復活ラヂオアプリ

第11話 復活ラヂオアプリ(1)

 ある日、気がついたら、スマートフォンに『復活ラヂオ』という名前のアプリが入っていた。


 全く入れた覚えはなかったけれど、ここ最近は、酒を浴びるように飲んで、いつの間にか眠りに落ちるという生活をしているので、酔いに任せてアプリを入れたのかもしれない。


 ラジオなんて、最近は全く聴いていない。それどころか、音楽もドラマもニュースも。今を語るものには、何にも触れていない。


 あの日を最後に、オレはメディアと言うものから距離を置いた。未練なんてないと思っていた。もう出来ないと思っていた。だから、辞めると宣言したのに。


 あの日からオレは、何をすれば良いのか、何がしたいのか、自分のことが全く分からなくなった。だから、手持ち無沙汰に酒を飲み、いつしか眠り、また酒を飲んだ。


 そんな自堕落な生活に染まり始めて、もう幾日経ったのかも分からない。


 ただ分かることは、今が明るい時間だということ。そして、珍しく頭がクリアだということ。


 何処かへ行きたい気分だった。オレという役割を放棄してから、そんな気持ちになったのは初めてだったけれど、何処へ行けば良いのかは、相変わらず分からない。


 とりあえず、いつも着ているスウェットのポケットにスマートフォンを突っ込み、つっかけを引っ掛けて、部屋の外へと出てみた。


 緩やかな日射しがオレを刺す。それに臆した様にオレは直ぐに、寝ぐらへと引き返した。久しぶり過ぎる日射しは、オレには、眩しすぎた。キャップを探し、ついでに、パソコン用デスクに置かれていたイヤホンを無造作に掴むと、再度、部屋のドアを押し開ける。


 キャップを目深に被り、外へ出れば、眩しさが幾分和らいだような気がして、これならば、どこへでも行けるような気がした。


 ポケットに手を突っ込み、フラフラと歩き出す。行く宛などは全くない。ただ気の向くままに歩を進める。


 今日は平日なのか、道を行き交う人は然程多くない。それとも、そういう時間帯なのだろうか。


 フラフラと部屋を彷徨い出たオレは、気がつけば、近所の土手へと来ていた。目の前には、こちらと隣町を隔てる大きな川が、ゆったりと流れ、キラキラと光が反射する水面を、風が優しく撫でていた。


 草刈りがされたばかりなのか、綺麗に切り揃えられた草からは、草特有の青臭い匂いが立つ。


 この街は、こんなにも明るい街だっただろうか。


 まるで、知らない場所へ来た様な不思議な面持ちで、オレは、ぼんやりと草の上に腰を下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る