二周目
第一話 カチナシ
目が覚めたら、俺の視界は強い光に照らされていた。
逝き先は地獄かと思った。だが、どうやら違うらしい。
(……ん、あれ? 俺の身体)
何より意味がわからなかったのは、俺の身体は二十歳を迎えた男のソレではなく、明らかに赤子になっていたことだ。
周りには、医者らしき男と看護師らしき女。そして、写真でしか見たことのない若かりし頃の母の姿があった。
(つまり……)
俺の人生は、記憶をそのままに二周目へ突入したらしい。
「オギャアア!! オンギャアアアア!!」
俺は泣いた。貧乏な家庭で才能もない、破滅が確定している人生を繰り返さなければいけない現実に、絶望して号泣していた。
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」
産声じゃねえよ、終わってんだよ産まれた時から俺の人生は。ここはチートクラスのスペックをもらって転生ってのがテンプレだろうが。
いや待てよ。よく考えたら、この世界も前世と同じ失敗をする可能性があるんじゃないのか。
そうなると俺は、虐められ、勝手に離婚され、Fラン高校へ行って、そんで借金背負って自殺するハメになるぞ。やっぱり詰んでるじゃねえか!!
(ダメだぁぁ、どうすればいいんだぁぁ)
多くは望まない。俺はただ、普通の生活をしたいだけだ。
友人と放課後遊び、それなりの学校を出て、就職して、結婚して、孫に見守られながら天寿を全うする。
誰もが思い浮かぶ普通の生活をしたい。それだけなんだ。
そう頭を抱えているうちに三年が経ってしまった。
ようやく「今度こそ上手くやってやるぜ!」と腹を括って勉強や運動を頑張ったのだが、結果は前世通りだ。
相変わらず友達はいなかったし、また三年が経ち小学校に入ってからも心を許せる人は一人もいなかった。
「まだ居たんだぁ、カチナシくん」
代わりに、心の底から憎い女が一人。
前世で俺の自尊心を完膚なきまでに粉々にし続けた、そのクソの名は
「僕の名前は、音無、なんだけど」
「でも価値ないのは本当じゃん」
顔良し足速し頭良しの三拍子揃った完璧超人であり、男子からの圧倒的な人気を誇る女子だった。
しかし、その実態は自分よりも上の立場の者――俺の知る限りは教師以外には居なかった――に媚を売り、下の立場の者はゴキブリやハエのような扱いをするクソビッチである。
そのうえ父は地元企業の社長、母はPTA会長なので誰も逆らえない。
(なんで、コイツまた俺を……!)
俺以外の弱者男子もだが、とくに俺が虐めのターゲットにされることが多かった。
「ほらっ、ザコじゃあん」
「ぐふっ!?」
口答えをした罰と言わんばかりに腹を蹴られる。
今はマシな方だ。中学に上がる頃にはコレがハイヒールになってくるから。
耐えろ。そして模索しろ。俺に生まれ直してしまったんだ。
だからこそ、その意味を考えろ。俺が本当にしたいことは何だ?
前世の終わりに、俺は何を思った?
「……ぁな、みゃ、さん……」
「あ?」
そうだ。俺は、また花宮さんに会いたいんだ。
ボーダーフリーの高校で、はじめて俺を人間扱いしてくれた女神。
昔アイドルを少しやっていたらしく華のある顔立ちで、この蹴りを入れている下劣な女とは対極的な、お日様のような存在だ。
前世では永遠に会えなくなった。だけど、今なら。
それまで耐えろ。十五になるまでは。
どんな艱難辛苦があろうとも、それまでは……。
「……音無君?」
「っ!?」
十年程ぶりに、放棄していた思考が呼び戻される。
見渡すと、地元から離れた偏差値の低い高校の風景で。
(久しぶりに、自分の名前を呼ばれた)
前世では、周りの誰もが俺を『お前』と呼んだ。父親ですら『この子』だった。
「ねえ、大丈夫?」
皆が帰った後の教室にて。
俺は心の底から会いたかった『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます