第76話 対人類至上派同盟

「まずお話があります。私たちはただの冒険者ではありません。この国の王家直系の血を引く者です。……最も、双子は王家にとって権力を分断する忌み子。双子に生まれた私たちは、「生まれてこなかった存在」として、王宮の外で乳母夫婦によって育てられました。」


 そのレイアの言葉に驚く者たちはいなかった。

 エルでさえ薄々そうなんじゃないかなぁ、と思っていたぐらいである。

 レイア自身もそれは感じていたのか、彼女はそのまま言葉を続ける。


「貴族としてではなく、一般の民として育てられてきたのですが、それは王家にとっても慈悲だったのでしょう。王家の直系の血を引く双子など、生まれてすぐに殺されても不思議ではなかったのですから。

 貴族として育てる、片方を貴族として育てて、片方を影武者にして育てるなど色々意見はあったようですが。」


 王家の血を引く双子など、面倒なので両方とも生まれなかった事にして市民として暮らせばいい、というのが王家の慈悲も込めた最大限の譲歩だったのだろう。

 幸い後継ぎにも恵まれていたため、無理をして彼女たちを押し出す必要もない。

 貴族たちにしても、そんな彼女たちを押し出して権力争いをしても、そんな絵空事誰が信じる?本当に王家の直系の血を引くと証明できるのか?と結局彼女たちの存在は闇に葬られ、そのまま普通に暮らす予定だったのだ……大きな異変が起きない限りは。


「そう、その異変こそが、人類至上派によるクーデターです。人類至上派は上位存在に対抗する力、地帝シュオールに対抗するために、神々が与えた神装『神弓ミストルティン』を奪うためにクーデターを決行。彼らの目的を遂げさせないために、王家は皆、死体も残らないように自分の命を絶ちました。そして、私たちは密かに王都を脱出。身を隠すために冒険者に紛れ込んだのです。」


 ミストルティンの起動のためには、神々の血を引く王家直系の血を引く人間が必要である。

 それを失った人類至上派はミストルティンの起動ができず、ミストルティンと王都を手に入れても指を加えるだけの形になった。

 そのため、一種の均衡状態が生まれる形になったのである。


『だが、人類至上派が王家直系の血を引くユリアを手に入れた事によってその均衡状態が崩れた……そういう事か。』


「はい、人類至上派は間違いなく『神弓ミストルティン』を起動させてこちらに侵攻してくるでしょう。辺境領も大迷宮も制圧し、地帝シュオールを殲滅し人類の優位性を証明するために戦いを仕掛けてくるはずです。」


 それを聞きながら、ティフォーネは呆れた声を上げた。


「神々の武器とはいえ、それでシュオールを倒そうとするとか正気ですか?アレはあくまでシュオールが暴れる時に対する抑止力であって、完全に滅ぼせるほどの力はないはずですが?まあ、深手を負わせる事はできるから、やりようによってはイケるかもですが……。」


 元々、彼女たちエンシェントドラゴンロードは、神々の肉体を滅ぼした存在である。そんな彼女たちに対して、神々の武器で滅ぼすなど無茶がすぎる。しかし、それでも神々の武器は極めて強力であり、そんな彼女たちに深手を負わせる事は十分に可能である。


「私たちが配信などと言う目立つ事をしていたのも、人類至上派に対する戦力を集めるため。戦力を集めた所で正体を明かす予定だったのです。まさか竜様が力を貸してくれるとは思っていませんでしたが……。」


 そこで、レイアはエルに対して頭を下げる。


「正体を隠していた事はお詫びします。辺境伯様や竜様がどう動くが解らなかったので、できる限り隠しておきたかったのです。失礼は承知ですが、何とぞ姉さんを助けるために力を貸してくれませんか?」


 そして、それに対するエルの反応は早かった。


『了承!!』


 なんの迷いもなく一瞬で答えたエル。それに対して流石のレイアも驚いた顔を見せる。


『流石に今まで一緒に戦ってきた仲間を見捨てるほど冷徹じゃないよ我!どのみちあいつらはこっちに襲いかかってくるんだ。人類至上派がなんぼの物じゃい!!我の仲間を誘拐したことを後悔させたらぁ!!』


 えいえいおー!と拳を突き上げるエル。それに対して、この場にいる皆も様々な表情をしつつ拳を突き上げた。

 ここに対人類至上派同盟が結成されたのだった。

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