第67話 完の了

「いやー負けてしまいました。」


 格納庫で待っていた社長に源三はそう告げる。


「そんなことより、今日も二人が無事で帰って来てくれたことが何よりです。」


 社長はそう言って二人を見た。


 目が合ったので平太郎は何となく会釈をした。


「そうだ。この後空いていますか?予定。」


 再び源三に目を向けると社長から珍しく何らかの誘いを受ける。


「空いてるよな?」


「うん、一応。」


 源三の問いに答えると社長は喜んだ様に手を打って話を続けた。


「それは良かった。これから我が社の『熊型メカ』を取りに行くところだったんですよ。」


「修理が終わったってことですか?」


「はい。それで一緒にどうかと。」


 そういえばこの事は加奈から知らせてもらっていたが、源三には何の情報もいってなかったのだろう。


 何だか蚊帳の外にしてしまったようで申し訳なくなると共に、せめて彼女からの言葉だけでも伝えておけばよかったと過去を振り返る。


 すると意識の外から源三の声が聞こえた。


「どうした平太郎?浮かない顔して。ほら行くぞ!」


 背中を叩かれる様にして押される。


「わかってるよ。」



 三人は地上に出ると社長が乗ってきたであろうワゴン車に乗り込み居住区の中心。巨大エレベーターのある狭間島一区に向かった。


「地下でメカは修理しているんでしょ?」


 同じく後部座席に座る源三に平太郎は訊ねる。


「そうですよね、社長?」


 バックミラー越しに社長は頷いた。


「だってよ。」


「だったら地下のままそこに移動すればいいんじゃ?もしかして地下って交通手段がないとかそういうこと?」


「ああ。ごめんなさい。現地で別々に帰ろうかと思って。一応格納庫から地下街までは複雑だけど繋がっていますよ。」


「そうなんですね。」


 源三に聞いたつもりだったが運転席の社長が答えてくれた。


「俺たちは戦闘区からの方が近いから帰りは『オオガ』に乗って地下から帰ろう。」


 会話から事情をだいたい把握した。


 ふと車窓を覗くと外の建物の背が伸びていて、いつの間にか巨大エレベーターのある島最大の都市部に車は入っていた。


 いつもの通り立体駐車場に車を駐め、巨大エレベーターに乗り込む。


 下降をし終え、扉が開くと見渡す限り暗闇の中を四方八方にパイプが広がっていた。


 その下には人々の営みの灯りに照らされる通りがあって、三人はそこを通って目的地に向かった。



「すいません。」


 社長を先頭に大きな工場に入っていく。


「お待ちしておりました。動作も問題なく修理を終えましたので、是非ご確認を。」


 そこにいた作業服姿の人にさらに奥へと案内される。


 入り口付近の事務的な部屋を抜けると、見上げる程高い天井の整備場に出た。


 複数の鎮座するメカの周りには足場が伸びていて、整備士の人が渡っているのが見える。


 さらに奥に進むと二メートル弱開いた巨大シャッターがあり、その下を進むと遂に大きな黒い巨体が姿を現した。


「おお。」


 久しぶりに見てもその存在感。空間を支配するような威圧感と緊張感のようなものは変わらない。


 修理箇所の説明のため、作業服の人に着いていく形で『オオガ』を一周する。


 するとメカの側面に見慣れない溝が見えた。


 平太郎が疑問に思うと同時に整備場の人の説明がされた。


「あそこに新しく背部と腹部を繋ぐようにレールをいれたんです。」


 彼の指が溝を指す。


「どんな利点があるんです?」


 社長の問いに彼は言葉を続けた。


「例えば左右に一つずつしか装備出来なかった小型ミサイルが、平均的な大きさで大体十六発搭載できるようになりました。上半分と下半分で独立した動きができるので発射されては装填される。そのような動きができます。」


「なるほど。」


「それに。例えば背部に装備したビーム兵器などを二足歩行モード時に半周させれば腹部から放つことも出来るのです。その分長い動力線を使わねばなりませんが。」


 鬼に金棒。そんな改修が施された熊型メカ『オオガ』であったが、それでも平太郎の中にはその敗北経験からかこの機体には一抹の不安があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る