第22話 迷子

【第22話】迷子


 

 見たことないレベルのドラゴンの襲撃が嘘のように、夜のこの時間は静寂に包まれていた。


「明日からはどこに向かうの?」

「貰った地図だと、この先にある沼地の先の山を越えないといけないらしい」


 本来登るはずだった【流山】は、当分使えない。しかし、まだ希望が潰えたわけではなかった。貰った地図を確認すると【アルサンディア】に行くための道は1つだけではなかった。

 少し遠回りになるが、今の位置から少し先に進んだ先に沼地らしき目印が記されていた。そこを抜けた先には、本来登るはずだった【流山】とは別の山があるらしい。

 そこの山は地図を見るに【流山】の反対側。つまりどちらの山を登っても最終的には同じ道に出る作りになっている。


(遠回りになるが、まぁ別にいいだろ。あの地獄みたいな魔物に会わないなら……)


 そんなことを思いながら、手に持っているお玉で鍋の中をかき混ぜる。

今作っているのは、夜になる前に捕まえた【ロックチョウ】という鳥の肉を入れたシチューだ。


 涼が作る料理の具材は全てその日に取った物。

幸い、この世界には無数の魔物が居る。それらを倒せる実力があれば基本的には食料に困らない。

それと、鍋、お玉、お椀は全部、涼が木から作ったお手製だ。これも木さえあればいくらでも作れる。


「わぁ~良い匂いです」


 匂いにつられてセラフィーがテントから出てくる。

このテントも涼の自家製だ。これも全て【作成】のスキルのお陰。


(このスキルが無かったら、旅はキツかっただろうな……)


「涼さんって何でも出来るんですね」


 何でも持っている涼に対し、セラフィーはそんなことを言った。それを聞いた涼は少し昔を思い出す。


「……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「涼くんって何でも出来るんだね」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 セラフィーの何気ない一言で、ある人の言葉がフラッシュバックした。


「どうしました?」

「いや……何でもない。気にするな。それと、料理なんてその気になれば誰でも出来るぞ」

「それでも凄いです」


(そういやこいつ、何で旅なんか……)


 セラフィーの顔を見ていたら改めて、そんなことを思う。

この世界の旅は危険だというのは、この世界に来たばかりの涼でも知っている。

その世界をこんな子供が1人で旅をする理由が分からなかった。


「何で旅なんかしてんだ?」


 その言葉に、セラフィーの顔が引きつったような気がした。


「えっと……それは……新しい自分を見つけるため……です」


 それだけ言うと、下を向いて黙り込んでしまった。

どうやら、あまり触れられてほしくなかった部分だったらしい。


(禁句だったか……)


「良い匂いがしてきた~もう出来たよね涼! 僕お腹ペコペコだよ」


 そんな重たい空気を壊すかのように、匂いに釣られたイランが割って入ってくる。涼はお椀に出来上がったシチューを入れると、2人に渡した。


「ほら、火傷しないで食えよ」

「あ、ありがとうございます……」

「わーい!」


 それを貰うとイランはどっかに言ってしまった。


(騒がしい奴だな……)


 涼も自分のお椀にシチューを入れると、そのまま座って食べようとした。その時、セラフィーが言った。


「涼さんたちは……」

「ん?」

「涼さんたちは何で旅をしているんですか?」


 その問いに持っていたお椀を地面に置いて話し始める。


「あいつには言ってないが、俺にはもう、帰る場所なんてない。正確にはちょっと違うけどな。まぁそんなわけだから仕方なくな。まぁそれでも今の生活には満足している」

「……そうだったんですね」


 驚いた顔を見せるセラフィー。涼は話を続ける。


「あいつは、俺とは少しだけ違うが、同じく帰る場所がない。旅の理由はそうだな……特にないな」

「辛くないんですか? この世界の旅は……」

「別に辛くなんてない。あいつは知らんが、少なくても俺は辛くない。自由だからな」

「自由……」


 自由と聞いたセラフィーの顔は先ほどまでと違い、少し微笑んでいた。


「街に着くまで、その……一緒に居てもいいですか?」

「ああ、別に構わないぞ」

「よかった……(ボソッ)」


 その時、今まで見たことないような嬉しそうな顔をした。初めてそんな顔を見た気がした。いつも何を考えているのか分からない顔しかしてなかったら、その表情は新鮮だった。


「……お前」


 しかし、涼はその顔に少しだけ不安になる。その顔を知っていたからだ。あることを言いそうになった。


「なんですか?」

「いや……やっぱり何でもない」


 しかし涼は、その先を言うのをやめた。この空気を壊すかもしれなかったからだ。


「もう寝ろ。明日は早くここを出発するぞ」


 こうして旅の仲間が、また1人増えた。セラフィーの謎はまだあるが、戦力が増えたのは喜ばしいことだ。

 食事を終えた涼たちは、テントの中で眠りに落ちた。


(優しそうな人たちでよかったな~。こんな私に変な顔しないで……もう少しだけ……この世界に……)



ーーーーーーーーーーーー



 翌日、早朝から旅を再開する。次の目的地は地図に記載されている沼地。

そして現在、その道を通ることになったのだが……


「うわ~凄いねここ……なんか変なガスも充満しているし……」


 そこはおおよそ人が通ってはいけない場所だった。

土に水分があるせいか、どこを歩いても水溜まりを踏んでいる感覚がする。

それに加え空気も悪く湿気もある。人間には最悪な環境だった。


「ここを通らないとか……」

「そうだね~また湿気のある場所を歩かないといけないなんて……」


 何かに気づいたのか。イランは辺りをキョロキョロと見渡しはじめた。


「あれ? セラフィーは?」


 その言葉に、涼は後ろを振り向く。すると、後ろから付いてきたセラフィーがいつの間にか居なくなっていたのだ。


(あいつどこ行った!)


「ど、どうしよう……」

「落ち着け。何かないか……」

「あ、こっちに足跡があるよ!」


 幸いにも、少し離れた所にセラフィーと思わしき足跡を発見する。ここが足跡がつきやすい場所でよかったと思った瞬間だった。


(足跡を辿れば見つけられる……早く見つけねぇと)

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