第46話:人助けをしよう
翌朝、野営地にしていた森に、冒険者が入ってくると困るので、早めに行動を開始する。今日はいよいよ、領都に行くことになる。
そういえば、領都にリンは連れては入れるんだろうか?
リンは魔物だし、間違って攻撃されたら困る。
まあ、そのときは、リンの酸液や毒液で、その攻撃してきた人が消えて無くなるだけなんだけどさ・・・
その人が、本当に魔物が侵入してきたと誤解しての行動なら、申し訳ないからね。
そう思い、カイトに確認してみると、
「リンはお姉ちゃんの従魔でしょ? なら入れると思うよ。あーでも、従魔登録しなきゃダメなのかな?」
「従魔登録?」
「うん。魔獣や魔物と従魔契約した人は、その魔獣や魔物が自分の従魔ですっていう登録をするんだよ。従魔にもその証を付けて、間違って攻撃されるのを防ぐのと、もし従魔が暴れたときは、契約者の責任になるんだよ」
「なるほど。じゃあ、私もリンを従魔登録すればいいのね」
「うん。けど、従魔登録には市民登録か、冒険者登録が必要だった気がする、ような・・・? ごめん、そこまでよく覚えてないや。でも、町中でスライムや、『スレイドホース』はよく見るから、リンを連れて入ることもできると思うよ」
「そっか、よかった。・・・っていうか、『スレイドホース』って?」
「大きい商会なんかがよく従魔にしている、馬型の魔獣だよ。馬よりも体力があって、走るスピードも速いんだって。位の高い軍人とかも乗ってるかな」
「ふーん。馬か・・・」
もし頻繁に町に来るなら、馬が欲しいかもしれない。
毎回、この距離を歩いてくるのは面倒くさいのだ。
「コトハ様。先程のリン殿についてですが、登録の際は、本当の種族『オリジンスライム』は隠し、単にスライムとして登録することをお勧め致します。『オリジンスライム』は稀少なため、よからぬことを企む輩が現れる可能性があります。単にスライム、毒を吐けますので、『ポイズンスライム』として登録しておくのがよろしいかと」
「おっけー、わかった」
「それからコトハ様ご自身の種族も、決して、『魔竜族』であることは明かさぬようにお願い致します。『人間』か、『魔族』として登録するのがよろしいかと思います」
「んー、わかった。まあ、見た目は『人間』だし、『人間』でいいか。あーでも、何かの拍子に『竜人化』する可能性もあるから『魔族』の方が安全か。ラシアール王国なら、『魔族』でも問題ないらしいし」
「うん。レーベル、僕たちは『人間』で大丈夫だよね?」
「はい。お二方は、種族自体は依然として『人間』ですので。まあ、そのうち種族が変わる気も致しますが・・・」
「・・・え!? 種族って変わるの?」
「はい。身体構成が大きく変更された場合に、種族が変わった例はございます。といっても、カイト様たちのように、魔素の影響を受けた、『人間』が『魔族』に変わった例がほとんどですが」
「・・・・・・なるほど。それなら、カイト達もそのうち『魔族』になりそうだね」
「そう、なの、かな?」
そうか。種族って変わるのか。
つまり、私の『魔竜族』も変わる可能性があるってこと?
なんかゲームとかの進化や覚醒みたいでワクワクする。
でも私の場合、すでに、『魔族』要素と『龍族』要素は持ってるんだよなー
「ねぇ、コトハ姉ちゃん。『セルの実』どこで売るの?」
「・・・・・・・・・あっ! どうしよう。入り口で売れるかな?」
「うーん。無理だと思うなー。入り口、っていうか詰め所では買取りはしてくれないと思うよ・・・。それに、いまさらだけど、この4人とリンで詰め所に行ったら、絶対、変な目で見られるし、いろいろ聞かれるよね」
「・・・・・・本当にいまさらなんだけど!?」
カイト、最近はいろいろ冗談とか、ギャグとかも言うようになってくれて、嬉しいんだよね。
今まではどこか、命の恩人で、助けてもらっている相手って感じの振る舞いが多かったけど、最近は本当に“家族”になれたんだなって思うことが増えている・
・・・・・・って、いまはそんなことはいい。
『セルの実』を売って、入都税?とりあえず、町に入る税金を支払おうと思っていたのに、入り口で売れないんじゃ、入れないし!
「では私が、密かに塀を超えて中に入り、『セルの実』を町で売って、お金に換えて参りましょうか?」
そうだよねー
その方法しか思いつかないよねー
そう考えていると、歩いている道を、こちらに向かって爆走してくる馬車が目に入った。
よく見ると、何かに追われている?
「ねえ、あれ追われてるよね?」
「うん。二足歩行のなんかに・・・」
「あれは、・・・・・・『ナミプトル』という、魔獣ですね。二足歩行でかなりのスピードで走り、両手の大きな手で、攻撃します。クライスの大森林の外縁部に生息している魔獣です」
「・・・・・・ここ、クライスの大森林からは結構離れてるけど?」
「はい、なぜか」
クライスの大森林の魔獣がこんな町の近いところに出没したら一大事なんじゃないの?
「そんなことより、コトハ姉ちゃん。助けてあげるの?」
「・・・・・・・・・そーだねー。こっち向かってくるし、助けてあげようかー」
正直、どっちでもいいんだけど、ポーラの前で見捨てるってのもなんかねー。
それに、どうせこっち向かってくるんだし、クライスの大森林の外縁部に住むっていうことは、そんなに強くないってことでしょ?
「けど、私たち3人それぞれ、戦ってるところあまり見られたくないから、レーベル頼んでいい? 魔獣倒して、追われてる馬車、助けてあげる感じで」
「承知致しました」
そう言うとレーベルは、手元にビー玉ほどの大きさの、小さな塊を作り出した。
多分だけど、『土魔法』かな。
それを、追っているナミプトルめがけて発射した。
レーベルの放った小さな弾丸は、ナミプトルの眉間を撃ち抜き、一撃で息の根を止めた。
・・・・・・いや、なに、そのコントロール。あの魔獣、結構なスピードで走ってたよ?
それに、あんな小さい弾、よく当てられるね。
威力もちゃんとあるし。
けど、私みたいに、頭が爆散して消えることもない。ポーラが目指しているのはこんな感じなのかな?
改めて、レーベル、すごいな・・・
「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました・・・」
「・・・」
「・・・あ、いえ。間に合ってよかったです」
なんでレーベルは応えないの?
私の命令だったからやっただけ、的なやつ?
レーベルが助けた馬車に乗っていたのは、お礼を言ってきた男性を含めて3人。
なんでも、この男性 ―見た目から判断して、おじさんー は、さっきの陣地を築いている最中の軍隊の所に、物資を売りに行く最中の商人なんだとか。
名前はトレイロ。トレイロ商会という商会を営んでいるらしい。
残りの2人が護衛の冒険者。
ナミプトルは、この人たちでは歯が立たないらしく、逃げるしかなかったが、馬の体力も限界で、危ないところだったらしく、冒険者の2人にも、めちゃくちゃお礼を言われた。
馬車を引いていたのは、馬型魔獣のスレイドホース、ではなくてただの馬だった。なにげに、魔獣や魔物じゃないのって初めて見たかも?
ここで、私たちはなんて自己紹介するべきかを迷ったが、カイトが、
「僕はカイトといいます。こっちは姉のコトハと、妹のポーラです。先程、ナミプトルを仕留めたのは、僕たちの執事で護衛のレーベルです」
と、代わりに紹介してくれた。
・・・姉か。嬉しいねー
まあ実際、これが一番無難だろう。
顔が似ているかはともかく、私たち3人は兄弟姉妹だと言われても違和感はないだろうし、レーベルは見たまんまだ。
3人も特に違和感を感じている様子はない。
と、思っていたら。
「そ、そうなのですね。しかし、皆様はここでなにを?」
あ。
まあ、そうなるよねー
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