第100話 再の燃
家に着くと源三は、平太郎の為に風呂を沸かした。
平太郎が入浴の準備をしている合間に源三は自室兼寝室に入った様で、部屋の前を通った時にはもう明かりも消えていた。
あんなに酒を飲んだ後なので相当眠かったのだろう。
そんなことを思いながら風呂場の扉を越える。
平太郎は浴室に暫し一人になると途端に心がざわついた。
普段は人に感情的にならない性分なので変なことを言ってないかとか、受け手はどう思ったかなど、聞き手話し手の双方の観点で心配になった。
一通り体を洗い終わると浴槽に入る。
そこで平太郎は脳に渦巻く考えを断ち切るべく強く目を瞑った。
目の前は真っ暗になる。
少しして目を開けるとその様な考えは脳裏の奥に消えていって、徐々に爽やかな気持ちに置き換わっていく。
心の内を表に出したこともその一因だろうが、兎にも角にも源三が戻ってきたようで心底嬉しくなった。
「良かった...。」
そう漏らすと、源三に対する不安が湯船から発生する湯気と共に立ち昇って消えていく様だった。
風呂を終えると居間に戻る。
普段であれば源三の姿があるのだが、例のごとく今日はない。
世間では夕飯時を少しだけ過ぎた辺りの時間帯。
今すぐ寝るのはどこかもったいないように思えた。
なので平太郎は台所の棚からお菓子類をテーブルの上に移動させる。
せっかく居間を独占できる機会を平太郎は活かす他なかった。
リモコンと菓子をそれぞれの手に持つととても有意義な時間を過ごした。
翌朝。電子レンジで加熱された料理のおいしそうな匂いで目を覚ます。
居間に向かうといつも通りの源三の後ろ姿が見えた。
「おはよう。」
「おお、起きたか。おはよう。」
それだけ言うと平太郎はテーブルを囲う座布団に座った。
体を伸ばしたり、指で目やにを取っていればいつの間にか目の前に料理が並んでいた。
「よし!食おう。」
二人は手を合わせてから料理に手を付けた。
「なんだか、ここ最近の曇った気持ちってのが知らぬ間になくなって軽やかな気分なんだよ。」
箸を止めると源三は窓の外に広がる鮮やかな青空を見てそう言った。
「きっと昨日お酒をいっぱい飲んでストレス発散になったんだよ。」
どうやら昨日のことは覚えていない様だが、源三に宿っていた暗い気持ちは確実になくなっていた。
「今日もどこか出掛けるか?天気もいいし。」
「うん。...お昼は何がいいかな?」
「まだ、朝ご飯中だってのにもう昼の予定かー?なんだか友子に似てきたような...。」
「気のせいじゃない?」
二人は服を着替えると日差しの暖かい外の町へと繰り出した。
「大丈夫なんですか、もうメカで出撃して...。自分はまだ止めた方がいいじゃないかなと思うのですが。」
それから数日。怪獣上陸予報が出され、毎度の如く戦いに出る企業の招集が始まった。
「どこに心配することがあるですか社長!見ての通りどこも悪いとこなんてありませんし
「とは言っても...。」
社長は困った様に平太郎を見た。
どうやら源三のことが心配で闘いへの参加を渋っている様子。
「ほら。大丈夫って平太郎も言ってくれよ。」
源三と社長の目線が一点に集まり板挟み状態になる。
「その...。今回もし出るとすれば『オオガ』になりますよね?」
「『ニ・モ』は修理中ですしそうなります。」
平太郎の質問に社長が返答する。
「だったら大丈夫ではないですか?何せ特注のメカで性能も装甲も『ニ・モ』よりも上ではないですか。」
「そうかもしれませんが...。」
平太郎の言葉を受けた社長は一度、源三の方を向いた。
源三の熱い視線を目の当たりにした彼は「良いでしょう」と頷いて了承する。
その言葉を聞いて平太郎と源三は目を合わせて喜んだ。
「こうしてみると二人は案外、似ているのかもしれませんね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます