第11話 反の撃

 『高出力ビーム砲』と接触、連結してからは『ニ・モ』のレバーが少し重く感じた。


「平太郎!ぶっ放してやれ!」


 意気揚々と源三が後ろの席に声を掛ける。


「うん。」


 さっきまでの諦めムードが噓みたいだ。


 モニター画面にはコンクリートの粉を浴びて白色化した『クマ型怪獣』が映っている。


 画面越しとはいえ、睨みを利かせる怪獣と目が合うのは恐ろしい。


 そんなモニター上に、ボタンと【ビーム砲を発射】という文字が浮かび上がる。


「このモニターって、タッチ機能ついてるの?」


 前方の操縦席に聞く。


「ああ。押せるよ。」


 だとすれば、この画面上のボタンを押せばビームが放出されるのだろう。


 しかしながら、『高出力ビーム砲』は『ニ・モ』の脚に固定されている。なので今まで通りに平太郎側で照準を合わせることができない。


 つまり、操縦者の源三と息を合わせなければビームを当てられないのである。


「平太郎!撃てそうか?」


「多分。だけどこっちじゃ砲身を動かせないから、モニターの中心に標的を合わせて

ほしい。」


「合点承知!」


 機体は小刻みに傾き照準を合わせる。


 だが、それを『クマ型怪獣』は黙って見てはいなかった。


 後ろ足で立ち上がると、身の回りに転がっているメカの残骸やコンクリートの瓦礫を手で圧縮して『ニ・モ』に向かって投げ飛ばす。


「危ない!」


 瓦礫の塊が自分に向かって飛んできたので、思わず平太郎は画面のボタンを押してしまった。


 ビームは真っ直ぐに『ニ・モ』から数十秒の間、放出され続ける。


 真っ赤な光線を浴びた瓦礫はその場で溶けて無くなる。それどころか、ビームはそのまま一直線に突き抜けて地面をも焦がしてしまう。


 それは平太郎に恐怖感を与える同時に、これなら確実に倒せるという安心感も与えた。


「よし撃ってくれ!」


 呆気に取られていた平太郎を源三が呼び戻す。


 どうやら照準が合った様子。


 再度画面に集中すると【60%】いや【61%】という先ほどまでは無かった数字が表示されている。


 その値は徐々に増えていて、その代わりにボタンは色が黒みがかっている。


 何となくではあるが、パーセントが百にならなければビームは撃てないのだろう。


「まだ撃てそうにないよ。」


 取り敢えず源三に伝える。


「そうか。ならどのくらいで撃てる?」


「うーん四十秒くらいかな。」


「わかった。」


 会話をしている最中も、源三は細かな操縦で襲い掛かる投擲物を器用に避けている。


 画面に【99%】と表示されたとき突如、何かにぶつかる音と共に『ニ・モ』が大きく傾く。


 衝撃音があった左側を見ると、そこは平太郎の座高程度の大きさで内側に歪んでいた。


「じいちゃん大丈夫なの!?」


 驚いて訪ねてしまう。


「まずいかもしれない。」


 源三の操縦が間違った訳ではない。確実に圧縮された残骸を避けられたはずだった。


 しかしながら、その塊はメカの目の前で二つに分裂した。


 そしてその片方が命中。

 

 『クマ型怪獣』は敢えて力を入れずに残骸を握ったのだろう。こうなることを見越して。


 

 『ニ・モ』は体勢を崩して地上に近づいていく。


 それに応じるように『クマ型怪獣』は前脚を地面につけ、メカに向かって四足歩行で突進する。


「一か八か!撃つしかねえぞ平太郎!」


 源三に発破を掛けられた平太郎は腹をくくる。


 もう後がないこの状況。目の前のモニターには牙を剝き出しにした怪獣の姿がある。


 唾を吞み込み、力強くボタンを押す。


 

 解き放たれた灼熱のビームは怪獣の眉間から下半身を串刺しにした。


 怪獣の力は抜けて前に転ぶようにして止まった。


 突き抜けた光線はここから約三十キロメートル以上先にある海上まで届いたようだった。


「よくやった。平太郎!」


 源三の疲れ切った声が、ビームの放出される音の後ろに聞えた。

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