第22話 川運搬と水竜タランタシオ

 大迷宮から出て、久しぶりに開拓村へと来てみたエル。

 開拓村だと紛らわしいので、エルが簡易的に最初に救った村「開拓村アトラル」と二番目に救った「開拓村ガリア」と名付けた村の内、金鉱脈が近くにあるらしい開拓村ガリアのほうへと彼はやってきた。

 それは最初のアトラルは辺境拍領との道も繋がって順調に発展しているのに対して、ガリアの方は発展がいまいちであり、また飢餓などに陥ったり、アトラルに嫉妬して仲が悪くなると困るからである。(金鉱脈があるのに何もしないうちに滅んでしまうとかマジ勘弁してほしい、というのが本音だ)

 レイアがある程度歩いて作り上げた近隣の地図を見ながら、ガリアはアトラルより川に近いのだから、この


『ふむ……。しかし、川があるだろ?この川を運搬経路として生かせばもっとスムーズに物資搬入ができるんじゃないの?」


 二つの開拓村とその下流の辺境伯の街は川の流れで繋がっている。

 開拓村からの様々な物資を下流の辺境伯の街へと送ることは比較的簡単なはずである。(下流から上流へと船を曳き戻すのには問題はあるが)


「はい、それには問題があります。「タランタシオ」と呼ばれる水竜がこの近辺の湖と川を牛耳っており、魚を捕るのにも川を移動するのにも邪魔をする可能性が高く……。以前の開拓村が飢えていたのも、その水竜を恐れていたというのもあります。」


 なるほど。つまりその水竜を倒せば川での獲物を取ったり、川の荷物の運搬はスムースにいくはずだ。

 基本的にエンジンがない(魔導エンジンはあるが高価すぎて買えない)この地域では、川の流れに従って下流に荷物を運搬していくしかできないが、それでも下流へ大規模運搬ができるようになると村の発展は大きく異なってくるだろう。


『うーん、とりあえず行ってみるか。我を見て逃げてくれるといいなぁ。』


 そして、エルは村人たちを伴って川へと出かけていった。

 その川内を悠々と泳ぐ細長い6mほどの蛇体の竜を見かける。

 水竜「タランタシオ」それは川をわが物顔で悠々と気楽に泳いでいた。

 どうやら会話できるほどの知性もない下等も下等の竜族ではあるが、こちらを見てもせせら笑うように悠々と泳ぐだけで何もしようとしようとしない。

 恐らくは鈍重な土竜ごときが何をしに来た。穴倉の中で土でも掘ってろモグラ野郎と言わんばかりに、タランタシオは首だけ川上に出し、口から水を水鉄砲のようにぴゅーと吐き出して挑発する。

 それにかちんと来たのはエルである。下等も下等の竜に、誇り高きエンシェントドラゴンロードの血を引く自分が侮辱されてはたまらない。

 思わず切れてしまったエルは、相手の土俵である水中へと飛び込んでしまう。


『うるせーッ!!このトカゲ野郎の爬虫類がー!!地竜様を舐めるんじゃねぇええええ!!』


《お前もトカゲや。》

《お前も爬虫類や。》

《おっ?自虐かな?》

《お美事なブーメランにございまする。》


 ドボン!と川に飛び込んでしまったエルだが、彼の肉体は人間と異なり水に浮かぶようにできていない。その重さに浮力も耐え切れず、そのまま川底に沈んでいく。


『ガボガボガボ(し、沈むぅううう)!!』


 しかし、そこで彼ははっと気づく。深い川なら彼の肉体も完全に沈んでしまうが、まだ陸地と違いこの場所ならば浅瀬のはずだ。

 ならばきちんと立ち上がればおぼれないですむのでは?と思った彼はしっかりと四肢を川底につけるとそのまま首を上に向けると、首は水面の上からざばぁ!と姿を現す。


『ぶはーっ!!ヨシ!大体計算通りや!!』


 水面から顔を出して一息ついた彼の元に、するすると即時にタランタシオは泳ぎながら接近してきて、絡みついてきて水底へと引きずり込もうとしてくる。

 それに対して、エルは四肢をしっかり川底につけて対抗しながら、タランタシオへと噛みついていく。蛇体のタランタシオはエルに絡みつきながら、同様に爪を立てたり噛みつき攻撃を行っていく。


(そう来ると思ったぜ!!相手が捕えられないのなら、我自身を餌にして相手を誘き寄せる!!遠距離から嬲り者にされて確実に仕留められるのが怖かったが、流石は脳みそ爬虫類だな!!)


 タランタシオの噛みつきは、強靭な竜の鱗に弾き返されてそう簡単には食い込めない。それから逃れれないように、逆にエルはタランタシオにがっしりとしがみつく。


(舐めるんじゃねー!!追い詰められたのはお前じゃい!!くたばれ!《雷撃》!《雷撃》ッ!!)


 逃れようとするタランタシオの細長い蛇体に対して、エルは自らの両手足の爪を突き立て、さらに首根っこに噛みついて、がっしりとしがみついて振りほどけないようにする。そうしながら雷撃を放って絡みつきながら攻撃を仕掛けようとしているのだ。これには流石にタランタシオもきついらしく、絡み付きの状況からは回避もできず、まともに攻撃を食らう羽目になってしまう。


 それだけの攻撃を受けて、痺れたタランタシオは、絡み付きから離れ、浅瀬をバシャバシャとのたうち回る。ぐぉおおお……。と傷口から血を流し、全身を焼き焦がした彼は、もはや戦う力は残っておらず、水辺をバシャバシャとのたうち回るだけだ。


『よし、我の言う事を聞く魔術契約を結べば助けてやってもいいぞ?我とガリア村の村人たちのいう事は聞く事。これに従えば生かしてやらんでもない。どうだ?』


 ぐぉおおん……。と微かにタランタシオは頷いたため、魔術契約を結ぶ親和性を高めるために、タランタシオに自分の竜血を分け与えて、その傷を回復させると同時に、呪的契約でがっちり縛り付けたのだ。

 これで、エルはほっと思わずため息をついた。

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