第74話 超遠距離転移魔術

「これでもう終わりだ!大人しく投降しなさい!!」


 アヴリルの上空からの支援を受けて、ユリアは襲撃者たちに剣を突き付けながらそう叫ぶ。彼女たちにさえ苦戦しているのに、それ以上の大魔術師が来たのだ。勝てるわけがない。しかも路地裏であるということはどこにも逃げ道がない。

 アヤや村長たちも手配を行い、馬や荷馬車、街の外に出てる門はガチガチに固めている。例えここで彼女たちを連れて逃げられても、街の外にまで逃げられる可能性はない。いわゆる詰みの状態である。……そう、通常の手段なら、の話である。

 襲撃者たちは、ユリアの言葉に耳を貸さずに、お互いに視線を送り、アイコンタクトを行ってこくりと頷く。


「よかろう!!我らは人類存続のために命を捨てよう!!我らの全ては人類のために!!」


「「人類のために!!」」


 その彼らの叫びと共に、キィイイン!!という次元を裂く超遠距離のからの魔力波動が襲い掛かり、襲撃者たちはその魔力波動に捉えられ、両手両足をピン!と伸ばし気を付けの姿勢になる。それは強力な魔力波動の共振により、彼らの脳を通して五感が完全に支配されているからである。


「ガ……ア……!!目標視認確認。目標固定。座標軸確認。」


「ゲ……ア……。座標軸固定完了。転送座標軸固定。」


 両手両足を伸ばしながら、苦しみに血の涙と口から血の泡を吹きながら、苦しみの声と同時にまるで機械のように冷静なアンバランスな声が響き渡る。

 これは彼らの脳に植え込まれた『針』を通して、遥か遠くの竜の脳による魔術詠唱装置『ヒュドラ』がシンクロしてユリアたちを視認確認しているのだ。

 襲撃者たちを遠距離から目標を確認するための観測装置にし、彼らを通してユリアたちを確認して彼女たちに超遠距離から魔術をかけようというのである。

 ユリアたちの周囲に何十もの魔法陣と凄まじい量の魔術式が展開され、さすがのユリアも思わず腰を抜かしそうになる。これだけの大魔術など到底人間が展開できるものではなかったからだ。

 そして、それは上空のアヴリルも同様だった。いや、彼女こそが正確に状況を把握しながら最も驚いたに違いない。


「まさか……超々遠距離からの転移魔術!?そんな大魔術をかけてるなんて人間技じゃない!!」


 ティフォーネたちはひょいひょいと使用しているが、元々超遠距離の転移魔術など人間が扱える代物ではない。

 アヴリルクラス、小達人(アデプタス・マイナー)クラスならば瞬間転移は可能ではあるが、それも目に見える短距離でしか扱うことができない。

 目に見えない場所に転移して、地面や壁の中に融合したり閉じ込められる可能性が高いからだ。ましては大陸横断できるような距離の瞬間転移など、人類最高峰の魔術師、大達人(アデプタス・メジャー)でも不可能である。

 これを行うのは、それこそ人間から逸脱した存在、あるいは人間より上位存在である竜ぐらいしか行うことができない。


「クソッ!!ともあれ魔術式の妨害を……!!」


 だが、ここで下手に術式の妨害を行えばどこに飛ばされるか分からない。

 下手をすれば生存不可能な異次元に飛ばされてしまう可能性がある。ならば『目』である襲撃者を潰すか?いや、それでも全て潰しきれるかどうか……。迷っている中、動いたのはユリアだった。彼女は両足から魔力を噴出させて魔術式から逃れようとする。だが、狭い路地裏ではその移動速度は十分発揮できない。

 幻影魔術による幻影でも、彼らの『目』からは逃れられないだろう。

 そう判断した彼女は、レイアを抱えたまま魔力噴射で壁を駆け上がる。


「お願い!!この子を!!」


 そのまま、ユリアはレイアを上空へと放り投げ、アヴリルへと投げ渡す。

 だが、それでもユリアは襲撃者の『目』からは逃れることができなかった。


「術式展開完了。超遠距離転移魔術術式発動。これより目的地へと転移します。」


 魔術式が発動し、ユリアはどこかへと転移されていく。それと同時に襲撃者は皆口と目から血を吐き出して地面に倒れた。

 こうして、ユリアは人類至上派の手へと落ちていったのだ。


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