第2話 流れ着いた漁村で

 ヴェルフリッツが気付くと、そこは薄暗い天井の下だった。

 ヴェルフリッツはゆっくりとその場所から起き上がる。


 すこししょっぱい臭いがする。


「海……か?」


 ヴェルフリッツが起き上がると、男の子と目が一瞬合い、そして男の子は叫ぶように声を出しながら。


「おねぇちゃ~ん、お兄さん起きたぁ‼」


 そういって部屋の向こうに走って行った。


 ヴェルフリッツが起き上がると、男の子はそこのよりも年上であろう女の子を連れてきた、たぶん姉と弟なんだろう。


「ダメよ、大きな声を出しちゃ」


 男の子に女の子はそう言った。


「チェ……」と言って男の子は黙りこむ。


「私はルティ、どこか具合が悪いところはない?あなた、浜辺で倒れてたのよ?」


 ルティは心配そうにそう言った。


 ヴェルフリッツは恐る恐る、腹を触り確認してみる。

 腹に傷などはなく、体のどこにも異常はなかった。

 そして、服も死に装束から簡素な服になっている。


「どうしたの?お腹が痛いの?」


 ルティが心配そうにヴェルフリッツに尋ねた。


「大丈夫です、介抱していただきありがとうございます、僕の名前は……」


 ヴェルフリッツはそう言いかけて考える。




 自分は父、オクトー・バーイヤーに殺されかけたのだ、不用意に名前を名乗るべきではない。


「ヴェルフと呼んでください」


 ヴェルフリッツがそういうと。


「ヴェルフのお兄ちゃん、よろしく‼おらはマディ、ヴェルフのお兄ちゃんはどこから来たの?」


 弟であろうマディはヴェルフリッツに尋ねてきた。


「ははは、どこだろうね、忘れちゃった」


 ヴェルフリッツがそう誤魔化す。


「マディ、ヴェルフさんを困らせてはだめよ」


 ルティはマディにそういった。

 少し散歩がしたいと、ヴェルフリッツはマディに言って、村を散策することにする。


 小さな漁村なのだろうか?


 浜辺では網などを干していたり、小さなボートが置いてあった。


 ヴェルフリッツは散歩しながら考えをまとめはじめる。


 (自分の見たことは夢ではないだろう、自分の胸には確かに氷の魔術が突き刺さり、もう間に合わなかった、たぶん自分は不死でなければあそこで死んでいただろう。)


 (おそらく自分が不死の力を得たこと、そして父であるオクトー・バーイヤーに敵視されてしまったこと。)




 (いっそのこと家を捨て、世界をめぐるか?それとも、オクトー・バーイヤーを説得するか。)


 (しかし後者は難しいだろう、ならば世界をめぐり、オクトー・バーイヤーを説得する方法をついでに見つけるぐらいでいいのではないだろうか?)




 ヴェルフリッツが漁村を散歩していると、向こうから人が現れた。


「お~いそこの、お兄さんや~」


 白髪のお爺さんがヴェルフリッツに声をかけてくる。


「俺の名前はナッズていうんじゃが、お兄さんの名前は何というかのぉ」


「僕の名前はヴェルフ、お爺さんどうしたんですか?」


「それがのぉ、少々困っておってのぉ、話だけでも聞いてくれないじゃろうか?」


「ええ、お話だけでも聞かせてください」


「それがのぉ、漁村の海にクラーケンがでてのぉ、わしの息子がやられてしもぅて」


「クラーケン?A級モンスターのですか!?」


 (クラーケン、それは海では危険度の高いモンスターとして有名である、この漁村だけでは歯が立たないだろう。)


「エーキュウ?それは知らないがクラーケンが出たのじゃぁ、この漁村の戦士でも歯が立たぬでのぉ」


「私が退治しましょうか?」


「そういってものぉ、話を聞くだけでいいんじゃ、お主は見るからに体もひょろっちくてとてもクラーケンなど倒せそうにないからのぉ」


「大丈夫ですよ、僕には魔術があります」


「ほえぇ、魔術師様がこんな村にどんな用で?」


 ヴェルフリッツは今までの経緯を話すことに危険を感じたので、ごまかすことにした。


「それが、クラーケンの足が薬になると聞いて、是非提供願うことができればうれしいのですが。」


 ナッズはそうかそうか、とうなずくと。


「なら村長に話をしてみるかのぉ」


 ナッズにそう言われてヴェルフリッツは村の奥に案内された。




 ヴェルフリッツは村の集会所で村長とそして3人の戦士達と話しをすることになった。


「わしの名は、ルーベこのテオリ村の村長じゃ、よろしくのぉ。」


「ヴェルフと言います、よろしくお願いします。」


 ヴェルフリッツと村長はお互いに挨拶をした、しかし戦士3人はどこか不満そうな顔をしいる。


 戦士のリーダーのような一人がヴェルフリッツの前に出てきた。


「ヴェルフと言ったな、俺はアフティ、よろしく頼む」


 アフティはそういったが、威圧的なその雰囲気からはとても、よろしくと言っているようには聞こえない。


「俺はファム」


「俺はムークだ」


 残りの二人の戦士はそういって軽く挨拶をする。




「お前、もしや海に打ち上げられていた、あいつか?」


 アフティはそう言った。


「ええ、知っているんですね、どうやら助けてくれたようでありがとうございます。」


 高圧的なアフティの態度に動揺することはなく、ヴェルフリッツはお礼を言う。


「妹のルティと弟のマディに介抱させたのはこの俺だ、どうりで知った顔と思ったが、貧相なやつはすぐ死ぬ。ヴェルフお前は魔術師らしいがそんな貧相な体で何ができる?」


 どうやらアフティはルティとマディの兄らしい。


 ヴェルフリッツは二人とは全く態度うアフティにどうやって育てばこうも違う性格になるのか?と考えながら、少し挑発してみる。


「魔術は戦闘でも生活でもとても役に立ちます。確かに僕は、体は貧相かもしれませんが、あなたに勝つ自信はありますよ?」


「なんだ?やるのか?」


 戦士のリーダーはけんか腰で挑発に乗ってきた。


 ヴェルフリッツは。


(気が早いなぁと思いながら。)


「別にいいですよ、でもこれから協力して魔物を退治しにいくんです、その前にケガをしては意味がありません、少し落ち着いてください。」


「ルーベ村長、別の人を探した方がいい、役に立たない」


 アフティの言葉にヴェルフリッツはため息を吐く。


「いいでしょう、僕と何か競争しましょう、魔物退治でもいいですし、お望みとあらばお互い傷つかない程度の決闘でもいいでしょう」


「決闘面白いな、そんな言葉がお前の口から出てくるとは意外だ、決闘なら村の外で始めよう」


「待つのじゃ、アフティお前というやつは自分の力を過信し過ぎだ、焦りはわかるが、ヴェルフ殿にも失礼であろう」


 ルーベ村長は何かを嘆くようにそう言うがアフティは気にせずに村長に言う。


「立会人が必要だ、ルーベ村長、頼みたい」


「アフティ……わかった」


 もう何も言わぬという感じでルーベ村長はアフティの頼みを了承したのだった。

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