第5話 あーんしてください! 早くぅ!

藤吉ふじよし「何だったんだあれは……腕が……あぁ……(混乱している)」


星見ほしみ「ばっちり出来ましたぁ! どうでしたか? わたしの秘技は!」


藤吉「いやぁ……凄かったよ……色々とね……(ぼんやりと)」


星見「えへへぇ~♪ そんな褒めないでくださいよぉ~♪(少し照れたように)」


藤吉「褒めてるっていうか……いや、まあいいや……。あとは俺が焼くから、皿の準備をしてもらえるか? そこの棚にあるから……」


星見「はぁーい! 了解でぇす!(元気よく返事をして、食器を取りに行く)」


藤吉(心の声)「なんか、どっと疲れたな……。まぁ、悪くは無いんだけどさ……」


(しばらくして)

藤吉「ほい、お待たせ。熱いうちに食べようか」


星見「わぁっ! 美味しそうですねぇ~!」


藤吉「そうか? 普通だと思うけどなぁ……」


星見「そんなことないですよ~! すごくいい匂いですぅ~!」


藤吉「ははっ、そうか? ならよかったよ」


星見「じゃあ早速、いただきまーすっ! あむっ! もぐもぐ……んん~! 美味しいですぅ~!(幸せそうに)」


藤吉「そりゃ良かったよ。星見さんも、手伝ってくれてありがとな」


星見「ふふ~ん♪ どういたしましてですぅ~!(ドヤ顔で)」


藤吉「何でそんなに誇らしげなんだよ……。ほら、口に付いてるぞ」


星見「えっ、どこですかぁ?」


藤吉「違う、反対だ。こっちだよ」


星見「こっち……?」


藤吉「あー……っと、そっちじゃないってば……! まったく、世話の焼ける……」


星見「んぅ……???」


藤吉「ほら、じっとしてろって……。取ってやるからさ……」


星見「ふぁい……。んっ……取れましたかぁ……?」


藤吉「あぁ、取れたよ……」


星見「ありがとうございますぅ! えへへ~♪」


藤吉「そりゃどうも……」


藤吉(心の声)「ん? 俺、今自然にやってたけど、これってはたから見たらカップルみたいじゃないか……? いや、そんなわけないよな……どっちかといえば子供にやるような感じだし……うん、きっとそうだ……」


星見「フジヨシさ~ん、食べないんですかぁ? ……あ、そうだ! こうすると、もっと美味しくなりますよ!(おもむろにスプーンで料理をすくって、差し出す)」


星見「はい、あーんしてください!」


藤吉「ちょっ!? おまっ、いきなり何を……!」


星見「え? だって、この前ドラマで見たんですよ~! こうやって食べさせ合うシーンがあったんですぅ~!(純粋な気持ちで)」


藤吉「だからってなんで俺にやるんだよ……!」


星見「ダメなんですか……?(悲しげに)」


藤吉「うっ……べ、別にダメってわけじゃないけどさぁ……」


星見「じゃあいいじゃないですかぁ~! はい、どうぞぉ~!(ぐいぐいと迫ってくる)」


藤吉「わ、わかったわかった……! やるよ、やればいいんだろ!」


星見「やったぁ~! はい、あーんっ!」


藤吉「……あ、あーん……」


(少し間を置いて)


星見「どーですかぁ? お味の方はぁ……?」


藤吉「ど、どうって言われてもなぁ……。一緒に作ったんだから、同じ味だろ……?」


星見「むぅ~! そんなんじゃダメですよぅ~! こういうのは雰囲気が大事なんですからぁ~!」


藤吉「雰囲気ねぇ……そんなもんか……?」


星見「そんなものなんですぅ~! だから、今度はフジヨシさんがわたしに『あーん』してください!」


藤吉「えぇっ!? な、なんでそうなるんだよ!?」


星見「さっきわたしがしたからですよ~! 食べさせ合うのが良いんですっ! そうしたらもっと美味しくなると思いますっ!」


藤吉「いや、ならないと思うぞ……?」


星見「えぇ~……そうですかねぇ……?(首を傾げて)」


藤吉「そうだよ……。とにかく、俺はやらないからな」


星見「むぅ~……わかりましたよぉ……。フジヨシさんに無理強いするのは良くないですもんね……(しょんぼりして)」


藤吉(心の声)「うっ……そんなあからさまに落ち込まれると罪悪感が……。でもなぁ……やっぱりちょっと恥ずかしいしなぁ……」


星見「良いですもん……一人で食べますから……(しょぼんとしながら食事を再開する)」


藤吉「ちょ、ちょっと待てって……! わかった、わかったよ! 俺もやればいいだろ!」


星見「ほんとですかぁ~?(顔を上げて嬉しそうに)」


藤吉「ただし、一回だけだからな! あと、今回だけだぞ! いいな!?」


星見「はーいっ♪ わかりましたぁ~!」


(少し間を置いて)


藤吉「ほ、ほら……口開けて……。あ、あーん……」


星見「あー……むっ……もぐもぐ……(嬉しそうに頬張っている)」


星見「ん~♪ 美味しいですぅ~!(心から美味しそうに)」


藤吉「そ、そうか……それならよかったよ……」


星見「はいっ♪ フジヨシさんのおかげで、さらに美味しさが増しましたぁ~!」


藤吉「なんだかなぁ……? まぁ、喜んでもらえたなら何よりだけどさ……」


星見「えへへぇ~♪(嬉しそうに)」


(しばらくして、昼食を食べ終えて)

星見「ふぅ~お腹いっぱいですぅ~! ごちそうさまでしたぁ~!」


藤吉「お粗末様でした。さて、そろそろ片付けるか」


星見「あ、わたしも手伝いますよ~! お皿割らないように気を付けないとですけど……」


藤吉「はは、大丈夫だよ。ゆっくり休んでくれていいからさ」


星見「うーん、そうですかぁ……? じゃあ、お言葉に甘えてぇ~……(ソファーに座る)」


藤吉「ああ、そうしてくれ」


(しばらくして)

藤吉「よし、これで終わりっと……。しかし、誰かと飯を食うなんて久しぶりだな……たまにはこういうのもいいかもな……」


(部屋に戻ってくる藤吉)

星見「あ、フジヨシさんお帰りなさ~い」


藤吉「ただいま。待たせちゃって悪かったな」


星見「いえいえ、全然大丈夫ですよぅ~! それより、何か良いことでもあったんですか~?」


藤吉「えっ? なんでそう思ったんだ?」


星見「なんか、楽しそうな顔をしてたんでぇ~!(にこにこして)」


藤吉「そ、そんな顔してたか……?」


星見「してましたよぅ!(自信満々に)」


藤吉(心の声)「まいったな……そんなに顔に出ちまってたのか……」


星見「ふふっ……フジヨシさんが嬉しそうだと、わたしも嬉しいです~」


藤吉「ははっ、なんだそりゃ。変なやつだな……」


星見「変じゃないですよぅ~!(頬を膨らませて拗ねる)」


藤吉「はいはい、悪かったって。お詫びに何か一つ言うこと聞いてやるからさ、それで勘弁してくれよ」


星見「ホントですかぁ!? やったぁ~! えーっと、それじゃあ……」

(少し間を置いて)


星見「また一緒にご飯作ってください! それがいいですっ!(満面の笑みで手を合わせてお願いする)」


藤吉「……っ!(一瞬言葉に詰まる)お、おう……つーか、そんなことでいいのか?」


星見「いいんですぅ~! わたしはこれが一番嬉しいんですからぁ~!」


藤吉「……そっか。わかった、約束するよ」


星見「わぁ~い! ありがとうございますぅ~!」


藤吉「……まぁ、俺も楽しかったしな(小声で呟く)」

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