第20話 馬車での旅
【第20話】馬車での旅
「おや? こんなところに人なんて珍しいね。俺になにか用かな?」
こちらに気づいたのか、涼に話しかけてきた。
その急な展開に驚いたが、すぐに冷静になって返す。
「ああ、さっき【アルサンディア】の事を口にしてたからついな。もしよかったら、どの方角にあるか教えてくれないか」
「もしかして歩いていくつもり?【馬力車】使っても10日は掛かるよ」
【馬力車】というのは、男の隣に居るこの魔物の事だろう。
【情報】で確認した際に、この世界の馬車的存在だということが分かった。
馬力車 Lv30 種族:魔物
スキル
・荷物運び
・頑丈な足
【荷物運び】
物を運ぶときにその重さを軽減できる。
【頑丈な足】
足の強度・威力を上昇させる
「もしよかったら送ってあげようか? 俺も丁度【アルサンディア】に帰るところだったし」
その誘いは今の涼たちには願ってもない申し出だった。
「いいのか?」
「ああ別にかまわないぞ」
「それじゃあよろしく頼む」
「任せとけ。それと、そのエルフの子は君の連れ?」
そう言って男が指さした方を向くと、さっき別れたはずのセラフィーが、こっちにとてとてと歩いてくると涼たちに話しかけてくる。
「あ、さっきぶりですね」
「お前、どっか行ったんじゃ……」
「私もそう思ってたんですけど、なんか気づいたらここに戻ってきてました」
(戻ってきたって……そういや洞窟の中でも、こいつ適当な道教えてたな……もしかして、方向音痴ってやつか……それでも、ここまで酷い方向音痴は初めてだけどな)
「それよりもさっき【アルサンディア】がどうとか言ってませんでした?」
どうやらセラフィーにも聞こえていたらしい。「そうだ」と涼が返すと、セラフィーは「私も行きたいです」と言ってきた。
「了解だ。じゃあ
その2人ってところに引っかかる。なぜならここに居るのは涼・イラン・セラフィーと三人のはずだからだ。
そう思い、3人と言おうとしたが、ここでイラン涼の肩を掴んだ。
見ると手をクロスさせ、ばってんの形を作っていた。これを見た瞬間、以前イランが言っていたことを思い出す。
「僕は普通の人間には見えないし声が聞こえない」
今のイランは人間じゃない。そのことを思い出した涼は言おうとしていた言葉を呑んだ。
「それじゃあ乗ってくれ」
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こうして馬車の魔物に乗った旅が始まった。この世界での初めての乗り物に乗った感想は楽の一言だった。それは今まで歩いていたのが、バカだったと思うほどだった。
そんなことを思っていると運転席から男が話しかけてきた。
「そういえば、なんであんなところに居たの? あそこは魔物が強くて人が寄り付かなくなったところだったんだけどな」
「いや、偶然通りかかっただけだ」
「あ、私もです」
どうやらセラフィーも偶然通りかかったらしい。涼たちはドラゴンに襲われた際にあの洞窟で迷うことになったが、セラフィーの場合はどういう経緯であんなところに居たのかが疑問だったが何も言わないことにした。
「旅人ってやつか? 若いっていいね~」
「あんたも若いだろ」
「ん? 俺はもう30後半だよ」
涼は一瞬自分の目を疑った。20どころか10代と言われても信じる見た目をしていたからだ。
「そう言って貰えると嬉しいな~。あ、そうだ街に着いたら俺の店に顔を見せてよ」
「店?」
「俺は武器・防具の職人なんだ。ここに来たのもそれを作る鉱石取りだったんだよ。あそこにしかない鉱石が欲しかったんだけど……まぁあれじゃね……」
その言葉に涼とイランはセラフィーの方に顔を向けたが、セラフィーはキョトンとした顔をしていた。
どうやら自分が破壊したという罪悪感は微塵もないらしい。
ゆったりとした時間が過ぎていく。いい感じの風も外から入ってきて気持ちよかった。
「いや~それにしても初っ端から酷い目にあってばかりだよ」
「お前、村の近くにあんな化け物みたいなのが出るなんて聞いてないぞ」
「そんなの僕だって分からないよ。一年間村から出てなかったんだから。多分、魔物の生態系が変わったんじゃないの? 前まであんなの僕だって見たことないよ」
あの村を出てから30を超える強敵としか遭遇していない。そのことが疑問だった涼だが。
(いや……よくよく考えれば、あの森から強敵だらけだったな……)
レベルが30を越えて少しは楽な旅ができると思っていた涼だったが、この世界はそんなに甘くないようだ。
「そういえばセラフィーも旅人?」
「えっと……そんな感じです」
「へぇーその年で凄いね!」
「そうでしょうか?」
そんな何気ない会話が弾む。空を見ると星が見え始めていた。
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あれから3日が経過した。その間は何事もなく快適な旅を送っていた。
魔物も道中に何匹か見かけたが、今乗っている馬車のレベルが高いのか寄ってくることはなかった。
「もう少しで【流山】だ。こっから足場が悪くなるから落ちないようにしてくれよ」
イランが言っていた【流山】にようやく来ることができた。
途中、休憩やらを挟んだが3日でここまで来ることができた。歩きだったらどれくらいかかっていたことだろうか。
「ようやくだね涼」
「この馬車使って10日かかるんだろ。まだ半分も進んでないぞ……」
「私は【アルサンディア】に行ければそれでいいので大丈夫です」
そんな会話をしている時、イランがふとあることに気づく。
「ん? なんか聞こえない?」
バサッバサッ
これからこの山を登ろうと【馬力車】の足がその一歩を踏み出した時だった。
上空から何かが涼たちの目の前に降りてきたのだ。
それは、気が立っていたのか。涼たちが乗っていた馬車に急に襲い掛かっていた。
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