第96話:緊急の知らせ
ゴーレムたちの移動速度は、マーラたちには遠く及ばない。
なので、留守番のレーベルに、森の入り口まで連れて行ってもらうことにした。
どこまで信じてもらえるかは分からないが、伝えるのは早い方がいい。
リンに収納してもらえばいいのでは?とも思ったが、さすがに容量が足りなかった。
私はマーラに、カイトはスティアに乗る。
最近ではカイトの外出時に乗るスレイドホースはスティアになっており、旅立つ際にも一緒に行く予定になっていた。
ポーラはシャロンに乗っている。
シャロンは、順調にスクスクと成長していた。
今では、フォレストタイガーよりも大きくなっている。
しかも自分の体の大きさを任意に変えることができるようになっている。
そのため、普段は大型犬サイズでポーラの側におり、戦闘時やポーラが乗る時には巨大化していた。
また、その飛行能力もかなり上達している。
ツイバルドと互角にやり合えるようになっており、今ではヤツらが現れた時は、シャロンの担当になっている。
ただ、ポーラを乗せて飛ぶのはまだ難しいらしく、今回は走っていく。
走る速度はマーラたちには劣るが、それほど差はない。
そんなわけで、3人と3頭で拠点を出発した。
♢ ♢ ♢
シャロンのスピードに合わせても、森の入り口までは1日で到着できた。
入り口で夜を明かし、領都を目指す。
普段は周りの人を驚かせないためにマーラたちのスピードを抑えているが、今回は全力に近い。
そのため、すぐに領都へ辿り着いた。
領都に到着し、いつも通り審査を受けて門を通ろうと思って近づくと、多くの兵士が飛び出してきた。
何かあったのかと、周りを見渡してみたが、どうみても私たちを囲もうとしている。
「お姉ちゃん。シャロンって、見た目は凶暴な魔獣だよね・・・」
カイトにそう言われ、シャロンをゆっくり見つめた。
私たちにとっては、人懐っこく、ポーラと仲良しで、めちゃくちゃ肉を食べるかわいい子だ。
ただ、その見た目は大きな白い狼だ。今はポーラを乗せるために巨大化、というか本来の大きさに戻っている。
そして、たたんではいるが、身体と同じ大きさの翼を持っている。
そんな凶暴そうな見た目の魔獣が、迫ってきたら・・・・・・
そりゃ、門を守る兵士は戦闘態勢になるよね。
ましてやここは、クライスの大森林に隣接するバイズ辺境伯領の領都だ。
クライスの大森林の魔獣が襲ってきたと思っても仕方がない。
不穏な空気が立ちこめるなか、何度も私の入都審査をしてくれていた門番さんがいたので、声を掛ける。
「こんにちは。驚かせてごめんなさい。この子も私たちの仲間で、危険は無いから心配しないで」
「・・・っ! コトハ様!? これは失礼致しました。クライスの大森林から強力な魔獣が攻めてきたのかと思いまして・・・」
「ううん。私たちは慣れてたけど、普通はびっくりするよね。配慮が欠けてたわ。ごめんなさい」
「・・・い、いえ。それで、その。その・・・・・・、魔獣も領都へ入られますか?」
「シャロンだよ!」
ポーラが元気よく紹介し、それに応じてシャロンが「ワォッフ!」と吠えたが、前の方にいた兵士がかなり怯えている。
「ポーラ、もう到着したし、シャロンを小さくしてあげて。みんな怖がってるから」
「はーい」
ポーラが指示すると、いつも生活している大型犬サイズに戻った。
「町の中では危険が無いときはこのサイズになってるから、入っちゃダメかな?」
「・・・・・・そうですね。問題ないとは思うのですが・・・。町の中での行き先はどちらに?」
「バイズ辺境伯に用事があってね。お屋敷に行くだけだよ」
「・・・承知致しました。馬車を用意致しますので、コトハ様方と、シャロン殿はそちらにお乗りください。バイズ辺境伯様のお屋敷までご案内致します」
「分かった。ありがとう」
♢ ♢ ♢
馬車に揺られて、バイズ辺境伯の屋敷へ到着した。
馬車の中では、初めて町を見るシャロンが興奮して、はしゃぎまくっており、馬車から飛び出さないように見張るので大変だった。
無事にバイズ辺境伯の屋敷に到着し、いつもの応接室に通された。
アポも無く、いつもの定期的な訪問では無かったのに、数分でバイズ辺境伯とボードさんが入ってきた。
「よく来たコトハ殿、カイト殿、ポーラ殿。何やら珍しい魔獣を連れていたそうだが、何用かな?」
「こんにちは。予定も無く突然来てごめんね。シャロン、珍しい魔獣のこともごめん」
「いやいや。こちらこそいきなり剣を向けたようですまなかったな。シャロン殿というのか。見たことが無い魔獣だな。クライスの大森林に住んでおるのか?」
「『ベスラージュ』っていう魔獣だよ。クライスの大森林で出会ったんだけど、他に見たことが無いから、よく分かんないかな。シャロンはポーラの従魔だよ」
「・・・・・・当然のように従魔契約をしておるのだな。それで、今回はシャロン殿の紹介に来ただけでは無いのであろう?」
「もちろん。今日はね、報告と警告に来たの」
♢ ♢ ♢
バイズ辺境伯とボードさん、そして途中から話に加わった騎士団長のオリアスさんに話をした。
最後の訪問後、私の拠点も襲撃されたこと。
私の拠点の襲撃者とバイズ辺境伯の屋敷の襲撃者が同一人物による可能性が高いこと。
それがランダル公爵によるものである可能性が高いこと。
ランダル公爵がジャームル王国の貴族と通じていること。
ジャームル王国がラシアール王国を攻める準備をしていること。
ランダル公爵が、バイズ辺境伯領に魔獣や魔物をおびき寄せることのできる魔道具を使おうとしている可能性が高いこと。
レーベルの調査によることも含め、なるべく隠し事をせずに、正確に伝えた。
隠したのは、襲撃者とうちのゴーレムがやり合ったことくらいだ。
それに対して、3人の反応は・・・
「・・・・・・まさか、な。本当にそのようなことが・・・」
と、疑っているというよりは、何か思い当たるところがあるような感じだった。
不思議に思い聞いてみると、
「ランダル公爵と国王陛下との間に亀裂が生じている、というのは有名な話だ。ランダル公爵は権力欲の深い男であるし、王位を狙っていることは明らかであった」
「なるほど? でもさ、それって貴族としては珍しいことではないんじゃない?」
「はは。手厳しいな。確かに貴族の多くは、権力を求めるものだ。それを否定はしないし、私も求めたことがある。だが、それを含め考えても、異常なのだ。そして最近よく公の場で、私を含めて仲のよくないラシアール王国の高位貴族を非難することが多かった。更に、そのことを不審に思い調べさせたところ、ランダル公爵が自領軍の準備を急がせているらしいのだ。物資を集め、領地の町や村から徴兵を行い、大規模な軍事訓練をしているらしい」
「・・・・・・それは」
「領主直属の軍隊が軍事訓練を行うことは珍しくない。我が領の騎士団や軍も、定期的に訓練を行っておる。だが、基本的にそれは職業軍人に限られる。徴兵してまで、訓練を行うのは、戦争が差し迫っておるときだけなのだよ。少なくとも王宮は、戦争の予定など無いし、不思議であったのだが、コトハ殿の話を聞いて、合点がいったわ」
なるほどね。それであの反応か。
でも、そんなあからさまなことしてたら、国王に疑われるもんじゃないの?
そう思いバイズ辺境伯に聞いてみると、
「王宮はな、ランダル公爵の支配がかなり及んでおるのだよ。先の侵攻の失敗や、先立つ塩の貿易問題、汚職などで国王陛下に近い貴族の多くが失脚していった。今残っている有力な貴族は、財務卿のカーラ侯爵くらいであろうな。つまり、諜報部門含めて、軍事に関する事柄にはランダル公爵の息が掛かっておる。ランダル公爵が領地で軍備しようと、国王陛下が知ることは無いであろうな」
「・・・・・・じゃあ、ジャームル王国の軍とランダル公爵の軍が王都や大きな都市を攻めたら」
「太刀打ちできぬであろうな」
思っていたよりも、ラシアール王国は詰みに近いようであった。
その上で、最後に障害になりそうなバイズ辺境伯を、魔道具で潰しに来たのか・・・
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