130話:新たな生活

拠点を改築し“領都”としてから2週間、ゆったりとした時間が流れていた。

領都はレーベルが最後に仕えていた龍族の王の名を冠して、ガーンドラバルとした。クルセイル大公領の領都、ガーンドラバルだ。



この2週間、私は出入口用のゴーレムをいろいろ試しながら、身体を流れる魔力の操作や魔法の制御のトレーニングをしていた。出入口用のゴーレムは完成間近で、近く調整できた設計を基に、魔石への命令式の書き込みと『土魔法』で身体の作製を行う予定だ。


魔力の操作や魔法の制御は、私の使う魔法の燃費改善が目的だ。旧バイズ辺境伯の領都防衛戦で、ツイバルドに火炎放射を使ったときにも、魔力を使い切ったのか、かなり怠さを感じたしガーンドラバルを覆う土壁を作るときにも感じた。もちろん、かなり大規模な魔法を使ったわけだが、感覚的に魔力の無駄が多い気がした。そこで、レーベルに観てもらいながら、同じ威力・規模の魔法を発動する際に使用する魔力の量を抑える練習をしていた。


思い返せば、私のこれまでの戦いは、恵まれた身体的特徴を無駄遣いして、ただただ高火力の魔法を撃ち、殴りつけ切り裂くというものだった。この世界に転生して、好戦的になったような気はするが、戦いは理性的に頭を使ってやるべきだろう。無駄が多いという弱点が分かっているのだから、それを解消したいのだ。


魔力の操作・制御は、様々な場面に通ずる。魔法を使うときはもちろん、ゴーレムを作るときに必要な魔力の注入作業も、魔力の制御が甘いと上手くいかない。進化して体内の魔力が大幅に増えた結果、前よりも意識して込める魔力を絞らないと、簡単に魔石が吹き飛ぶ。


素手で戦うときにも、鱗で覆われた身体を魔力が巡り、身体能力が大幅に向上する。カイトによればこの時も、単に魔力を流せばいいのではなく、魔力の薄い膜が身体を包み込み身体の動きを補助するようにする必要がある。『身体強化』のスキルを習得するとそれを無意識にさらに効率よくできるのだが、スキルが無い以上は意識してやるしかない。





私がいろいろ実験しながら楽しみつつ、ゴーレムや自分の身体を研究していたのに対して、カイトは訓練漬けだった。マーカスのもとで剣術や体術を学び、騎士団の訓練にも参加し、集団戦の訓練や指揮を学んでもいた。


剣術では双剣の使い方を一から身に付けていた。身体能力がずば抜けているカイトが、基礎から剣術を身に付けることができれば、その戦闘力は凄まじいものになる。飛行はまだできないが、最終的には地面を走り、驚異的な跳躍力があり、空中に飛び上がって攻撃することができるようになる。その道のりは長いが、カイトなら成し遂げる気がする。

そのための訓練として、『身体強化』や『人龍化』を使わずに剣術を学び、それぞれのスキルの効果が上がるように魔力の制御や技術を磨く。



更に、カイトとポーラはこの後バイズ公爵のもとで貴族教育を受ける予定だ。元々カイトは、冒険者として旅に出たいと言っていた。そのことを確認したところ、「今は、クルセイル大公領を発展させたい」と言ってきた。そもそも冒険者になって旅に出たかったのも、もっと成長して私の役に立ちたかったとの理由らしく、今は貴族の勉強をして、クルセイル大公領を発展させることがそれにあたると考えたらしい。私としては、カイトがやりたいこと、カイトの夢に向かってほしいと思うが、カイトのやりたいことがクルセイル大公領を発展させることなのなら、その意思を尊重するつもりだ。


大公という地位は、最初は面倒を避けるための肩書だけのつもりだった。だが今は、私を慕ってくれた騎士たちを受け入れて、曲がりなりにも貴族の領地としての形を作りつつあった。まあそれ自体は、思っていたよりも楽しい。日本では決して経験できないことだし、そもそも信頼できる仲間という存在もいなかったし。

一方で、騎士たちを受け入れたことで彼らや領についての責任も増したわけで、カイトがその運営に興味があるのなら、応援したい。





ポーラは魔法の練習に加えて、体術の訓練をするようになった。ポーラの魔力が切れることは想定しがたいが、魔法が使えないとポーラは自衛すら難しくなる。鱗で身体を覆えば、半端な攻撃でダメージを受けることは無いが、魔法以外でも戦えるようになっておいて損はない。『人龍化』を使えば身体能力が向上するのはポーラも同じだしね。


ポーラにも今後やりたいことがないのか聞いてみた。まだ7歳だし、カイトと違ってマーシャグ子爵家で何か教育を受けていたわけでもないので、イメージしにくいようだったが、冒険者になりたいと言っていた。そういえば以前、私とカイトが冒険者登録したときにも登録したいと言っていたし、そのことを覚えていたのかもしれない。

・・・まあ、もう少し大きくなったらもう一度聞いてみることにしよう。正直、私もカーラルド王国内くらいは旅をしてみたい。行ったことがあるのは、バイズ公爵領の領都ガッドだけだし・・・。ランダルの討伐も終わっただろうし、落ち着いたらポーラと旅に出ても面白いかもしれない。





マーカスは、騎士30名と警備用ゴーレムを改名した騎士ゴーレム80体を指揮下に置いた。騎士ゴーレムは、かなり頑丈だし人間よりも身体能力は高い。しかし、攻撃力が低い。武器が揃っていないこともあるが、騎士鎧の隙間や魔獣や魔物の弱点を的確に攻撃するといったことは、訓練を積んだ騎士には遠く及ばない。動きの命令式を事後的に書き込む過程の教官役を、マーカスに任せることで、いずれは向上するだろうけど・・・


そういうわけで、騎士団での役割は、騎士ゴーレムが守りを、騎士が攻撃を主に担うことになった。ガッド防衛戦で騎士団がファングラヴィット相手に用いていた5人一組での戦術にゴーレムを組み込むのだ。内訳は、騎士2名と騎士ゴーレム3体になる。


騎士ゴーレム3体が前衛となって攻撃を受け止め、後ろから騎士が攻撃する。言ってしまえばそれだけで、簡単に思える。しかし訓練を重ねて息を合わせ、相手の攻撃を受け止めた正確なタイミングで攻撃をするというのは簡単ではない。特に人間とゴーレムが協力するのであれば尚更だ。なので、ひたすらその訓練をしている。訓練方法は至ってシンプル。マーラたちやシャロンが相手役として突撃し、それを受け止めて攻撃するタイミングを掴む。マーラたちが攻撃の威力やスピードを変えることで、バリエーションをつけてくれるので、臨機応変に対応する訓練にもなる。


そうした訓練の他にも、8箇所ある領都の出入口を、任務として警備している。警備する際も、この組は崩さず、共同で任務にあたる。人手が少ないので、領都内の巡回は、騎士ゴーレムだけで組んだチームがあたっている。この辺は、マーカスが上手く差配してくれるので心配ない。まあ、今後のことを考えて、ゴーレムを増やすことをお願いされてはいるけど。



レーノは、食料庫や宝物庫にある、食材や素材、魔石をリスト化し、クルセイル大公領の財産を管理する体制を整えている。『アマジュの実』の収穫や、西側の畑の管理、騎士団が狩ってきた魔獣の管理もしている。


クルセイル大公領では、まだお給料を支払っていない。全員納得の上で、衣食住をこちらが提供する変わりに、当面の間は無給ということになった。領の収入の目処を急ぎ立てなければならない。


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