第114話:現状確認と今後の方針2

〜カイト視点〜


「でも、コトハお姉ちゃんのことを多くの人に知られたことと、新国家の貴族になることとどんな関係があるんですか?」

「まず、こちら側のメリットとしては、彼女が味方だと宣言できる。それだけで、統一戦争を行い、新たに国を整備するという混乱の最中では代え難い恩恵がある。他方のコトハ殿たちの立場からすれば、いらぬ干渉を防ぐことができる。仮にも国家所属の貴族を相手に、引き抜き工作や不相応な接触を図ろうとする者は多くない。爵位を上にしておけば、国内の貴族も、その爵位の関係で、立場を弁える必要が出てくる」

「・・・・・・なるほど。利害は分かりました。けど、コトハお姉ちゃんに貴族になれって言っても、領の統治なんかするわけ無いと思います。それに、階級の高い人から命令されるのも、絶対に嫌がりますよ」

「もちろん分かっている。それに、コトハ殿は、長寿であろう?」

「はい。コトハお姉ちゃんの寿命は、少なくとも数万年らしいです」

「数万年か・・・。想定以上だが、長寿であるということは、コトハ殿は私やハールが死んだ後も、生き続けるわけだ。我々の子や孫の世代ならともかく、その先を考えると、今のままで良好な関係を継続できる保証が無い。関係が潰えるだけならともかく、関係が悪化することは絶対に避けたい」


バイズ辺境伯の言いたいことはよく分かる。今のコトハお姉ちゃんとバイズ辺境伯の関係は、良好と言っていいと思う。定期的に素材の売買をし、情報交換をする。バイズ辺境伯はお姉ちゃんのことを理解しており、無理難題をふっかけることも無いし、コトハお姉ちゃんもバイズ辺境伯に敵対するつもりはない。

しかし、数百年後、数代後のバイズ辺境伯と、コトハお姉ちゃんが良好な関係を継続できるかは分からない。無理な要求をされたり、無いと思うがコトハお姉ちゃんがバイズ辺境伯領を攻めたり・・・



「それを避けるために貴族に?」

「ああ。完全に避けられるわけではないが、コトハ殿が高位の貴族位をもっておれば、簡単に無理難題をふっかけることはできないし、仮にされてもコトハ殿は争わずにその要求を拒める」

「・・・・・・それは分かるんですけど。でも、貴族だったら、王の命令には従わないといけないわけで・・・・・・」

「ああ。現状、ハールが新国家の国王となることを軸に検討している。当然、ハールやその息子、孫は安心だろうが、その先は分からん。そこで、コトハ殿の爵位は、大公とすることを考えておる」

「・・・・・・大公? それって、公爵位よりも高位の?」

「ああ。王弟などが授爵することのある爵位だ。ラシアール王国で大公位を授爵したものはおらぬがな。貴族の中では最高位となる。その上で、新国家の最初の法に、不変の内容として、大公位はコトハ殿のみであること、大公には、王族であっても命令することができないことを明記し、公表する。これで、懸念を最大限に抑えることとなる」

「確かにそれなら、コトハお姉ちゃんが困る事態は避けられる気がしますね・・・。けど、そんな特権を与えて良いんですか?」

「はは。そう思うのも無理は無いだろう。だが、そもそも、私としてはコトハ殿に王になってもらいたかったのだ」

「王!?」

「ああ。ラシアール王国建国の伝説、それと同じグレイムラッドバイパーを倒した実力者。新国家を建国するにあたって、これほど分かりやすいものはないからな。それに、一応、武に心得のある者として、コトハ殿の臣下となることは喜ばしいと思ったからな」

「確かに、伝説みたいな光景でしたけど・・・」

「だが、彼女が王など引き受けてくれぬことは百も承知。だから、コトハ殿にとってかなり有利な内容で、貴族として国に携わってほしいのだよ」

「・・・・・・分かりました。お姉ちゃんがなんて言うかは分かんないですけど、説明はしてみます。それで、仮に引き受けるとして、領地は? 命令に従う必要が無いとしても、領の運営とか、絶対しないですよ?」

「ああ。コトハ殿の領地は、クライスの大森林を考えておる」

「クライスの大森林?」

「うむ。クライスの大森林は、どの国にも属していない、これは、クライスの大森林を開拓し、支配できる勢力がいなかったからだ。だが、コトハ殿は現にクライスの大森林に住んでおる。なので、彼女がクライスの大森林のうち、支配が及ぶ範囲を、自分の領地としてもなんら問題は無い。それに、クライスの大森林に進んで住もうとするものはおらぬであろうから、事実上、領民となる者はいない。なので、生活はこれまでと変わらんということだ」


確かに一理ある。本当に支配できるなら、クライスの大森林を自国領に組み入れるのは自由だ。コトハお姉ちゃんは現状、ある程度の範囲を支配しているに等しい。なので、自分の領地と宣言することはできるだろう。

けど、それはすなわち、コトハお姉ちゃんの支配領域が、新国家の領土となるわけで、コトハお姉ちゃんの実績を奪うことになるのでは?

それに、領地があるということは、納税義務も発生する。



そのことを伝えると、


「やはり、カイト殿は聡明だな。領土については、カイト殿の言うとおりだ。国内的にはコトハ殿の自治領として扱うことで、税制面などでも優遇できるから問題は無い。先程の命令できないとの規定に関連して、自治領扱いとする。だが、対外的には、新国家の領土として示すことになる。それは、受け入れてもらうしかない・・・」

「うーん、分かりました。僕じゃ判断できないので、帰ってからコトハお姉ちゃんに相談しますね」

「うむ。もちろん、押しつけるつもりは無い。今後のコトハ殿との関係性を考えた上での、こちらからの提案に過ぎない。是非、検討していただきたいと伝えてほしい」

「分かりました」


正直、コトハお姉ちゃんが受けるかどうかは、五分五分といった感じかな。

バイズ辺境伯にも言ったとおり、コトハお姉ちゃんが領主の仕事をするわけが無い。けど、今後のことを考えて、提案を受け入れる可能性も十分にある。

コトハお姉ちゃんは、結構雑だし、適当なことは多い。けど、頭が悪いわけでは無いし、人付き合いが嫌いなわけでもない。今回の提案は、コトハお姉ちゃんにも結構メリットがあって、しかもバイズ辺境伯たちを助けることになるのだから、意を汲んで、提案を受けるような気もするからだ。



「それと、カイト殿。1つ、提案があるのだが・・・」

「提案? 僕にですか?」

「ああ。カイト殿とポーラ殿は、基礎教育を受けている途中で、陰謀に巻き込まれた。その罪滅ぼしではないのだが、今後役立つであろう教育を受けてみないか?」

「教育ですか?」

「ああ。さっきの話を簡単に理解していたから、カイト殿には不要かもしれぬが、政治や経済、国際情勢など、貴族が学ぶ内容だ。コトハ殿が貴族となったのならば、統治はしないまでも知識が必要な場面はあり得るし、カイト殿やポーラ殿が別で就職する際にも必ず役に立つ」

「・・・・・・なるほど。僕は、基本的な教育は受けていますが、ポーラは全くです。コトハお姉ちゃんに拾われてから、いろいろ教えていますし、レーベルも教えてくれていますが、僕たちでは今の情勢についてなんかは教えられていません。ですから、そのお話、是非お願いしたいです」

「そうか。了解した。そのつもりで準備させておく」

「ありがとうございます」


バイズ辺境伯の提案はとてもありがたい。コトハお姉ちゃんが貴族になったとして、どうしても発生する仕事は、なんとなくだが僕がやることになる気がする。あそこでは、人を雇うのも大変だし、レーベルやフェイは、僕たちのお世話を第一にしたがる。将来的には分からないけど、ポーラに任せるのも怖すぎる。


コトハお姉ちゃんには、冒険者になって旅がしたいと言った。

これは、世界を見て回りたいとの思いもあったが、コトハお姉ちゃんの役に立ちたいとの思いも強かった。コトハお姉ちゃんは、拠点で問題なく暮らしていける。僕がいなくても、不自由することは無い。

だから、外に出て、何か役立てることはないか、修行しながら探す予定だった。

けど、コトハお姉ちゃんの仕事を、僕ができるのならば、それも必要ない。

それに、僕やポーラの寿命も、コトハお姉ちゃんと同じくらいに伸びているらしい。なので、世界を見て回るのは、後でもいいのだ。



コトハお姉ちゃんがいつ目覚めるか分からないので、期限を約束できないが、できるだけ早く結論を出して、伝えに来ることにして、僕たちは領都を後にした。


バイズ辺境伯とカーラ侯爵は、これからランダル公爵との戦争の準備に入るとのことだった。


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