第92話 神弓ミストルティン起動開始
さて、その頃ユリアは自らの部屋の中で、自分の魔力を吸収する腕輪に対して、飲み残しのスープを少しづつかけていた。
これは、鉄格子の根本にスープなどをかけて根本を腐食させないか、と同じ考えである。そして、その後で水でスープを洗い流して、湿ったタオルで腕輪を包む。
湿ったタオルで包みながら、腕輪をテーブルの端に叩きつけていく。
湿ったタオルをクッションにして、音を抑えながら腕輪を破壊しようとしているのだ。だが、それは、ここだから脱出するための手段の一つだが、中々うまくいっていないのが実情である。
ともあれ、そんな風に試行錯誤を行っている中、トントンとドアをノックされる音がするため、ユリアは慌ててタオルを外して、素知らぬ振りでノックをした人たちに対して声をかける。
「……はい。どうぞ。」
入ってきた兵士たちによって、ユリアはそのまま神弓ミストルティン内部へと連行されていく。
神弓ミストルティンは、数百メートルにも渡る弓形の空中要塞と言っても過言ではない。人間からすれば巨大建造物そのものだが、神々にとってはそうでなかったらしい。ともあれ、王都の近くに浮かぶミストルティンに連行され、その内部へと入っていくユリア。
その内部……王座が存在する中心エリアともいえる場所で、彼女はその王座の傍に立っている一人の女性を見て、目を見開いた。
そこにいるのは、自分自身と全く同じ姿をした女性だったからだ。
双子である彼女たち以外に兄弟姉妹など存在するはずもない。体から色素がほとんど抜けおちたアルビノにも似たその女はユリアを見た瞬間、にやりと憎悪に籠った邪悪な笑みを浮かべる。
「こんにちわ。初めまして。姉さん。そして死ね。」
そう言いながら、ノインはユリアに対して自由に動かぬ体で殴りつけようとする。
まだまともに体を動かせないノインと実戦で鍛え上げたユリアでは桁違いの身体能力の違いがある。
そのへろへろの拳を回避すると、ユリアは彼女を取り押さえにかかる。
だが、それを行おうとした瞬間、ユリアの鼻先に、ひゅっと鉄杖の先が突き付けられる。
「そこまでにしてもらおう。お互いに貴重な存在だ。怪我をされては困る。」
その言葉と共に、魔力で半ば無理矢理二人は引きはがされてしまう。
「さてNo9,オリジナルに対して暴力を振るっていいとは言っていないぞ。好き勝手するのなら”再教育”を施すぞ。」
ひぃっ!と叫び声を上げながら、その女性は蹲ってガタガタと震える。
一体何なんだ?と怪訝な顔をしているユリアに対して、その初老の男はユリアに淡々とした説明が行われる。
「彼女はお前の血から作り出された複製体だ。魔術を応用すれば、細胞さえあればそのものの複製体を作成することができる。最も記憶や人格がそのまま移植できなければただの別人になるが……。まあ、それはどうでもいい。複製体さえあれば、ミストルティンを起動するためのお前の軽減にもなるだろう。さあ、そこに座れ。」
その教授の指示に従いながら、ユリアは渋々と王座に座ることになった。
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まだ体調が良くないので風邪が治りきっていないようですね………。
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