うまいようにはいかないものだ
Aスタジオで舞台【赤ずきん】の
オーディションが行われていた。
本格的な大きなセットの中に
おばあちゃんの部屋とされるインテリア、
大きなふわふわのベッドが置かれていた。
赤ずきん役の動物でもない人間でもない妖精のマージェが別件で行われたオーディションで選ばれたらしい。
この狼役オーディションで、
赤ずきん役として
演じてくれるようだ。
マネージャーとされる羊の男性に
うちわで仰がれていた。
横にはコーヒーのカップがある。
優雅が雰囲気を醸し出していた。
お姫様のような対応なのか。
ちょっと鼻につく。
アシェルは
このオーディションの段取りが
書かれたプリントを読んで、
指定の席に座った。
「このたびはお忙しい中、
お集まりいただきありがとうございます。
早速、舞台【赤ずきん】の狼役
オーディションを開催します。
進行させていただくのは
私、ワイマットが担当いたします。
よろしくお願いします。」
ADのような立ち姿のネズミのワイマットは
軽くお辞儀した。
「また、今回の審査員であります
プロデューサーのジェマンドさんです。」
ジェマンドは名前を呼ばれて
耳をキュッと動かした。
席から立ち上がった。
「審査員のジェマンドです。
今回、応募が5人も集まっており、
大変こちらとしても嬉しいです。
募集をかけてもなかなか嫌われ役の
狼は不人気ですので…。
最後までよろしくお願いします。」
「では、応募者の方々の自己紹介を
お願いします。
えー、それでは、
左から…はい、ロックさんから
お願いします。」
ワイマットは、左から順番にということで
狼のロックという青年から指名した。
「はい! ロックと申します。
年齢は25歳。
ローランド地方から来ました。
映画、ドラマ、舞台には出演経験あります。
これまでの経験を活かして、
赤ずきんの狼役を挑みたいと思います。」
ロックは、
額の部分が少し青くなっていて
周りの色は白かった。
両耳が少し大きめで
顔立ちもはっきりしている。
テレビや映画の出演経験もあり、
メディアの露出も多い。
大手事務所に所属している。
人当たりも良く、評判は上々だった。
審査員のジェマンドは、手首につけていた
ハイテクなウォッチのボタンを押して、
ロックのエントリーシートを液晶画面に
うつし空中に表示させた。
アシェルが持っているもの
の古い型だった。
マイクロチップになる前の機械だ。
「はい。ご紹介ありがとうございます。
前もっていただいていました
エントリーシートを拝見しました。
かなり実績のあるんですね。
経験も豊富ということで。
本日、渡しましたアンケートにも
【赤ずきん】の狼役ということで
希望ですね。」
「はい。もちろんです。
応募していたものにぜひとも
出演したいという
気持ちをこめて
○をつけました」
ジェマンドは納得したように
頷いていた。
「うんうん。
わかりました。
では、早速模擬試験ということで
赤ずきん役のマージェさんと
一緒に出演していただきませんか?
ワイマットさん、台本、ありますか?」
「はい、すぐ準備できます。」
「そしたら、すぐ始めましょう。」
ロックは、台本を渡されるとすぐに
狼役を自分の中に憑依させて
ブツブツと呪文を唱えるように
セリフを覚えた。
「準備はいいですか?
見せ場のおばあさんの姿になった狼の
ところを赤ずきんと演じていただきます。」
ワイマットをカメラにカチンコを向けて
準備をした。
「アクション!!」
という声かけとともにカチンコを
鳴らした。
狼役のロックはベッドの上に寝ていて
おばあさんの着ていたパジャマを着ていた。
赤ずきんはその横まで近寄っていく。
「あら。おばあさん、なんて大きな耳ね。」
「それはね。遠くからでも
お前の声が聞こえるようにだよ。」
「あらら。耳もだけど、
なんてギョロギョロした目だね。」
「それはね、お前の顔が見えるように
こんな目をしてるんだよ。」
「あーら、耳も目も変だけど、
大きなお口になってるわ。」
「それはね…。」
ロックは体を大きく見せた。
「お前を大きな口で丸飲みするためだ。」
「がぁおおおおお。」
ロックは腹の底から悪魔が出たような
恐ろしい声で叫んだ。
「カット!!」
ワイマットはカチンコを叩いた。
「お疲れ様でした。」
「ありがとうございました。
とても、力の入った演技で
狼らしさが出ていたと思います。
さすがは経験者ですね。」
「お褒めの言葉、光栄です。」
深々とお辞儀した。
「では、次の方どうぞ。」
ワイマットの指示で
順番に同じように
軽く面接をした後、模擬試験を受けるという
流れができていた。
2人目はスマッシュという狼だった。
全体的に白の毛で
薄茶色のそばかすが目立ち、
耳が大きめの
ちょっと恥ずかしがり屋の性格だった。
小さい声で自己紹介していたが、
本番の演技でハキハキしていた。
3人目はアレックスという狼だった。
全体的に毛色が薄青色で
丸メガネをつけて
知的、おしゃれに
パーマをあてる
気の強い性格だった。
自己紹介も圧のある大きな声で
話していた。
演技はどこかぶっきらぼうに
なっていた。
4人目はウルという狼だった。
毛色は黒でもさもさの髪をしている
人間でいうところのオタク気質
自信がなさげでモジモジしている。
自己紹介も演技も全てに自信がなく、
やる気があるのかないのかのような
態度だった。
5人目はアシェル。
この物語の主人公
鼻は高めで、耳小さめ
声が通る声だが
相手と話すとおどおどしてしまうのが
いつも落とされる原因。
コミニュケーションも好きではない。
自己紹介はイントネーションが
バラバラだったが
どうにかこなせた。
肝心の演技は本気でやってるはずなのに
気持ちが伝わらず
こちらも緊張のあまりイントネーションを
崩してしまう。
「カット!!お疲れ様でした。」
「アシェルさんでしたっけ。
声はとても良い声で聴き心地は
いいんですけど
演技になると緊張なんですかね
イントネーションがガタガタで…。」
「あ、すいません。
練習ではうまくいくんですけど、
本番になるとどうしても…。」
「この世界は本番が命だからね。」
「あー…ですよね。」
なんとも言えない表情をするアシェル。
「それでは、このオーディションの結果は
1週間後、選ばれた方にお電話を
差し上げます。
電話がなかった方は
ごめんなさい。
またの応募をお待ちしております。
よろしくお願いします。
本日はお忙しい中、
ありがとうございました。」
ワイマットはお開きということで
応募者に出口を案内した。
トボトボと歩いていると
プロデューサーのジェマンドは、
ロックを追いかけ、何かを話している。
明らかに悪い話ではなさそうで、
ロックの表情が明るくなるのがわかる。
1週間後なんて勿体ぶってないで
すぐに結果は出てるんじゃないのかと
アシェルは、舌打ちをした。
近くを歩く、スマッシュとアレックスは
話しているのが聞こえた。
「なぁ、聞いた?
アンケートに答えたのに俺
出演できるって。
どうにか首がつながったよ。
安心したわ。」
「マジか。
俺もさっき、言われたよ。
俺は【おおかみと7匹のこやぎ】の出演が
決まったよ。
スマッシュは何にしたの?」
「俺は、【3匹のこぶた】だってさ。
てか【赤ずきん】って募集してたけど
どこかに出演できるなら
どこでもいいよなぁ。」
「確かに。
配役があるだけ救いだわ。」
そう言いながら、2人は出口に
向かっていた。
それを聞いたアシェルは、
人見知りが激しいウルに話しかけた。
「なぁ。」
「え、あ、あ、どうしました?」
「何に出演決まったんだ?」
「わ、私ですか…。
えっと、さっき言われたのは
【オオカミ少年】です。
私、あまり話せないので、
いや、全く話せないので
とりあえず羊追いかける役だと聞いて
良かったって思ってます。」
両手をモジモジといじりながら
答えるウル。
アシェルは納得できなかった。
結局は誰がやるか
始めから決まっていた
ようだ。
募集していた赤ずきんはロックが
やることになった。
目に見えてわかった。
自分はなんのためにこれに
応募したんだろう。
アシェルは答えがわかる返事を
ただ黙って待っているのは苦痛だと
感じた。
すぐに答えを聞こうと
ロックと談笑している
プロデューサーのジェマンドに近寄った。
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