第129話:拠点改造2

岩山の南側では、騎士たちの宿舎作りが進んでいた。残った2人の騎士の案を参考に、ポーラが大まかに形を作り、カイトが細部を整える。進化したことでカイトの魔力量も増えたが、ポーラの方が、魔法が得意なことに変わりはない。特に、宿舎の様な大きな物を作るのは、カイトでは厳しかった。


ポーラが大枠を作りカイトがそれを整えたら、伐採して加工し保管してあった木材をはめ込んでいく。『アマジュ』の群生地から戻ってきた騎士たち、暇そうにしている予備用ゴーレムが木材を運搬し、ポーラたちの作った土の枠に木材をはめ込む。重要な柱部分や土台部分、宿舎は2階建て予定なので、1階の屋根にも木をはめ込んで補強していく。


さらに、先程伐採した木の皮を削り、薄く縦に切断して板材を作っていく。板材は、宿舎の床、壁、屋根や私たちの家の床にも使われる予定だ。私たちの家、つまり岩山の改造はレーベルに任せているが、内部の枠を作りそれを固めた上で、余分な部分を削り取る予定らしい。

彫刻みたいな感じかな・・・?

完成は近いらしいので、楽しみに待っておく。


ガラスなどは持っていないので、木枠に木で作った扉を取り付けた窓を各部屋に設置する。ドアも木製だ。前回伐採した木と、先程伐採した木が大量にあるので、木材不足の心配は無い。それにこの後、拠点を南側に拡張するので、さらに伐採する予定だしね。



そうして、騎士たち用の宿舎は日が落ちる頃には完成した。建築経験があるというだけでプロではない者が考案し、『土魔法』でゴリ押し、木をはめ込んだだけ。そんな宿舎だが、思っていたよりも綺麗で頑丈そうな建物が完成した。2階建てで、1階に6畳ほどの広さのある部屋が20部屋、2階に10部屋ある。


まだ部屋の中には何も置かれておらず、即入居できるわけではないが、上出来だろう。マーカスとレーノを除いて騎士は30名なので、ひとまず1人一部屋が割り当てられる。明日以降、ベッドや机、椅子などの家具を作り、マーカスとレーノの家ないし部屋を作らないといけない。


しかし、一日の成果としては上々なので、空きスペースでバーベキュー風にお肉を焼きながら、夕食とした。今日の夜は、騎士たちはそれぞれの部屋で寝袋などを使い休む。マーカスとレーノは、岩山の家内にある空き部屋 —仮にゲストルームとしてある部屋— を使ってもらう。



 ♢ ♢ ♢



その後、2週間掛けて拠点の改造を進めた。最初に作った宿舎の他に、3棟の建物を建てた。1棟は、最初の宿舎より建物自体は小さいが、各部屋の大きさは広くしたもの。2階建てで、各8部屋ある。その内の2部屋を、マーカスとレーノの部屋にした。残りは、騎士団の指揮所や武器庫、倉庫などに使う予定だが、現状では空き部屋になっている。


2棟目は一軒家だ。宿舎と同じく2階建てのよくある一軒家。そんな予定は無いが、一応は大公領であり、誰か訪問者がいるかもしれないので、貸別荘的な建物を作ったのだ。宿舎と同じく、『土魔法』で枠を作って木をはめ込んでいく手法なので、派手さは無いが、かなり頑丈にできていると思う。


最後に厩舎。岩山の東側に建ててあった厩舎を一度解体し、東側の壁を押し広げた。マーラたちや軍馬たちが走り回れるスペースを確保するために、500メートルほど広くした。それから厩舎を岩山の近くに新たに建造していく。まあ構造自体は単純で、大きな平屋の建物を宿舎と同じ方法で作り、中に仕切りを設置していく。誰がどこを好むか分からないので、大きさの基準はスレイドホースだ。後はその横に、マーラたちの世話をするとき用の小屋を設置しておく。


マーラたちは私たちの言葉を理解しているだろうし、とても賢い。なので、わざわざ柵を設けなくてもいいとは思うが、軍馬たちもいるので、放牧エリアを大まかに柵で区切っておく。まあ、軍馬たちはマーラたちを群れの上位者と認めて従っている感じなので、目安を示しておけば、これを乗り越えてどこかへ行ってしまうこともないだろう。



拠点の西及び南も、200メートルほど拡張された。南は騎士団の訓練所として利用する予定だ。もちろんそれだけならここまで拡張する必要も無かったのだが、後から拡張していくのも面倒だし、一気にやってしまった。その結果、大量の木を伐採したので、南側には大量の丸太や処理された木材が置かれている。


西側にはレーベルが育てていた薬草などが移され、大きな畑を作ろうとしている。全員で38名しかいないが、魔法で冷蔵庫のような部屋を作ってあり、そこに保管しておけばかなり日持ちはするし、最悪マーラたちが食べてくれるので、できる限り畑を広げる予定だ。まあ、これはレーベルとゴーレムに任せる予定なので、楽しみに待つしかない。



こうして拠点は、岩山を中心にして北へ300メートルほど、東へ500メートルほど、西と南へ200メートルほどと、大幅に拡張された。その全域を、『土魔法』で壁を作って囲っていくのが何よりも大変だったが、無事に作りきることができた。北東、北西、南東、南西の4つ角と、東西南北の壁の中央付近に計8箇所の出入口を設置した。当然、今は分離された土壁だ。それぞれの入り口の場所には、小屋を設置して、騎士やゴーレムが警備するときの詰め所とした。


思ったよりも広げてしまったので、拠点内の移動ですら、マーラたちや軍馬を使うことが多くなりそうだった。まあ、それを伝えると、マーラたちは嬉しそうにしていたので、良いのだろう。



最後に岩山についてだ。ここ最近はずっとレーベルが改造を施し、薬草などの植え替えを終えてからも黙々と作業をしていた。そして最後に、『風魔法』のようなもので岩山を外側から削り取って、4階建ての建造物を作り上げた。


これまでは北側に設置していた階段を上って洞窟の入り口まで移動していたが、1階部分に入り口を作り、出入りできるようにしたことで、この階段は撤去された。1階は、排水の関係で大きくなった風呂場があるほか、調理場やトイレといった水回りに加えて、みんなで食事ができる大広間がある。2階と3階は、いくつも部屋があり、魔獣や魔物を倒して手に入れた素材や魔石、大量の肉が保管してある冷蔵室や冷凍室がある。レーベルたちの部屋も3階だ。4階には、私やカイト、ポーラの部屋に加えて、レーノの仕事部屋もある。


レーベルが切り出して作った建物は、元々岩山だったとは分からないぐらい綺麗にされている。最初から4階建ての建物だったと言われても違和感が無いくらいだ。岩山をくり抜いているので強度が心配だが、レーベルと一緒に私も魔法で補強して回ったので、大丈夫だろう。

それに岩山時代は外部からの光が入らず、魔法で明るくする必要があったが、大量にある木材を使って窓を設置したので、日中であれば暗いこともない。



生活に不可欠な水については、北東方向にカイトたちと出会った川があるので、水を引いてくることも考えた。しかし、水路を作るのはかなりの作業になるし、森の中を通る水路を魔獣に壊される心配もあった。


なので、井戸を掘ってみることにしたのだが、ここでシャロンが思わぬ才能を発揮した。私たちが井戸を掘ろうとしていることが分かったのか、拠点内の2箇所を前脚でガシガシと削りながら、吠えたのだ。私たちには分からなかったが、ポーラが「ここ掘ると水が出るって!」と言うので、掘ってみたところ、本当に水が出た。それも井戸を掘るというよりも、ある程度掘ったところで、水が噴き出したのだ。なので、慌ててその周囲を掘り、湧き水による池を作った。


このような池が、西側と南側に2箇所ある。それほど距離も無いので、宿舎で使う水は、この池から汲んでもらうようにしている。水が溢れても困るので、池からは、土壁の外側に掘ってある堀に水が流れるような水路を作ってある。この堀は拠点の土壁の周りを一周してあるので、かなりの長さになるが、溢れる水がかなり多いので、放っておくとここも溢れてしまう。なので、北東の川に向かって流れる排水路だけ急いで作っておいた。拠点で使う水を引くための水路であれば、警戒や警備が必要だが、排水路だけなら仮に壊されてもそれほど困らない。なので、定期的に見回りをすれば足りるとの判断だった。

南側の池からは、東側の厩舎の近くへも水が流れるようにしてあり、マーラたちはそこで水を飲んでいる。



こうして、計画が追加されたり、変更されたりしながら、拠点改めクルセイル大公領の領都の拡張並びに、岩山改め領主の屋敷の建設工事が完了した。


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