第7話 約束
それから幾日が経った。
忙しさにかまけ、辻と連絡を取っていなかった。
(あるいはあの夜を思い出したくなくて、取らなかった)
しかし筋は通さなければならない。金は払わなければ。
金を払ったら、辻との連絡は控えようと博美が作った素朴な弁当を食べながら思った。
博美は料理が美味い方ではないが、努力はしている。
付き合いたての頃は義母が作った弁当を食わされていたが知らなかった。
新婚の時はそれほどまでに俺を手に入れたかったのかと可愛くて仕方がなかったが、今となっては博美が寝坊してコンビニ弁当が食べれる日が嬉しい。
弁当を腹に詰め込み、ふと、今日、辻に逢おうと思った。
金を払ったらしばらく距離を置いてもいいのではないか。
もう素山の中では(頭のおかしい連中)と位置づけられるようになっていた。
辻の予定が空いていればいいのだが。
BARに関しては満席になることは今まで一度も無かった。
心配ないだろう。
もうすぐ昼休憩が終わる。博美に電話をかけた。
「俺。今日辻と呑みに行くわ」
「また?いいけど先に寝るから」博美は少し不機嫌だ。
「この前金払うの忘れててな、払いに行くわ」
「わかった。ねえ、辻さん私のこと何か言ってた?」
「何も。じゃあ仕事戻るわ」
博美は今でも辻が気になるのだろうか。
余計に機嫌を損ねたようで、乱雑に電話が切れた。
次に辻に電話をかける。辻も今は昼休憩のはずだ。2コール程で電話に出た。
「恭介、この前はありがとう。俺金払い忘れてたから今日また逢わないか?」
「政春、気にしてくれてたのか。ありがとう。朋も喜んでいたよ。良い友達持ったねってさ。またあそこでいいよな?」辻は嬉しそうだ。
「あぁ、だってあそこは俺たちの思い出の場所だからな」最後くらいは行ってもいいだろう。
学生時代は毎晩あのBARに行き、呑めない酒を無理やりに嗜んだ。
それが格好いいと思っていた年齢だったのだ。
「じゃあ9時に向かう。恭介は?」
「9時なら行ける。楽しみにしているよ」
電話を切ると何故か疲労感が押し寄せてきた。午後も仕事を頑張らなければならない。
素山の中では「これで最後だ」という決意のようなものがあった。
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