第四和【邂逅】

 すっかり深い眠りに落ちた私に、誰かが呼びかけてきた。


「起きてぜ!愛衣あい!」


 枕元にトライブが立っていた。


 えぇ〜?と呂律の回っていない声が出る。


 私は夜も朝もめっぽう弱い、昼は強いぞ。


「時がきたぜ、いいから起きるんだぜ!」


 回らない頭を動かしながら立ち上がり、トライブに引っ張られるままに外に出た。


 あ、靴履くの忘れちゃった。




 扉を開けて、うすらぼやけていて視界が澄み切って、家の前には、ドラゴンがいた。


「え」


 私より高く、車二台分ほど長い、そんな大きすぎるトカゲみたいなドラゴン、羽が生えてないし、ただの大きすぎるトカゲなのかもしれない。


 まだこちらには気付いてないようで、我が家の前を左側へと横切ってしまいそう。


 このままどっか行ってくれ。


 てかなんでトライブは私を起こしたんだ?


「おい!俺が相手だ!リグリフィット!」


 その声に呼応して、ドラゴンがこちらを睨んできた。


 は?なにやってんの?


「リゴオオオオオオオオオオ!!!」


 巨体を振り回すように動かし、こちらに顔を向ける。


「愛衣、戦うぜ!」


「え」


 まともな声は出なかった。


 大きすぎるドラゴンがこちらに突進してきた。


「ひゃああ!?」


「大丈夫ぜ!」


 トライブがその小さな体で受け止めた。


 その揺れがこっちまで伝わってくる。


 どこにそんなパワーがあるのやら。


愛衣あい!俺のそばにあった石を!」


「え、ごめん知らない」


「え?」


 トライブがドラゴンを突き飛ばす。


「何か光ってるものなかったぜ?」


「なかったと思うけど...今必要?」


「...必要ぜ」


「さ、探してくる!」


 ドラゴンの尻尾方向へ、トライブを見つけた場所へ走り出す。


 そんな石あったっけ?


 小さな子どもが拾ったとか?


 トライブしか見えてなかったかも...


 出会った場所に行けば見つかるかな?


「愛衣!危ないぜ!」


 なにが?と思い、振り返ると、小さな火の玉がいくつも飛んできていた。


「あっつ!」


 頭を屈めようとしていたのと、驚いてしまったのとで、バランスを崩して転けてしまった。


 擦りむいて転んだ傷と、右腕を火の玉が掠った際の火傷が痛む。


「背中見せちゃダメだぜ...愛衣...」


 そう言いながらトライブが駆け寄ってきた。


 待って...


「トライブ、それあなたもじゃ?」


「あ」


「リゴオオオオオオオグ!」


 大きすぎるドラゴンがこちらに駆け寄ってきた。


 思ったよりも速い。


「しゃーない、行くぜ!」


 トライブが私を持ち上げて走り出した。


「うひゃぁ!?」


「俺を拾ったのってどこだぜ!?」


「えーっと...このまま進んだ先の公園前!」


「わかった!」


 トライブすごいな、身長一メートル有るか無いかの体に私を持ち上げれるパワーが詰まってる。


 それに、私を運びながらドラゴンから逃げれるほどのスピードで走ってる。


 さっきリグリフィットとか呼ばれてたドラゴンは、頭と尻尾を横に振りながら追いかけてきている。


「ねぇトライブ!あれなんなの?」


「俺みたいなヤツだぜ」


「トライブみたいなヤツって...わかんないよ...」


「え?俺を見ても驚かなかったからてっきり知ってると思ったぜ」


「よくわからない動物ってことは知ってる...」


「まぁそれでいいぜ、アイツの頭を見てぜ」


 そこには、月白色に光る宝石のようなものが埋まっていた。


 街灯ほど明るくはないものの、夜の星よりは輝いて見える。


「あれと同じものを探して欲しいぜ」


「うん...」


 あったかなぁ...


 少なくともトライブの周りにはなかったと思うけど...


「あの公園であってるぜ?」


「あってるよ」


「じゃあおろすぜ」


 そう言ってトライブは頭の上に持ち上げていた私を地面に置いた。


「頼むぜ!」


 走り出したトライブは、ドラゴンへと向かっていく。


 その背中は、どこか、震えているように見えた。

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