第5話 僕は馬鹿(ヨハン視点)

今日は幼馴染のアイラを王国の中心部のカフェに連れて来ていた。

 本当は、今日は大好きな大切な婚約者と会う予定だったのだがアイラがどうしてもこの日じゃないと都合が悪いというので泣く泣くエミリア様に急遽お断りの連絡を入れた。

 ただ前回も、前々回もそのまた前も顔合わせの日と重なっている。

 本当についてない。

 たまたま、アイラの父親がアイラを中央に送ってこれる日がそこしかなく、それもぎりぎりにしか予定がわからないからいつもエミリア様に迷惑をおかけしている。

 日頃は王宮勤めで、忙しく、他の休みの日も父親について法曹界の勉強をさせて貰っており、すぐには日にちの変更が出来ないというのに。


 アイラは幼馴染の女の子で領地にいるときに近所に住んで交流のあった子だ。その子が婚約することになったが、領地から出たことがなく世間知らずの田舎者と蔑まれたり、笑われないために中央でたくさんの経験をさせてやって欲しいとアイラとその両親から頼まれていた。

 

 でも、幼馴染と言えども女性と二人で出かけるなんてエミリア様には知られたくはない。エミリア様には事情を知らせず、早くアイラを王都に慣れさせてこの仕事を早く終わらせようとせっせとアイラが望む場所を案内した。

 人にあまり知られたくない僕に反してアイラは人目のある所ばかり行きたがる。王都に慣れたいと言いながら、まるで王都に遊びに来たような行動に異議を唱えるも、王都の令嬢方と話をするために知っておきたいのと、懇願され、令嬢とはそんなものなのかと付き合った。


 たかだか半年くらい、時々ならいいかと引き受けたが、ことごとく婚約者と顔合わせの日がかぶるとは思わなかった。おかげで婚約者よりアイラと会っている日の方が多くなってしまった。

 そのせいで、僕が婚約者をないがしろにし、婚約者以外の令嬢と遊んでいるという噂も流れてしまった。彼女にその噂が届かないよう祈ったが、残念ながら彼女から「婚約解消しませんか?」と申し出があった。

 きっと噂に惑わされて泣く泣くの決断だったのだろう。

 エミリア様がアイラの事は触れずにいたので、僕もあえて言い訳はしなかった。だって何もやましいことはないのだから。だから婚約解消するつもりがないことだけ伝え、次回は必ず会うと約束したのに・・・

 また昨日になって、今日の予定を中止させてもらってしまった。


 ご機嫌よく都会のカフェの雰囲気と、菓子を味わっているアイラを横目にちょっと切なくなって周りを見渡した時、目に入ってしまった。

 隣の建物のお店で、男からアーンしてもらっている婚約者の姿が!そしてその後も楽しそうに笑いあっている姿を。

 一気に血の気が引いた。僕と会えない間に心変わりを?

 僕は中止とお詫びの連絡はしたけれど、代わりの日を提案することはできなかった、それどころかお詫びの手紙も贈り物もしていなかった。


 アイラがそんな手紙は女々しくてうっとうしいと思われるよ、と女心を教えてくれた。そんな言い訳じみた手紙よりも、次に会ったときに顔を見て詫び、贈り物も実際に買い物に付き合って好きなものを選んでもらった方がより嬉しい。そんな言葉を信じて。

 次に会う時にお詫びしようと思って、それが重なって次こそは、次こそはと思いつつ、ポンコツな僕は結局五ヶ月間なんの交流もせずに放っておくことになった。

 その間、寂しく思った彼女は他の男に心をうつしてしまったのか?僕はアーンなんてしたこともしてもらったこともないのに!


 これは、危険なんじゃないか?僕、捨てられる?


 とりあえず、女心がどうとか構っていられない。僕の気持ちをお伝えしなくては!すぐにお詫びの花束を贈ろう!


 そして次の顔合わせに向けて気合を入れて、諸々の準備も万端にしていた時、またもや男爵がその前日にアイラを送り届けてきた。

 こちらの都合もあると断ると、領地で問題が起こり、どうしても明日しか時間が取れなかったと泣きつかれた、そして明後日には戻らなければならないからと。これを最後にしてほしいと約束させたものの、僕はまたエミリア様との約束を破ることになる。


 神様の意地悪なのか、またエミリア様と出会ってしまった。今度はアイラといるところを見られたかもしれない。

 アイラが、服を見たいなんて言うからやってきたけど。僕がプレゼントはしないと拒否したら、ちょっと膨れて安い店をえらんだ。

 なのに貴族子女が来ないような店なのになんでエミリア様がいるんだ。しかもあの男と!

 なんと、気が付かなったのか声もかけてもらえず、あの男と笑って出て行った。アイラといるところを見られたくないなんて意識はふっとんだ。

 呼んでも気が付いてもらえなかったから、走って店の外まで追いかけた。

 弁解しようと、お互いを紹介するつもりだったのに途中で遮られ、二人は楽しそうに去っていった。


 もう・・・危険域超えてるよね? 


 そのまま大急ぎで家に戻り、文句を言うアイラは放りだし、エミリア様の屋敷に飛んでいった。

 なぜ最初からこうしなかったんだ。ちょっと昔馴染みに頼られたからって、自分の生活を犠牲にすることではなかったじゃないか。僕は本当に馬鹿だ。


 そこからの事は思い出したくもない。

 知らない男にエスコートされて馬車から降りてきたエミリア様に駆け寄ると、ひどく驚いた顔の後、眉をひそめたのを見てしまった。婚約者に会えて嬉しい顔では全くなかった。

 思わず、ショックと嫉妬で婚約者以外の男と出かけたことを咎めた感じになっちゃって・・・反撃くらった。僕がアイラとやっていることと同じだと突き放された。


 許してもらおうと彼女の下校を待ち伏せたけど、相手にもされなかった。僕にはひとかけらの愛情も残ってないのかもしれない・・・崖っぷちだよ。

 心底怖くなって、何とか話をしたいと生まれて初めて仕事をさぼり、何度か待ち伏せしたらぱったり彼女に会えなくなってしまった。

 実家に聞けば寮に入り、実家にも帰ってこないとのこと。何度手紙を送っても返信はなかった。一度だけ、今後の顔合わせは一切辞退しますと連絡がきただけ。

 それでも顔合わせの日、僕はいつもの・・・最近は僕のせいで中止ばかりだったけど、いつもの場所で待っていた。また、アイラがその日じゃないと駄目ってやってきたけど屋敷の使用人に世話を押し付けた。

 そうやって待ち合わせ場所でずっと待っていたけど、彼女は来なかった。


 そう・・・彼女はいつもこういう気分を味わっていたんだ。どうしてこうなる前に、アイラよりエミリア様を大切にすることが出来なかったんだろう。


 なんとかしてエミリア様にお会いしたい、誠心誠意謝りたい。

 神様!愚かな僕に何卒、挽回のチャンスを!


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