【ライフドリーム】~ゲームの世界に異世界転移したから、この世界で第2の人生を送ることにした~
あかぼし
第1章 異世界転移
第0話 現実
【第0話】現実
ギィィィィン!!
激しい剣の衝突が響く。右、左と、人間では不可能な動きで剣が舞う。手足は傷だらけで、現実離れした世界観が広がっていた。
「っく!」
「それがお前の全力か?」
「俺は…」
片方の男が傷つき、膝をつくと、もう一方の男がさらに攻撃を加える。その斬撃は激しく、恨み深いように見えた。
「お前は変われない。いつも通り諦めるんだな。それがお前らしい」
ビュン!!
風を切るような剣技の嵐。その剣技に耐えられず、男は吹っ飛び壁に激突した。そして、握っていた剣が手から離れる。それを見て、もう一方の男が地面を蹴り、ダッシュする。次の一撃が最後とばかりに力を込めて振りかぶる。
「《前を向いて》あの時、誓った想いはどうした? お前は逃げてばかりか? お前の本当の気持ちは何だ!」
その一撃を受ければ彼は死ぬだろう。しかし、彼は動こうとしなかった。まるで、そうなることを望んでいたかのように力を抜いていた。開いた目は前ではなく、下を向いていた。それを見た男は、さらに怒りに震え、力を込めて剣を振り下ろす。
(俺は……)
ーーーーーーー
人生がつまらないと感じたことはありませんか?
自分だけが不公平に扱われていると思ったことはありませんか?
もう疲れた、死にたいと思ったことはありませんか?
世界は平等ではありません。幸せな人もいれば、不幸な人もいます。
あなたはどちらの人間ですか?
ーーーーーーー
カチカチカチ
薄暗い部屋で、ゲーム機のボタンを押す音だけが響き渡る。
彼がプレイしているゲームは何だろう? RPG? シューティング? それともアドベンチャー?
しかし、その青年にとっては、ゲームのジャンルは重要ではなかった。ただゲームを楽しむことができればそれでいい。彼にはゲームの内容が楽しいかつまらないかという感情は存在しなかった。
カチ……
ボタンを押す音が止まる。ゲームをクリアしたのかもしれない。
青年はヘッドホンとコントローラーを床に置き、ジャンパーを羽織ると、財布をポケットに入れて外に出た。
外に出ると、冷たい風が青年の頬を撫でた。地面には雪が積もり、足首まで届いていた。もう12月も後半、新年が近づいていた。
(さっさと買って帰ろう。次にやるゲームは…………いや、そんなのはどうでもいいか)
彼が向かう先はゲームショップ。幸いにも、徒歩で少しの距離にあった。すぐに買って帰れる距離だ。
何かを買うというのはワクワクするものだが、この青年にとってはそうではなかった。一歩一歩が重たく感じられた。
(俺はいつまでこんなことを続けるんだろうな……)
ーーーーーーー
20分ほどでゲームショップに到着する。
平日だったので店内は人が少なかった。店内ではゲーム風のBGMが流れていた。
青年はゲームのパッケージが並ぶ棚へと向かい、その中から選ぼうとしていた。
適当なゲームでもいいとはいえ、流石につまらないものを選ぶ気にはなれない。
(とりあえず3本くらい買っておけば当分は持つだろう。これとこれとこれでいいか。あとはレジか……)
数分後、ようやく購入するゲームが決まる。
選んだゲームは全てファンタジーを舞台にしたものだった。そして、そのゲームを3本手に取り立ち上がろうとしたとき、あるゲームに目が留まる。
(ん? さっきまで、こんなのあったか……端から端まで見たのに……)
全て確認したはずの棚に、見たことがないゲームが置かれていることに気づく。青年はそのパッケージを手に取り、裏を見た。
通常ならゲームの詳細が記載されているはずだが、このパッケージには何も書かれていなかった。
表紙はただの平野のイラストだけだった。ただ一つ、このパッケージからわかることがあった。それはゲームのタイトルだ。
【ライフドリーム】
青年は何かに引き寄せられるように、手に持っていた3本のパッケージを棚に戻し、タイトルだけが記載されたパッケージをレジに持っていった。
「○○○○円になります。カードはお持ちでしょうか?」
「いえ……」
「それなら、今すぐお作りいたしますが……」
毎回のようにこの質問をされることに、青年は苛立ちを覚えていた。一度もカードを作ったことはないのに。
「結構です」
その言葉を発すると、レジから渡された袋を素早く手に取り、店を出た。
ーーーーーー
青年は、早く帰ってゲームを始めたい一心で、つい冷たい言葉を口にしてしまった。そのことを少しだけ後悔していた。
(あんな態度を取るべきではなかった……自分でも理解できない……)
重い足取りで家に帰り、ドアを開けると、
「おかえり凉。寒かったでしょ。温かいスープを作ったんだけど、飲む?」
そこには青年の母と思わしき人物が立っていた。痩せ細った身体、やつれた顔。その姿を見て、誰もが心配して声をかけるだろう。しかし、青年は顔を背けた。
「いや、いい……」
「そう……」
「ごめん……」
青年の突然の謝罪に、母親は一瞬驚いた顔を見せた。だがすぐに笑顔になり、優しく言った。
「大丈夫よ。少しずつでも良くなっていけばそれでいいのよ」
その言葉と雰囲気に耐えられず、青年は部屋に駆け込んだ。母親のそんな顔を見るのが辛かったからだ。
彼は幼い頃に父親を交通事故で亡くし、今は母親と二人で暮らしている。母子家庭……それはきっと大変だったろう。一人の子供を女手一つで育てるのは……
それに比べ、自分は何をしているのだろう。働きもせず、毎日ゲームに没頭するだけ。母親を少しでも楽にしたいという思いはあるが、体はそれを拒んでいる。現実を受け入れるべきだと知りながら、それができない。そして、青年に残されたのはゲームの世界だけだった。
ヘッドホンをつけ、カーテンを閉じて部屋を暗くする。
袋から取り出したゲームのパッケージをゲーム機にセットし、テレビをつける。現実の苦しみから少しでも逃れられるなら、と思いながらボタンを押してゲームを起動する。
しかし、起動した瞬間、何かがおかしいことに気づく。画面に本来表示されるはずのゲーム会社の名前が表示されない。パッケージを確認するも、表裏のどこにもゲーム会社の名前は記載されていなかった。
opも流れず、そのままタイトル画面が表示される。
その画面はパッケージに表示されている空と緑色の平地があるだけだった。そして選べる項目は【はじめから】のみ。
少し疑問を持ちつつもボタンを押した。
ブルブルブルブル!
手に持っていたコントローラーが突然震えだす。
それは、徐々に強くなっていき、その振動はコントローラーを持てなくなるほどに大きくなる。
「なんだよこれ!」
もう、コントローラーを持ってないにも関わらず、身体が揺れだす。いや、揺れたのは身体ではなかった。
ガタガタガタガタガタ!!!
まるで地震が起こったかのように部屋全体がガタガタと揺れだしたのだ。
このままでは駄目だと部屋から出ようとドアノブに手を掛けようとした時、テレビから黒い塊のような物が飛び出てくる。
それは半時計に回り始め、近くにあった物を引っ張り始めた。それは青年も例外ではない。
徐々にテレビに吸い込まれる。
そこから逃げ出そうと何かに掴まろうとしたが、遅かった。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
青年を吸い込んだ黒い塊は、役目を終えたように、その場から消えた。その光景は嵐が過ぎ去った後のようだった。
誰も居ない部屋。点けっぱなしのテレビが壊れた信号のように点滅していた。
そしてその画面にテキストが1つ表示されていた。
それは……
【ゲームスタート】
ーーーーーーー
となれば、社会に出て働く年だが、毎日ゲームをやって、クリアしたら別のゲームを買いにいく。
いわゆるニートというやつだった。
バイトで稼いだ金が尽きる。もしくは家から追い出されるまでこんな生活が続いていくと思っていた。
あなたは自分が好きですか?
自信を持てていますか?
全てを投げ出し、部屋に籠っていませんか?
これはそんな青年がある世界で、変わっていく物語。
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