第13話 黒流星カロルの配信
『電気タイプのステージリーダーなら、地面タイプのモグラドンが有利。
高速アタッカーとして、先陣を切ってもらう』
俺と瑠菜は真白が来るまでのあいだ、推しのVチューバー
『
配信しているゲームは最新作のクルモンSV。
そして場面はマップの一部を仕切っている、ステージリーダーとの戦い。
勝てば証を手に入れてストーリーが進行するという、
クルモンシリーズを通して必ず発生するイベントだ。
「ステージミッションをクリアして、ようやくリーダー戦だね。
カロルの手持ちなら、十分戦えると思うけど、どうなるかな……」
「かなり苦戦するんじゃないか?
確かここステージリーダーは、地面対策で無効相性のクルモンを
二体仕込んでいたし、相性有利があってもモグラドンとゴロゴロゾウの
レベルで覚える地面わざのダメージは、結構低いぞ」
「だね。二体とも、もうちょっとレベルを上げれば進化するんだよね。
でも、カロルのプレイスタイルだと、あまり経験値稼ぎしないから
激戦になりそう」
「適正レベル的にも、ちょうど進化しづらいのがネックだよな」
「ここはもう、カロルとクルモンを信じるしかないね。
――始まるよ、ユウちゃん」
瑠菜はわずかに身体を前に乗り出して、熱心に画面を見つめる。
そして緊張感が溢れるBGMと共に戦闘が開始され、
お互いのクルモンが繰り出された。
「あー、カロルのモグラドンに対して、相手は電気飛行タイプのトリライデン。
さっそく得意の地面技が無効化されたな」
「だけど、モグラドンのスピードなら先制攻撃できるよ。
ここで相手の体力を減らせれば、勝てる」
俺も瑠菜も、すでにこのゲームはプレイ済みなので、
あーだこーだと意見を交わし合う。
もちろん、視線はモニターに注視しっぱなしだ。
カロルはこの展開に取り乱した様子は無く、
普段と変わらない落ち着いた素振りで技構成を表示する。
『んっ、地面タイプの対策をしていることは予想していた。
だからこっちも、飛行タイプに効果抜群の岩技を組み込んでる。――隙は無い』
「あっ、モグラドンに岩タイプの技を思い出させていたんだ」
『モグラドンの『大岩囲い』。
トリライデン、沈め……っ!』
雷に打たれたかのような、軽快なエフェクトが鳴り、
相手のクルモンが倒れた。
事前に仕込んでいたカロルの戦術に、こちらも思わず声を漏らす。
「おおっ、一撃……! さすが攻撃力が高いなっ」
「しかも急所に入ってたよっ! こういう場面での引きが良いんだよね」
ダメージを受けずに敵を倒し、まさにスタートは好調。
カロルの手持ちのクルモンはまだ六体もいて、相手の数は三匹。
数的有利を考えても、カロルの勝利は固い……そう思った矢先。
『モグラドン、『地面揺らし』。
なっ……! 耐えた、だと……?』
「うわっ、相手も相手で耐久値が高いな」
「相手もボスだからね。あっ、弱点の攻撃でモグラドン倒された」
「モグラドンは体力も防御も低いからな。
だが、すでに一体倒しているから、まだまだ優勢なのは変わらない」
しかし、その気持ちの余裕を衝くように、
ステージボスのレベルによる苛烈な攻撃が繰り出される。
『相性だとこちらが有利なのに、ゴロゴロゾウとほぼ相打ち。
さすが、ステージリーダー……強い』
カロルが電気タイプの対策として繰り出したクルモンも、
体力を半分以上減らされた挙げ句、続けて出された相手にノックアウト。
手持ちのクルモンは四対二。
依然として、数の利としては優勢。
しかし、その支えであった相性有利が覆された途端に、
相手の電気タイプが持つ特殊な状態異常がカロルを苦しめる。
『くっ……! 麻痺状態で行動ができない。
相変わらず、この状態異常はバグってる』
「麻痺状態にされて、二回続けて行動不能は運が無いね」
「加えて天候が雨になったせいで、炎タイプの攻撃が半減。状況は悪くなる一方だ」
電気タイプに不利な水タイプを抜いて、選出した炎タイプがかえって仇となる。
そうこうしているうちに、二対一へと持ち越された。
『むむっ、マズい……。相手の切り札は強化モードのクルモンだから、
技の選択を間違えたら力押しされる。みんな、ちょっと作戦会議、しよう』
動画はライブ配信していたので、リアルタイムで視聴していたファンからの
コメントを、カロルが読み上げる。
『なになに……どろ攻撃で命中率を下げる。
相手は特殊能力で地面攻撃が効かないからそれはできない。
相手を毒とひるみでハメて倒す……悪くないから試してみるかも。
捕獲ボールを相手に投げる……投げたいけど、アイテム縛りもしているから
できない』
攻略に役立つ情報に、無難な回答、ふざけた回答など、
カロルはピックアップして答える。
何気ない配信者と視聴者のやり取り。
しかし、黒流星カロルの落ち着いたハスキー気味の声は、
不思議と耳に馴染み、肩を並べてゲームをしているような親近感があった。
いわゆる、長時間聞いていられる声質、とでもいうのだろうか。
ASMRのような心地よさもあるのが、彼女の人気の秘密だろう。
『準備不足のコメントもあるね。うん、私の対策が足りなかった点もあるから、
次回の反省に繋げよう。それじゃあ、さっき言っていた毒とひるみで運試し。
みんなの応援期待してる』
「最後の大詰めで、まさかの泥試合に……。
一体どうなるんだ?」
「でも、これで勝てたらスゴくない?」
順調に進んでいた序盤の立ち上がりから一転。
搦め手による運試し。
手に汗握る緊張感。
それに比例して、盛り上がりを見せるBGM。
そしてなんと。
『やった……!
ギリギリだったけど、何とか勝てた、ブイッ!』
激戦の末、黒流星カロルは勝利を手中に収め、嬉しそうにVの字を指で指し示す。
「カロルすごいね!
最後、二回連続で相手を行動不能にして、相手の体力を削りきったよ!」
「麻痺で行動不能になった分の遅れを、ちゃんと取り戻せたのがデカいな」
そしてキリが良いところで動画の配信は終了し、
俺と瑠菜は興奮冷めやらぬ中で、感想を言い合っていると。
「二人とも、クルモンの動画観てたんだ」
「紫音お姉ちゃんこんにちは、今日もお邪魔してます!」
「うん、いらっしゃい。ごめんね、大したおもてなしもできなくて」
「いえいえ、遊びに来てるだけなんでお気遣いなさらず」
「瑠菜ちゃんはいつも雄太の面倒をみてくれるから、
雄太が寂しがらずに済んで助かる」
「姉さん、別に俺は寂しがっていないからな」
「それは嘘。それに雄太は放っておくと、ゴミとかすぐに溜めるから、
瑠菜ちゃんがいると助かる」
「あっ、わかります。ユウちゃんって飲み終わった
ジュースのペットボトルとか缶を、まとめて捨てるとかで、ため込むんですよね」
「……だから、ちゃんと捨ててるだろ」
「あたしが来てから、一緒に捨ててるでしょ!」
「雄太はそういった片付けるスキルを身に付けるべきだ」
「二人に言われると、さすがに言い返せねぇ……」
実際、面倒になってゴミをため込んでしまうのは事実なので、
個人的にも瑠菜が来てくれるのは助かる。口うるさいのは、勘弁だが……。
「それで、二人は誰の動画を観ていたんだ?」
コーヒーのおかわりを入れに来た姉さんは、
キッチンでペットボトルと牛乳パックを冷蔵庫から取り出し、
カフェオレを作りながら会話を続ける。
「黒流星カロルっていうVチューバーなんだけど、姉さんは知ってる?」
「く、黒流星カロル……だと?」
「姉さん、どうしたの?」
「い、いや……な、何でも無い……」
普段感情の起伏を表情に出さない姉さんに、明らかな変化が垣間見えた。
カフェオレを作る手はピタッと止まり、声は上擦る。
何か隠している?
そう考えるも、姉さんはわざとらしい作り笑いを浮かべてはぐらかし、
そさくさと立ち去ってしまった。
「何だったんだ、一体?」
「えっと……いつも不思議な感じだけど、いつもに増して、変だったね」
俺と瑠菜は互いに顔を見合わせる。
そのタイミングで自宅のインターホンが鳴った。
「あっ、マシロンじゃない?」
「だろうな。んじゃ、ちょっと出てくるわ」
事前の話通り、真白が遅れてやってきたのであった。
姉さんがなぜ、黒流星カロルにあそこまで露骨な反応を示したのかは
わからないが、その答えがわかる日はくるのだろうか……?
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