第88話:ゴーレム作り5

ゴーレム作りはひとまず成功した。


顔も発声器官も無いため意思疎通が図れず不便だし、顔が無いためかなり不気味だが・・・

それに完成したゴーレムは、魔石に書き込んだ命令式にある動きをすることはできるようになっているが、それではまだ人間の基本的な動きをできるようになっているに過ぎない。


つまり、戦闘力も何らかの仕事をする能力も有していないわけだ。

もちろんそれらは、ゴーレム作りの基本的な部分が成功してから考える予定であった。

ゴーレムの1番基本となる、魔石への命令式の書き込み、魔石への魔力充填、身体部分と魔石との合成を成功させることを優先したのだ。



基本的な動き以外の、戦闘や各種の仕事をするのに必要な動きは、事後的に教えることが可能である。

今のところゴーレムができるようになったら助かる仕事としては、食材確保のための魔獣狩り、狩った魔獣の運搬、拠点の防衛、カイトやポーラが出かける時の護衛などが思いつく。

これらは、基本的に戦闘能力を鍛え上げれば、こなせるようになるため、割と簡単だ。

他には、今はレーベルやカイトが担っている、魔獣の解体。

日本にも食肉加工工場なんかがあったように、機械化、つまりゴーレムに任せることも可能ではあるだろう。



また、人型にこだわらなければ、様々な用途が思いつく。

例えば、拠点にいくつか設置してある出入口。これをゴーレムにするのはどうだろうか・・・?

現状、出入の度に、入り口を塞いでいる土壁を消してまた塞ぐことをしている。

『土魔法』で壁を作ることに、もはや負担を感じないが、これをゴーレムにできたら・・・


出入の際は、ゴーレムに動いてもらえばいいので、毎回壁を破壊し作る必要が無くなる。

それに今後、ゴーレム作りに関する知識が増えれば、出入口を通る者の判断・選別や外敵の排除を任せることができるかもしれない。

要するに、身分証が必要な自動ドアと警備員を兼ねた存在となるわけだ。





ゴーレムの用途について、夢は広がるが、まずは人型ゴーレムの検討だ。

個人的には見た目をなんとかしたい。

現状は、顔がなく、素っ裸で軽快な動きをする二足歩行の茶色い物体だ。

・・・・・・・・・怖い。

それに、手や足など、今後ゴーレムに仕事を覚えさせていくにあたって必要な改良をする必要がある。



とりあえず、一旦完成したゴーレムに改良を施すことができるのかを試す必要がある。

仕事を教える、という内面的なことは、本にも可能であると書いてあったが、外面的な部分、ゴーレムの身体自体を改良できるのか、試さなければ・・・



ゴーレムに触れところ、土を押し固めたような、硬くザラザラとしたような触り心地であった。

胴体、腕や脚などは土人形の状態とあまり変わらない。

・・・まあ、土人形作るときに、気合い入れてかなり強固に作ったからね。


一方で肩、肘や膝など可動する部分は、球体状の関節へと変化していた。

その球体状の関節がどのように腕なんかを結合しているのかは不明だが、ゴーレムが滑らかに動いていることや引っ張ってみても外れる様子は無いので、問題ないだろう。

もしかしたら、魔力により結合しているのかもしれないしね・・・



これらの土人形時点から変化した箇所は、『ゴーレム生成の魔法陣』によって生み出されたのだと思われる。

つまり、核となる魔石に書き込まれた命令式を参考に、当該ゴーレムに必要な身体構造が、『ゴーレム生成の魔法陣』の効果として作り出されたのであろう。

このことから、核となる魔石に命令式を書き込む段階で、そのゴーレムの役割をある程度決めておく必要があるのだと思われる。

二足歩行で軽快に動き回る身体構造のゴーレムに、拠点の出入口の壁を任せるわけにはいかないのだ。





ゴーレムに顔を作ろうと考えたときに、まず困ったのが機能面をどうするかだ。

目や鼻を取り付けたとして、その目は事物を認識する能力を有する必要があるのか、鼻には呼吸や匂いを嗅ぐ能力が必要となるのかだ。

ゴーレムに確認したところ、目が無くても空間を認識し行動することは可能なようだし、ゴーレムは呼吸をしないだろう。

匂いを感じることができたら便利かもしれないが、そんな能力を付与する術が分からない。



そのため、見た目だけ、単に怖く無いように顔を作るだけとなる。

であるならば、鼻はいらないかな・・・・・・・・・

のっぺらぼうだから怖いだけで、目があればそこまで怖くないと思うのだ。

目を作る方法としては、宝石のような物を取り付けるのが無難であろう。

そして、宝石のような物として思いつくのは、魔石しかない。



宝物庫に保管されている魔石の中には、解体時に砕けてしまったり、そもそも狩りの段階で体内の魔石に石弾が命中したりして、小さな欠片になっているものが多数ある。

その中から適当な大きさの魔石を見繕ってきて、加工していく。

形は何でも良かったが、選んだ魔石が楕円形に近かったので、なるべく2つの形や大きさが似るように、石で作ったヤスリで削っていく。


大まかに形ができたら、それをゴーレムの顔の上部にそれぞれ取り付ける。

『ゴーレム生成の魔法陣』を使用した後でも、『土魔法』によって魔石をはめ込む窪みを作ることができたので、取り付けは簡単だった。

もっとも、かなりの魔力を持っていかれた。

『ゴーレム生成の魔法陣』を使用し、ゴーレムとなった土人形は、“土”とは異なる物質ということだろうか・・・?



なにはともあれ“目”の設置が完了した。

そこで、ゴーレムに何か変化があるのかを聞いてみたが、「変化なし」との回答だった。


魔石は様々な色に輝くことがある。

これは、魔力を魔石に通したり、魔石から魔力が流れたりする時に発光するのだと推測される。

魔力が循環していると思われるゴーレムの一部となった目の魔石も、「何らかの発光くらいするのでは?」と思っていたので、少し残念だった。

取り付けた魔石自体も、ゴーレムの一部というよりは、「なんか、くっついている」という感じだし・・・・・・





「コトハ姉ちゃん、魔法は使わないの?」


ゴーレムを見ながら悩んでいると、ポーラにそんなことを言われた。


「・・・魔法って、『ゴーレム生成の魔法陣』のこと?」

「名前は分かんないけど、最後に使ってたやつ! あれで完成するんでしょ?」


・・・・・・・・・なるほど。

てっきり、『ゴーレム生成の魔法陣』はゴーレムを作り出すときに使うのだと思っていたが、その本質がゴーレムの各材料を結合し、一体の魔法生物として生み出すことにあるのであれば、ゴーレムの身体に手を加えるごとに使う必要があるのかもしれない。

改良した箇所、新たに取り付けた箇所をゴーレムの一部として組み込むために、再度魔法陣を使わなければならないということか・・・





ポーラに礼を言って『ゴーレム生成の魔法陣』を発動する。

光が消えゴーレムを見ると、2つの目が、赤く輝いていた。



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