第55話 低の温
地面に伏せるような『カエル型怪獣』は異様なほど身体が発達して大きく、その分脚部は成長が途中で止まったかのように、身体に対して小さく見受けられる。
身体は全身濃いダークイエローのような色。
モニターでズームして見ても特に機敏でもなければ特別強いようには見えない。
だが日中から日が沈む直前まで戦った企業は倒せなかったのだから油断はできないはずである。
「平太郎君。その怪獣は口から極低温の冷気を吐くそうですので気を付けて!」
社長からの無線がそう言っているそばから『カエル型怪獣』は口を開けてこちらに照準を合わせている。
急いで射線から外れるように大空へと逃げる。
その片手間。夜戦に備えてメカの前方ライトをつけておく。
モニター画面には夕日の四分の三が海に沈んでいる映像を映していた。
怪獣はゆっくりながらも上空を飛ぶ『ニ・モ』に狙いを定めようと動かしている。
すると次の瞬間。胴体をほんの少しだけ縮ませる動作をすると同時に、口から冷気を一直線上に放射した。
本来それは目に見えない無色透明のはずだが、余りの低温のせいかそれに触れた気体が瞬時に液化して更にそれが冷やされ凝固し白い雪のようになって冷気の軌道が可視化される。
光線のように一直線に伸びる白い冷気は『ニ・モ』を追跡する。
「あれに当たったら本当に死ぬかも。」
兵器を搭載している事が理由か、使い古された事が理由か、試験の時の機体よりも操作性が鈍い。
必死に逃げているはずだが冷気の線との距離が徐々に近づいているように感じる。
モニターには光線のような冷気ばかりが映っていて怪獣の姿はとても小さくなっていた。
いつの間にか怪獣との距離がかなり離れてしまったよう。
「このままじゃ!」
一か八か、反対方向に操縦桿を切り一瞬だけエンジンを停止させる。
銀色の昆虫型メカは飛行を止め、急速に落下速度を上げる。
落下する中、機内の平太郎は手が離れないように操縦桿を必死に握った。
真上にある怪獣の吐く冷気との距離が徐々に離れていく。
「今だ!」
高度を格段に落としたところで、エンジンを再び全開に起動させて物凄い勢いで怪獣の後ろ脚に向かって水平に飛んだ。
怪獣は急いでメカに照準を合わせようとするがいつの間にか死角に入られ冷気を浴びせることが出来ない。
冷気の追跡が途絶えたことを知った平太郎は横腹に狙いを定めて弾丸を連射した。
『カエル型怪獣』の皮膚に弾が通過した穴が幾つも付く。
さらに射撃をしようとしたその時。
その銃創から冷気がこちらに向かって放出された。
「うわっ!」
たまらず高度を上げて逃げる。
上空からカメラの倍率を上げて見ると傷はすっかりなくなり元通りの皮膚に戻っていた。
これが、これまで出撃してきたメカが苦戦してきたこの怪獣の強さ。
圧倒的な治癒能力と、傷口からの冷気の発射。
今までの闘ってきた怪獣とは違い特段、反撃・カウンター性能に秀でている。
改めて二人乗りメカの利点を実感する。
一人が逃げや操縦に専念して、もう一人が狙いを澄ませて撃つ。
これなら安全なところから一方的に攻撃ができる。
きっと源三たちもそのことに気がついて『ニ・モ』を二人乗りへと改造したのだろう。
怪獣の大きな眼にライトを付けながら空を舞うメカが映ると再び怪獣はそれ目掛けて冷気を放つ。
それに気が付き平太郎は小回りで避ける。
容易に近づくことができない知った今、距離を取りながら尚且つ一撃で仕留める方法を模索しなくてはならない。
しかしながら操縦に八割以上の神経をつぎ込んでいる状態では早々にそんな方法は思いつかない。
それでも弾丸の効果が薄いとなれば、倒す手段としては装着している発射型兵器での攻撃となる。
なにせ『カメ型怪獣』の甲羅を貫通するほどの威力を有するのだから急所にさえ当てれば一撃だろう。
そういえば怪獣の急所とはどこだろうか。
あまり深く怪獣のことを考えた事がなかった平太郎にはわからなかった。
それでも頭を失った怪獣が動き出したニュースを見たこともないし銃弾や武器で倒せるのだから生物と似たような構造なのだろう。
となれば、狙うは一点。頭だ。
平太郎はそれを実行する為、冷気の線を避けながら怪獣の上へと向かった。
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