第38話 レッドキャップ1
「ギイッ!ギイッ!!」
あの戦いからしばらくして、開拓村ガリアの周辺に潜むようになったゴブリンの変化、レッドキャップたちは村を監視しながら決してこちらに近づこうとしなかった。
食料採取などで少数だけで街の外だけを出る人間を的確に狙って、確実に嬲り殺しにしていた。
そして、こいつらを退治しようとすると分散して逃げていくという、いわゆるゲリラ戦という極めて厄介な戦法を取っていたのである。
荷物の運搬のために街道を移動しようとするキャラバンにすらちょっかいを出してくるので、まさしく厄介極まりない存在と化していた。
『ぬぁああああ!!クソゴキブリどもがぁあああ!!めたくそ厄介なんじゃが!!
どうにかできんのか!!?』
村の中で小型化して地団駄を踏むエルに対して、アヴリルは、顎に手を当てて冷静にレッドキャップについての生態を分析する。
「うーん、たぶんあれはゴブリンが変化して特化した感じですね。人の血があいつらの食糧であり、それを吸い取るためにこの周辺に執着しているんですかね。個人的には、持久戦で相手が干上がるまで頑張れば勝手に死に絶えるのでは?」
『それだとせっかく好景気に沸いてるこの村がまた逆戻りするじゃねーか!!何とかならんの!!?あと結界すり抜けてくる奴とかも何とかならん!?』
さすがのエルも自分が作り上げた地脈結界をすり抜けてくる相手がいるというのは予想外だったらしい。結界が破壊されるのならばともかく、すり抜けてくる相手なんてのは厄介極まりない。餅は餅屋。魔術師である彼女ならば、こういう特殊な状況も何とかできると踏んだからである。
「ん~。グレンデルの方は多分闇を利用してすり抜けてくる感じですから~。結界自体をペカペカ光らせたら多分入れなくなるんじゃないんですかね?まあ問題は夜に死ぬほど目立って他の怪物たちがウヨウヨたかってくるでしょうが。」
人工の光がほとんどない未開拓の森の中に、いきなりネオン全開でピカピカ光った街が出現すればどうなるか?答えは死ぬほど目立ちまくるである。
そうなれば、ほかの怪物たちもウヨウヨ集ってきて本末転倒になるだろう。
ほかの手段はなんかないんか?というエルの瞳に対して、えぇ~と言いながらアヴリルは他の方法を考え出す。
「えぇ~。後の方法ですかぁ?多分ある程度の特殊な魔力波長があるはずですから、それを妨害するジャミング用の魔力波を放てば妨害できるんじゃないかと?ちょっとそちらの方は私が研究してみましょう。とりあえず魔力波の波長だけ確認すれば、発生装置も作れるはず。それを結界の外に置くか中に置くかまでは走りませんが!」
感謝……!圧倒的感謝……!!とエルはアヴリルに感謝の念を送る。
竜族は魔力こそ強大ではあるが、そういった搦め手で来られると弱い。
それに対抗するためには、専門家である魔術師が必要であり、そういった魔術師をこちらに加えられたのはありがたい話だった。
「レッドキャップは……そうですね。一番簡単な方法は人間を囮にして森の中でも歩かせたらホイホイついてくるんじゃないんですか?で、その囮について出てきたところを殲滅、と。それが一番効率的なんじゃないかと思いますが。」
それを聞いて、エルは思わず考え込む。エルが出張れば当然レッドキャップは逃げられてしまうだろう。冒険者たちも同様で武装している冒険者に対してレッドキャップはさっさと敵対せずに逃げ出してしまう。
自分の弱さを熟知している分、実に厄介な敵である。それに対して、アヴリルは、うーんと悩みながら言葉を放つ。
「うーん。なら私がやりましょうか?私が無防備にホイホイ出向けば、奴らも襲い掛かってくるでしょう。竜人ですが、まあ多分大丈夫でしょう。あいつらそこまで区別できないでしょうから。それにちょっと気になることもありますし!
これくらい体張らないと竜様の信頼は得られないでしょうし!」
レッドキャップは自分の帽子を血で染めることに異常なほど拘る。
それは、人間の血こそが彼らの栄養源であるということである。そのため、弱い人間たちをゲリラ作戦で襲い掛かりズタズタにして血を絞り取るのだ。
無防備な武器も持っていない魔術師が能天気に歩いていれば、間違いなく襲い掛かってくるだろう。だが、それは彼女自身を危険にさらすということである。
それに対して、アヴリルは、いともあっけらかんと言葉を返す。
「これでも私は、『5=6 小達人(アデプタス・マイナー)』の位階の魔術師ですよ!レッドギャップなんてちょちょいのちょいです!!」
それに対して、腰を抜かさんばかりに驚いたのは、魔法戦士であるユリアである。
思わず、アヴリルに対して詰め寄りながら叫びを上げてしまう。
「小達人(アデプタス・マイナー)!?何でそれほどの大魔術師がこんなところにいるんですか!?」
名実ともに大魔術師を名乗るにふさわしいといえる階級「6=5 大達人(アデプタス・メジャー)」
その一歩手前の階級こそが彼女が属する位階「5=6 小達人(アデプタス・マイナー)」である。つまり、彼女は竜人であり、若年でありながら大魔術師一歩手前の実力を持っているということになる。
これほどの若さでそれほどの実力を持っているとなれば、まさに規格外の天才といえるだろう。
「まあ、竜人で後ろ盾もないと天才だろうが爪弾きにされるということです。ですが私は挫けませんよー!絶対ここから一旗上げてあげますから!待ってなさい魔術塔!!」
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