第四話 サクセン
外に出ると花宮さんが、ひだまり園の大人と共に俺を待ってくれていた。
「待たせてしまってすみません。いま、絶縁されちゃいました」
「……本当に絶縁されちゃったよ」
「君、なに考えているんだ。もっと考え直して」
「ぼくも両親も、何度も考えた結果です」
ひだまり園は、家庭や心身に問題を抱えた子供にとって最後の受け皿のような場所だ。
だからこそ、花宮さんは問題行動を起こし続け、俺の通っていた小中学校の近い園へと流れ着いたのだろう。
そして俺も今、犯罪には触れないが極めて問題のある行動をとった。それにこの容姿だ、受け入れたいと申し出る施設は多くないだろう。
「……とにかく、君はそこで待ってなさい。君のご両親と、話をつけてくるから」
職員が俺の家だった場所を訪ね、育児放棄について問いただし。
戻ってくる頃には、彼は呆れ果てていた。
「……まさか自分から捨てられに行くなんて。親が居るんだよ?」
「でも見たでしょう。あの親の態度」
「……確かに」
あらかじめ花宮さんには話を通しておいた。
最初は引いていたが、未練を晴らしたいという想いを受けてくれたのか渋々受け入れ、そして「育児放棄された友達が居る」という形で通報してくれたのだ。
「君の親はどうなっているんだ。小学一年生の子供に恨み節ばっかり、育児放棄に躊躇いもない。いったい君は何をしたんだ」
戻ってきた職員が俺に問いかける。
「仕事をクビになる原因を作りました。あと顔が気に入らなかったんでしょ」
「……まあ、子供が可愛いと思えない親も居るからなあ」
職員も様々な修羅場を目にしてきたのだろう。まるで歴戦の兵士のようだ。
「とにかく、我々は十八になるまで世話は見るけど、それ以上になったら食い扶持探して出てくこと。いいね?」
「すみません。お世話になります」
こうして俺は、花宮さんの居る施設で過ごすことになり。
「……ありがと」
「未練を晴らすため、でしょ?」
晴れて、両親への復讐と恩返しを済ませたのだった。
「だけど、これからどうするの。音無君まで、ひだまり園出身だって差別されちゃうでしょ」
「もう俺の虐めは今に始まったことじゃないし、そこはどうだっていい。ただ」
「ただ?」
案内された施設の中を見渡し、頭を抱える。
「門限あるし、小遣い無いしで不便っちゃ不便になったからなぁ……服とか飯とかは、前のと変わらなさそうだけど」
もともと問題のある児童ばかりを預かっているのだ、持ち物にも厳重なチェックが為される。
そのため武器を隠し持つことはできないし、デジタルデータの印刷もできず、さらには金も施設持ちで購入も許可がいるのだ。
「せめて金を稼げれば、もう少し融通効くかもだけどね」
「懐柔するってこと?」
「ううん。進学のために預かってもらえるシステムがあるって聞いたから」
「それ、お年玉を預かる親と同じで没収されて終わりでは?」
それもそっか、と花宮さんが納得するように手を置く。
「ん、でも稼げないことはないかも! 俺ら人生周回してるでしょ、競馬や宝くじの結果を覚えておいて、それで」
「稼げないよ」
「マジで?」
問いに頷きを返した彼女が続ける。
「かつて私が居た世界線では、衝撃的な勝ち方をし続けた無敗の三冠馬が持て囃されていた」
「え、じゃあそれに賭ければ!」
「でも、この世界線では最後のレースで、ギリギリのところで負けてしまったんだ」
「……マジで?」
つまり、宝くじもダメだってことになる。
数億円を手に入れて、アパートかマンションの一室二室でも借りれると思ったのだが、現実は甘くないようだ。
「バタフライエフェクトってやつだね。少し行動を変えるだけでも、回り回って運命が変わってゆく。それに私たち以外にも人生周回している人はいるだろうから」
「運命が、誰にもわからなくなる……」
「そういうこと。あと音無君がテストの点を取れない理由も、これに近いんじゃないかな」
「…………マジで?」
「周によってカリキュラムは少しだけ違ってくるし、テスト内容も変わってくる」
「マジか、意識したことなかったな。相変わらず百点は取れないし、せいぜい頑張っても六十、七十くらいだしさ」
「でも誤差程度だよ。普通、何度も同じようなことを教えられるのは苦痛になるものだと思うけどね」
「……そこまで言うなら、どうして良い学校行こうとしなかったの」
「……星の位置が悪かったから、かな」
つまりは俺と同じく、オツムの性能が悪いからか。
そういえば花宮さん、素の状態だとテストの成績は俺以下だったな。
「ところで、特訓は続けてるよね」
「すっかり前世からの習慣になってるしな。ただ毎日鍛えても、勉強しても、強い奴には敵わないんだよなぁ」
「結果は才能と努力の乗算で決まる、って思ってるからね。音無君は、そこら辺の変な形をした石ころみたいなものだし」
「酷くない?」
最近、心なしか彼女の冗談がキツくなってきた気がする。
「さて、そんな君に問題です」
「唐突」
「私たちは前世からの知識を持っています。これを最大限活かして、すっごい制限を受けている環境でも、ほぼ確実な人生逆転する方法は、なんでしょう」
「え。宝くじも競馬もダメなんだろ? しかも俺たちは早死にが確定しているんだし」
「でも、
確かに。だったら早くて確実な方法は。
「別の施設に移らせてもらえるよう、お願いする!」
「ぶぶー。ひだまり園出身者は、他の養護施設も受け入れ拒否する場合が多いみたい」
「……ま、まあそうか」
「だからこそ。私は、受験こそ手っ取り早い方法だと思ってる」
「え、あと五年もアイツと一緒なの?」
「そう言わない。小中学生は、結局野生の獣と同じ。力の強い者に従うから、運動でダメなら前世から身に付けた知識で対抗する」
「なるほど。たしかに、勉強ができるだけで一定の地位を確保していた人もいた、これなら少しは敵を減らせるかもしれない!」
「そして、もう一つ。とっておきの作戦があります」
こうして耳打ちされた作戦を聞いた俺は。
「……はぁああああ!?」
直感的にあり得ないと思い、声を荒げてしまった。
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