第2話 メイド服とオムライス
SE:扉を開ける音
おはよ~、元気?
幼なじみ彼女様が今日も遊びにきてやったぞ~
ありがたく思え~
や~、あれからあたし考えたのよね
いままでのあたしは、不用意に空中に逃げすぎてた
地上で待ちかまえて、回避と投げ中心に戦うべきだった
あとね、アイテムのボットにいちいち反応し過ぎちゃだめ
そういう時こそ、冷静にプレイしなくちゃ
そう気づいたあたしは、基礎からみっちりやり直してきたわ
さながら同情破りのごとく、オンラインで武者修行を続ける日々……
もう今までのあたしと同じと思わないことね
というわけで~、さっそく一戦……
って、なに、その包み?
約束? なんか約束してたっけ、あたし?
ああ~、なんでも言うこと聞くってやつ?
その一個目のお願いがそれ?
開けてみて……ってなんかヤ~な予感するんだけど
んじゃ、まあ……
SE:袋を開ける、ガサゴソという音
お、おおう……
思わずのけぞったわ
え、え~っとこれは、その……
あれよね?
いわゆる、その……メイド服というヤツでしょうか?
コスプレの定番的な……
ま、まさか……!
着るの!? これを!? あたしが!?
いやいやいやいや
ムリムリムリムリ、ゼッタイ似合わないって!?
ありえないからっ!
うぐぅ、め、命令……
確かになんでも聞くって言ったけど~
けどぉ……
エッチな命令よりMP削られそうなんですけど~……
あ~、はいはい、分かった、分かりましたよ
女子大生に二言はありません~
着ます、着ます~
着ますけど~
絶対笑わないでよ?
ガッカリしても知らないんだから
そんなことない?
あたしに似合いそうなヤツを選んだって、ほんと~?
まあ、そこまで言うなら……
わざわざあんたが買ってくれたのに
一度も着ないってのも、もったいないし
じゃあ隣りの部屋、借りるわよ
着替えてくるからちょっと待ってて
覗いちゃダメだからね
フリじゃありません~
おとなしくしてなさいっ
SE:扉の閉まる音
SE:かすかに聞こえる衣擦れの音
え、え~っと……どう?
一応着てみたけど……
エプロンとカチューシャ、付け方これで合ってるのかな?
っていうか、メイド服っていちおう使用人の制服よね?
こんなスカート短くて、フリルだらけなもんなの?
なんていうか……
メイド服っていうより、アイドルの衣装っぽくない、これ?
どう見ても家事向けじゃないっていうか
実用性に乏しい感じするんだけど……
こんな短い丈で掃除なんかしてたら
すぐに中身見えちゃわない?
「それがいい」って、さようで……
いいけどさぁ、あたし以外の人にそういうことあんま言わないでよ
なんとなくあんたの趣味は
クラシカルな英国メイド方面だと思ってたけど
それはまた今度って
また着せる気!?
まさか、五つのお願い全部コスプレなんてことないでしょうね?
「その手があったか」みたいな顔しないで!
さすがにお財布的に厳しいでしょうが!?
だいたい、あたしにコスプレさせて誰得よ?
あんたが得してる?
すごく似合ってる?
ほんとに~?
本気で言ってる?
ちょっと玄関の姿見、行ってきていい?
ほほう、これはなかなか……
うんうん
自分で言うのもなんだけど、意外と悪くないわね
正直、まんざらじゃないっていうか……
着るもの変わると、やっぱ気分も変わるわね
スカートなんて高校の制服以来着てなかったけど
こういうのもたまには……
えっ「もっとメイドっぽくしゃべって」って……
敬語? 「ご主人様」って呼べばいいの?
ええ~……
なんかなぁ、お尻の穴がムズムズするんだけど……
「メイドさんはそんなこと言わない」って
言うでしょ、メイドさんだってお尻くらい
ん~、まあいいけどさぁ……命令だし……
じゃあ、コホン
お帰りなさいませ~、ご主人様♡
「どっから声出した」って……
あんたが言えって命令したんでしょうが!?
もう一回? 笑わないから? ゼッタイ?
あ~、はいはい……
じゃあ、こっからはメイド喫茶モードでいきますよ~……
お帰りなさいませ、ご主人様♡
本日はいかがいたしますか、ご主人様?
いっしょにゲームしますか? ゲームにしますか?
それともゲ・エ・ム♡
ええ~……
それはまた今度……ですか?
お昼ご飯を作って欲しい?
それが二つ目のお願い……ですか?
まあ、そのくらいならお安い御用ですが……
この格好のまま作るんですか?
「でなきゃ意味がないだろう」って
そんな力強く断言されても……
あ~、それでは何をお作りしましょうか?
オムライス……まあ、簡単でいいですが……
材料はどうしますか?
「冷蔵庫の中に」って……
SE:足音
SE:冷蔵庫の扉を開ける音
ニンジン、タマネギ、ベーコン、タマゴ、ケチャップ……
それに、お米まで炊いてあるじゃないですか!?
さては最初から命令する気満々でしたね、ご主人様?
分かりました、じゃあ準備しますので待っていてください
SE:包丁で野菜を切る音
SE:フライパンで油を加熱する音
あ、あの……ご主人様?
なんで真後ろにいるんですか?
あんまり見られると気が散るんですが?
特に、その、スカートの裾あたりが……落ち着かないっていうか
「手伝うこと」ですか?
う~ん、じゃあ、タマゴ二つボウルに割って、
塩コショウを振っといてもらえますか?
サッとでいいです、ケチャップメインなので……
え~っと、「次は?」って
ちょっと、近い近いっ!
ん……あっ……!
今、包丁持ってるからっ、危ないからっ
そういうのは後で!
あ……んんっ……
そういうのってのは、その、ようは、えっと……
……もうっ!
ご主人様らしく向こうでゲームでもして、待っていてください!
すぐできますからっ
(ひとり言ココから)
ったくも~、中途半端にいじられたから
ウズウズするじゃない……
それにこの格好でされると、なんだか……んん……
――あ、ヤバッ、焦げる!
集中、集中っ!
(ひとり言、ココまで)
SE:ドアを開ける音
SE:食器をテーブルに置く音
はいっ、できましたよ~
ちゃんと、ケチャップでハートマーク書いときましたから
こういうのがいいんでしょう、ご主人様?
「目の前で書いて欲しかった」?
「読みが浅い」?
あ~、はいはい……
申し訳ありませんでした~、ご主人様~
それはまた今度ということで、本日のところは諦めてください~
え、ええ……?
おいしくなるおまじない?
何それ?
えっ、動画? これ?
SE:動画の再生音
……マジか。思わず素の声が出たわ
これをあたしにやれ……というんですか?
いやいやいやいや、無理だから……ムリっ!
こういうのはプロのメイドさんがやるから萌えるんであって
あたしがやっても……
ぐっ……ここまでが、料理の命令に含まれてる?
ご主人様命令?
くぅぅ……
あ~もう、分かった!
やるわよ、やります~
もっかい動画見せて
SE:動画再生音
う、うぅぅぅ……
い、いきますよ~
おいしくな~れ、おいしくな~れ♡
きゅるるるんっ、ぽんっ、あっわわ~♡
はいっ、おいしくなりました~♡
……くっ、殺せ
ぜい、ぜい、ぜい、ぜい……
ぐ、うおぉぉぉ……
うがあぁぁぁぁ……
って、あたしがもだえてるあいだに
サラッと食べ始めてるし!?
ど、どう? おいしいですか?
「良くできてる、最高」?
そうですか、それは良かったです
あ、はい、じゃあ、あたしも半分……
えっ、ご主人様が食べさせてくれるんですか?
じゃあ、はい、あ~ん
うん、まあまあ、上出来だと思います
じゃあ、あたしも……
どうぞ、お召し上がりください、ご主人様
あ~ん♡
あっ、飲み物用意するの忘れてました
ジュースが冷蔵庫にありましたね、たしか……
SE:コップを並べる音
「こっちもおまじないして欲しい」?
はい、ムリです♡
いや、ほんと、ガチで勘弁してくだせぇ
あ~、あたしの呪文は一日一回限定なんです
金色の魔王の力を借りておいしくしてますので
これ以上無理に発動しようとすると
魔力が暴走して世界が滅びます
はい、仕方ないのです
代わりにもっとあ~んしてあげますから
はい、あ~ん♡
ふぅ、キレイに食べてもらえて嬉しいです
はい、ごちそうさまでした
さて、腹ごなしにゲームでも一戦いっときますか、ご主人様?
「それよりもまだお願いが残ってる」?
……これでお願い二個?
ええ~、まだあと三つも残ってるの?
すでに百個くらいやったレベルの
カロリー消費量なんですが……?
「効率いいダイエット」じゃない! もう!
はぁ~、分かりました
じゃあ、次のお願いを教えて頂けますか
ご主人様?
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