第55話:防御を考えよう1

クライスの大森林に入ると、追っ手がいないことを確認する。

まあ、いくら王子殴ったヤツが逃げたとしても、侵攻前に森に入ってくるとは思ってなかったけど・・・


「いやー、スッキリした。あのクソ王子、無様に吹っ飛んだねー」

「うん! コトハ姉ちゃん、かっこよかったよ!」

「はい。当然の報いでございます」

「・・・まあ、そうだね。スッキリしたのは確かだよ」


こういうとき、普段は呆れるカイトですら、満足そうにしている。

まあ、当然だよね。


「でも、最初は、めちゃくちゃ煽るし、どうなるかとヒヤヒヤしたよ」

「しょうがないよ。あいつらめっちゃ失礼だったし」

「・・・まあ、そうだね」


王子だからって何でも許されると思うなよ?

いや、王政のこの国では許されるのかもしれないが、そんなことは関係ない。

そして、あいつは絶対モテない。


本当はもう少しボコボコにしようかと思ったが、取り巻きとまで戦うのは面倒くさかったし、援軍でも来たら大変だ。

それに、カイト達のことを気づかれるのも困る。



「とりあえず。拠点に帰って、対策を考えよう!」


そう言って、急いで拠点へと歩を進めた。

それから2日後、懐かしい我が家に到着した。



 ♢ ♢ ♢


〜侵攻軍陣地内、ロップス王子の天幕にて〜


「・・・なにが、あった?」

「ロップス殿下! お目覚めになりましたか!」

「・・・レンロー侯爵? ここは?」

「陣地にある、殿下の天幕でございます。あの失礼な女に殴られ、気を失われた殿下を、ここまでお連れしました」

「そうだ、あの女は!? もちろん、捕まえたんだろうな?」

「・・・それが。申し訳ありません。殿下を殴った直後、従魔に煙を出させて、その煙に隠れて逃亡しました。どうやら、クライスの大森林に逃げ込んだようでして・・・」

「クライスの大森林に? ふん。なら今頃は、魔獣どもの腹の中か。この手で殺してやりたかったが、まあいいわ。クライスの大森林に、魔除けの魔道具を持たずに入るなど自殺行為であるからな。レンロー侯爵よ。此度の一件は、他言するでないぞ。同伴していた騎士達にも念を押しておけ」

「承知致しました・・・」





〜同、軍務卿ラッドヴィン侯爵の天幕にて〜


あの者は一体何者なのだ。

ロップス殿下を、殴り飛ばした女性。

軍務卿であり、これまで多くの騎士達を見てきた。それに自分もそれなりの腕があると自負している。

その私が、全く目で追うことができなかった。

ロップス殿下が女性に斬りかかろうと剣を振り上げ、気がついたら、ロップス殿下は、吹き飛ばされていた。


彼女は、ロップス殿下のことを知らなかったようだが、知った後も毅然とした態度であった。

話している様子を見る限り、殿下の顔は知らないが、殿下のことは知っているように思えた。

最初の殿下の言葉が、王子であることをおいておけば、失礼極まりないものであったことは確かだが、それにしても、敵意が丸出しだった。

その後も、完全に殿下を煽り、攻撃させようとしていた。

おそらく目的は、攻撃してきたところを、返り討ちにするため。


勝てる確信があったのであろう。

それに、推測だが、周りにいた騎士達が全員で攻撃しても、勝てると踏んでいたのであろう。

彼女の横にいた男性。執事服に身を包み、終始、後ろにいた2人の子どもを守る動きをしていたが、彼も相当の実力者であろう。

それにあの子たち、どこかで見た覚えがあるのだが・・・


そして最後は、あろうことかクライスの大森林に逃げていった。

一時的な避難場所なのか。

確かに、彼女の実力であれば、クライスの大森林の魔獣や魔物でも、戦うことができるのかもしれない。

しかし、なんとなく、そうではない気がする。

あの感じは、まるでクライスの大森林に住んでいるように思えた。

仕方なく逃げ込むのではなく、味方の陣地に逃げ込む、そんな風に見えたのだ。


あり得ないことだが、彼女がこの遠征の一員であれば、どれだけ安心できたことだろうか。

まあ、王子を殴ったのだし、罪人として探されるのだろう。

いや、王子の名誉の為に、無かったことにされるのかもしれない。

いずれにせよ、彼女を雇うことは叶わないだろうがな・・・


4日後に、いよいよ進軍を開始する。

無理だと分かっていても、どうにか中止にする術がないかと思ってしまうが・・・



 ♢ ♢ ♢



昨晩は、買ってきたマットレスとシーツを備えたベッドでゆっくり寝ることができた。

久しぶりのお風呂も最高だった。

貴族の家は知らないけど、『剣と盾』にもお風呂は無かったのだ。


今日は、攻めてくる軍隊の対処を考える。

本当はトイレの改装をしたいのだが、いつ攻めてくるかも分からない軍隊対策が先か。



「とりあえず、『アマジュ』の群生地は守った方がいいよね」

「・・・うん。貴重な木の実なのはそうだし、あれがあると、侵攻が長引くから」

「・・・そっか。怪我しても、アレ食べたらすぐ回復しちゃうもんね・・・」

「うん。『アマジュ』は死守だと思う。後は、拠点の周り?」

「そうだねー。罠でも作ろうか・・・? とりあえず、『アマジュ』が生えてる周りを、最大パワーの土壁で封鎖しておくね」



『アマジュ』の群生地に行き、『竜人化』してから、『土魔法』で壁を作り、四方を囲っておく。

蓋をしてもよかったが、植物から日光を遮るのも良くない気がしたので、上は開けておく。


「・・・・・・でも、これを見つけたら、中を確認しようと思うよね」


まあ、私なら中を見るよな。

うーん、返しを付けておこうかな。

作った土壁の上に、『アマジュ』がある囲いの中側とは反対方向に、土の板を付ける。

これでかなり登りにくくなったはずだ。

・・・まあ、見た目の怪しさは抜群なんだけどさ。

棘でも付ける?

でも、足場になるだけか・・・?

難しいな・・・





・・・・・・うん、毒だな。

リンを連れてきて、正解だった。

土壁の周りに、深さ50センチ、幅3メートルほどの穴を掘っていき、その中にリンの作り出した強力な毒液を流し込んでいく。

本当はもう少し深くしたかったが、これ以上掘ると、木の根を傷つけてしまいそうだったのだ。

ここを守りきれても、『アマジュ』が枯れたら意味がない。

なので、毒の面積を広くして、足を踏み入れることができないようにしておいた。

ついでに、土壁の表面を、なるべくツルツルにしておく。

これで、仮に壁に到達しても、滑って毒池にドボンだ。



次は、拠点周りの防衛力の強化かな・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る