第86話 その頃のユリア
―――時間は少し遡る。
超々遠距離転移に飛ばされていたユリアは、王都近くのとある場所に転移されて、気を失ったまま、そのまま人類至上派の者たちによって囚われてある部屋へと運ばれていた。
そこは、見た目は綺麗で柔らかいベッドなども存在し、貴族が十分満足するほどの快適な部屋だった。
「う……。こ、ここは……。そうか私は……!!」
そこで意識を取り戻した彼女は気が付く。武装などは解除され、鎧も身に着けていない。だが、彼女は魔法戦士である。武器がなくとも、その魔術でこの部屋の壁など破壊できるはずである。
「《魔法の矢》ッ!……!?」
魔法を出そうとして彼女は魔術を放てないことに気が付く。彼女の両手両足には、腕輪、足輪にも見えるとあるアイテムが装備されている。
それは自らの魔力を吸収・放出して魔術を使えなくする対魔術師用の特殊な拘束具である。これによって魔力が吸われてしまっているので、彼女は魔術を使用することができないのである。
おまけにこの部屋には厳重な結界が張られており、部屋自体も頑丈だ。
そうそう簡単に脱出はできないということである。だが、それでもユリアは諦めることなく、自らの手首の腕輪を部屋の壁に叩きつけて破壊しようとする。
「ふむ、困るな。全くもってじゃじゃ馬なお姫様だ。」
がちゃと扉を開け、そこから兵士たちを連れた一人の男が入ってくる。
恐らくはこの男こそ人類至上派に属する高位の立場に立つ男なのだろう。
多数の兵士たちを背にしている魔術も使えない今の状況では、彼を人質にすることもできない。油断なく構えて睨みつけてくるユリアに対して男は軽く肩を竦める。
「安心したまえ。私は君に危害を与えるつもりはない。欲しいのはあくまでも君が有する血だ。それももう確保されていただいたがね。」
そこでユリアははっと自らの服の腕の裾をまくる。そこには針のようなもので刺されたような跡があった。注射器という概念を知らない彼女であるが、恐らくはここから自らの血を取られたのは彼女も理解できた。
人類至上派は非人道的行為を行うために、すでに注射器などと言ったものは開発されているらしい。
「とりあえずは、定期的に血を取らせてもらえば君に危害を与えるつもりはない。貴重な神器を起動できるための貴重な血袋なのだからね。死なれてもらっては我々も困るのだよ。貴重な血を与えてくれればきちんとした生活を約束しよう。」
その男が言っていることは一面は事実ではあるが、全ての真実ではない。
恐らく、自分が無事であるということはエルや辺境伯に対しての人質という側面もあるのだろう。
だが、ここから脱出するための隙を見計らうために、どのみちしばらくはおとなしくしておく必要があるだろう。ここで彼らの怒りを買ってもいいことなど何もない。
最悪の場合、自分が孕み袋になる可能性もあるのだ。ここはおとなしくしておくべきだろう。彼女は渋々頷いた。
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まあこの血を使って魔術的クローンとか作るんですけれどね。ぶへへ。
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