第109話 口の述
「それでどうなったの?」
興味津々で加奈は訊ねた。
「それから...。」
ダニエルは過去に上陸した『タコ型怪獣』について事細かく語っている。
加奈程ではないが平太郎もその語りに耳を傾けていた。
「そうしたら確か...カマキリ型のもう片方の鎌が横になびく様に地面に引き摺る『タコ型怪獣』の頭部をパッカーンて切り落としたんだ。それで怪獣は完全に萎れて倒したって感じだったはず。」
「ふーんなるほどね。」
口調こそ冷静だが加奈のその顔はとても満足げであった。
「すごいね。ダニエルはこの時まだ生まれてないだろうによくここまで詳細に言えるね。」
「まあ、そういうのを見たり聞いたりが好きなだけさ。」
頷きながらすっかり冷めてしまったコーヒーを平太郎が口に運ぶと携帯の鳴る音が聞こえた。
「おっと、稼ぎの時間が来たようだ。まだまだ話し足りないが今日はここで。」
ダニエルはそう言うとカウンターの椅子に掛かっていた上着を手に取る。
「マスター。お代はツケで。」
「はい。」
彼は急ぐ様に扉を開け、店外に出ると姿を消した。
「なんか嵐の様な人だったね。」
「うん。」
加奈の言葉にそう同意すると窓の遠くの方で小さく走るダニエルが見えた。
「そう言えば平太郎に話したいことがあったんだ!」
それから家族のことや、加奈は学校、平太郎は会社の事を日が傾くまで共有した。
「やっぱり新しく出来た友達と話すのも楽しいけど、平太郎と話すのは格別だよ。」
「それはその人たちより俺の方が関係が長いからじゃない?」
「そうかもしれないけど、なんか自然体でいられるんだよね。怪獣とか面白いのに皆と話すときは話題を選んであんまり言えなかったりするしさ。」
「それじゃあ定期的にここに来るよ。俺も加奈と話したいし。」
「いいの!?素直に嬉しいな。」
「そう?」
二人が話していれば店内の時計が午後五時を知らせる時報を鳴らせた。
「加奈さん。今日はもう上がっていいですよ。」
チャイムが鳴り終わるとカウンターからマスターのそう言った声が聞こえた。
「はい、わかりました!」
窓の外に広がる空は徐々に暖色に染まっている。
「それじゃあ、エプロン脱いでくる。」
「あ、俺も帰るから着換え終わったら教えて。一緒に帰ろう。」
「了解。」
加奈は敬礼する様に手を動かすとキッチンの奥に入っていった。
少しして加奈が戻ってくると二人は一緒に店を出た。
そして平日初日の朝。
丸一日外出もしない完全なる休息を得て、爽やかな早朝を迎えられた平太郎。
二日前の加奈とのやり取りを脳裏に浮かべながら、朝食やら歯磨きやら支度を済ませていく。
「よし行くぞ。」
車の助手席に平太郎は座ると源三の運転で会社に向かった。
「平太郎君。こっちに企業さんの名前を書いてもらって。」
爆撃も衝撃も無縁な日には平太郎も時折デスクワークに勤しむことがあった。
元より会社では外回りの多い源三であるが、今日もその例に洩れず出勤次第どこかに行ってしまった。
今日の様に彼が自分の机を空けている日には平太郎が代わりにパソコン作業をすることが往々にしてある。
今は社長の指示に従いながら簡単な資料を作っていた。
「あ、なんかメール来ました。」
「あーこれね。じゃいつもの感じで返しといてくれる?」
「は、はい。」
向い合せに座る友子は平太郎の画面を確認すると、口頭で返信内容が伝える。それを平太郎はキーボードで文字に変換していった。
平太郎に出来る容易な仕事は粗方片付いた。
源三の椅子で伸びをすると時間を確認する。
お昼にかなり近づいたがまだ源三は帰ってくる気配がない。
そんなことを椅子の上で考えていれば社屋の呼び鈴が鳴った。
「お昼ご飯の配達でしょうか?」
「あ、俺が出ますよ。」
「すいません。よろしくお願いします。」
平太郎は軽い駆け足で扉まで向かう。
なんだかんだで配達を受け取るのも軽い掃除をするのも平太郎の仕事になっていた。
「はーい。」
「すいませーん。こちらお弁当の...って平太郎じゃねえか!?」
「どうしてダニエルが?」
扉を開けた先には、お弁当の入っているだろうと思われる大きな袋を引っ提げたダニエルがいた。
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