救ってくれる人

Cスタジオのシャッターが開いた

外から深く黒いキャップ帽子、

ピエロのようなレインボーのメガネと

茶色マスクを

かぶって顔を隠した1人のライオンの男が

オーディションをチラチラと

見聞きしていた。

逆に目立ちそうな格好だが。



その男の肩には小さな黄色いひよこも

何も変装していないが、

様子を同じように伺っていた。


「……どうですか?」


 肩に乗ったひよこのルーク話し出す。


 ライオンの男は、帽子を下の方に押して



「これも、あいつの時と

 まったく同じ手口だよな?」

 


「ごもっとも。」

 

 

 腕を組んで頷くルーク。

 パタパタと飛んで右肩に移動する。

 


「今日も、声、かけてて。」


「たまには

 ボスが声、

 かけてもいいじゃないですか?

 私、スプーンの発注に追われてるん

 ですけど…。」

 

 ルークは時計を確認して、焦りを見せる。



「あ、まじか?

 何本の注文?」



「100本です。」



「…それは、早くしておいた方がいいな。

 んじゃ、頼んだわ。

 俺が声かけるから。」


 

 ルークは、空中をパタパタと飛んで

 事務所の方へ急ぐ。


 


 一方、その頃のクレアは。



「すいません、ジェマンドさん!」


 ロックとマージェ、そして

 ジェマンドの3人が談笑している

 中にクレアはそっと小さな声をかけた。


 盛り上がっている会話に

 なんで入ってくるんだよというような

 嫌な態度を取られた。


「あ?」


 嫌な顔をされて、

 クレアは少し後退りした。


「あの、お聞きしたいです。」


「ん?なに。」



 ジェマンドは建前な態度を取る。

 

「今回の舞台【赤ずきん】の

 赤ずきん役って

 すでに決まってましたか?」


「……おかしいですね。

 1週間後に

 連絡しますって言いましたよね?」


「え、あー、すいません。

 聞いてませんでした。


 たまたまさっき隣にいた

 マチルダさんとオリビアさん、

 オードリーさんが、


 アンケートの配役に決まったって

 いう話を聞いてしまいまして…。


 もう赤ずきんも決まってるのかなと

 思いまして…。」


 ジェマンドは壁の方に体を向けて

 クレアに聞こえない舌打ちをした。


(またかよ。おかしいな口止めしろって

 あれほど言っていたはずなのに

 余計なことを……。)


「あ、あの〜。」



「あー、聞こえちゃいましたか??」


 営業スマイルのようにニコニコと

 いきなり空気を変えるジェマンド。

 恐怖のドキドキがとまらないクレア。


「は、はい。」


「そうなんですよ。

 もう、赤ずきんの赤ずきん役は

 ここにいらっしゃるマージェさんって

 前から決めておりまして…。」



「前からってどういう意味ですか?!」




「前からは前からです。

 オーディションはあくまで

 形ですよ、形。

 本番に強くなるでしょう。」



「…はぁ。」


何だか納得できないクレア。



「面と向かって言うのは

 失礼に当たるかなとも思いましたが

 とりあえずは応募していただき

 ありがとうございました。

 エントリーシートや模擬試験を

 拝見して、厳正な審査の結果は

 大変申し訳ないのですが、

 今回は見送りさせていただく運びと

 なりました。


 今後のクレア様のご活躍を

 お祈りいたしております。」


 ペコっとお辞儀をして、ニヤリと笑う

 ジェマンド。


 よく言う、お祈りメールもしくは

 お祈り手紙を直接言われるパターンだ。


 なんで目の前にして言われなくちゃ

 いけないんだろうと思う。


「気づきませんか?

 経験や実績がないとこの世界には

 通用しないって聞いたことないですか?」



 クレアは経験と実績のことは

 知っていたけど、ここまで

 ひどい扱われされるとは

 思っていなかった。



「すいません、

 素人が出しゃばったみたいで…。」


かなり屈辱を味わったクレアはスタジオを

飛び出した。


その様子を見てジェマンドたちは

笑い合っていた。


走る息が荒い。


クレアは恥ずかしい気持ちでいっぱい

だった。



長い髪が揺れる。

履いていたスカートもなびく。



走っていくと、転びそうになり、

おかしなメガネをするライオンのボスに

腕で助けられた。



「おっと、大丈夫ですか?」



「あ、すいません。

 ありがとうございます。」



 頬に伝う涙が止まらない。

 悔しい気持ちがいっぱい。

 クレアはすぐに立ち去ろうとすると


「すいません、この辺に

 オシャレなカフェはありますか?」


 ボスはすっとんだ話を振っている。


「え……。」


 クレアは、

 突然のことで頭が真っ白になったが、

 目の前にあるキャラメルラテが

 評判のカフェを指差した。



「あー、あれですね。

 ありがとうございます。

 もし、よければ、一緒に

 ラテでも飲みませんか?

 おごりますので。」


「……。」


不審な気持ちになったが、キャラメルラテが

大好きなクレアはおごるの言葉に釣られて

目をキラキラさせながら



「ぜひ、お願いできますか?」



 まさかのクレアの食いつきにボスは

 びっくりしたが

 ニコニコとクレアを誘って、

 カフェに入った。


 ドアベルがカラカラと鳴った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る