魔女と最後のデート回②
気が付くと1時を少し過ぎていたので、僕らは遅めの昼食を取ることにした。
「今日の着た中だと、どれが良かった?」
彼女は頼んだパスタを食べながら質問する。
「んー、やっぱり似合うのは二件目かなぁ、一件目も良いとは思った。ちょっとカッコいい系なのも好きだなぁって思ったよ」
「三件目はどうかなぁ?」
「ロリータっぽいファッションかぁ」
僕は三件目でのファッションショーを思い浮かべる。
「似合ってなかった訳じゃないけど、選んだ服は僕の好みではなかったかなぁ」
「どんな服が好きなの?」
「んー、改めて聞かれると困るなぁ。あまり甘々すぎるのは苦手かも」
僕の答えに彼女は人差し指を顎先に当てながら「だから一件目も良いって言ったのね」
彼女はどこか納得していた。
僕は注文したオムライスとコーンスープを飲み終えると、彼女は食後のコーヒーを楽しいでいた。
「あと、何件か行くか。さっきの店のうちのどこかにもう一回行くかどっちがいい」
「三件目はさ、甘々系ばっかりだからちょっと違う系統を試してみるとかどうかな?」
僕は三件目に再度行く提案をしてみた。
出来るならもう一度行って確かめたいこともあった。
「良いよ、じゃあ今度はあなたが選んでね。あなたのセンスを試してあげる」
「上からだなぁ、別に良いけどさ。じゃあ店出たらまた三件目に行こう」
少し腹ごなしにゆっくりして、それからさっきのお店に戻った。
店に入るとまたふわふわとした甘い香りに包まれた。
少し店内を歩き、彼女が着ていたような地雷系に近いものを探す。
「さっきとは違うこういう系統はどう?」
そういって地雷系のファッションをチョイスして見せる。
「ふーん、君はそういう感じの女の子が好きなのね。へー」
少しジトっとした目で僕を見る。
が、彼女はまぁ着てみると言って試着室に向かった。
僕が選んだものに着替えるとカーテンを開けた。
「どうかしら?」と試着室の中でクルッと回る。
僕はどうしてもちづらと重なる錯覚を覚えた。
四着目に着替えたところで、おぉーっと思わず声が出た。
「これが良かった?」
「それが僕の中で今日一番かな」
「そっか、分かった」
そう言うと服を着替えずに試着室を出た。
僕がちょっとっと言ったところで、近くの店員に声を掛ける。
「今着ているのが欲しいのですが、出来ればこのまま着たいんですけど」
そう店員に言うと、こちらへどうぞと店員に促されレジのある方へ向かう。
僕は慌てて試着室の中に残された彼女の服を拾う。
彼女の体温がまだ少し残っていて、どことなく生暖かった。
考えないように彼女の服を抱えて、彼女のところまで行く。
彼女はレジで首元に着いたタグを切ってもらっているところだった。
僕が着くと店員から貰ったらしいお店のロゴの入った袋を渡される。
「これにそれらを入れといて」
彼女に言われて服を畳んで入れる。
僕らは店員のありがとうございましたという言葉を受けてお店から出る。
「よかったの、それ買って?あんまり好みではないんだと思ったんだけど」
「良いのよ、気分転換したかったし。折角あなたが良いって言ってくれたものだもの」
彼女は隣で歩きながら、鼻唄交じりに歩く。
それから僕らはまた少しだっけウインドウショッピングを続けた、隣では地雷系のファッションを纏う彼女がいるせいか、なんとなく周りから視線を向けられている気がした。
夕方頃になって帰ろうとすると、突然雨に見舞われた。
雨のかからない、少し薄暗い路地に二人で避難する。
「急な雨ね、最悪」
「せっかく服買ったのに、ついてないよな」
僕らは二人でため息を吐く。
同時に二人して少し笑いが出た。
二人同時にため息を吐いたのが、なんだかおかしかった。
二人で顔を見合わせているその瞬間に。
――彼女の首を斬った。
僕の手には剣が握られている。
彼女の首を居合切りするように、瞬間的に剣を顕現させて斬ったのだ。
斬られた彼女の首は落ち、彼女の両手に包まれる。
「やっぱりかぁ……、お前はちづらだったんだな」
斬られた首と手に持った頭部から血がとめどなく溢れる。
いくら雨で血を流そうとも、薄まるだけで血の色までは消せない。
「なんで、それをココで出せるの?」
僕の剣を指してそういった。
「彼の剣の顕現条件にそもそもあの箱は関係なかったんだろ?あの病院に居る老人たちに意味があっただけで」
僕がそう言うと、少しびっくりしたようにした。
「それでもあの中じゃないと権限は相当難しいはず、私の血も与えてないのに」
「確かにな、でも僕は彼と同質のものを持ってるんだろ。それに今僕の中には彼も居るんだ、出来ない訳がないじゃないか」
僕の答えに少し呆れるかのようにしながら次いで聞く。
「そもそもなぜ、私だとわかったんだ?もし違ったらどうしてたんだ?」
僕も決して確証があったわけではなかったから、正解で自分自身がちょっとびっくりしたくらいだ。
「だってこの前スマホを僕の前で取り出した時、スマホにストラップ付けてただろ?」
「まさかそれだけで……」
「それだけじゃないけど、ね」
僕はそう言いながら彼女を、彼女の服を指さす。
「その系統の服を着たとき、なんだか君を思い浮かべた。それでそれが確信に変わるかどうかもう一度あの店に行ったんだよ。まさか買うとは思わなかったけど」
新しく買った服は今、彼女自身の血でドロドロになってしまっているけれど。
彼女の衣服も、手も、そして地面も何度も何度も雨が洗い流すが、そのたびに新たな血の跡が出来る。
「ストラップと服でかぁ、服は一応気にしたんだけどなぁ。君とのデートで舞い上がっちゃったね」
手に抱えられた頭がそう言って笑う。
今の光景は不気味さや異様さが際立っているはずなのに、なぜか抱えられている頭部と目お合わせるとそれらの異様さに意識が行かない。
「私はこのままじゃ死なないよ、さぁ心臓を刺すのよ」
そう言うと顔をおへその位置に置く。
僕はおそらく最後のチャンスだろうと思い、彼女の心臓めがけて走り出す。
バシャバシャ――
赤くなった水の塊を音を立てて踏み歩く。
「うぉぉぉぉぉぉ」
叫びながら彼女の心臓に剣を突き立てようと切っ先が彼女の胸に刺さり、刃先を伝って血の雫が落ちる。
剣はそれより先にはいかなかった。
いくら手に力を入れても、彼女には切っ先以上の部分が刺さらない。
「何故だ、何故今度は邪魔をするんだ……」
僕は自分の中に居る、彼へと言った。
彼は答えないが、力を入れても動かないこの腕が答えか。
僕は無理やりに力を入れる。
腕中の血管が浮き出る。
少しだけさらに刺さったが、でもすぐに止まる。
押し込むと首から血がドッと溢れる。
ビチャッと血が雨跡に打ち付けられる。
刺さった剣が震えながら彼女から抜けていく。
「お前が止めなければやれたかもしれないのに……」
僕は完全に力を抜いて、剣を手放した。
途端に切っ先の刺さっただけの剣は抜け落ち、光の粒子となって霧散した。
彼女の頭部は悲しそうに、涙を流した。
立ち尽くし、濡れ続ける僕らは彼女の前で立ち尽くしてうなだれる。
彼女は首を元の位置に戻すと「ごめんね」と言った。
それから彼女は僕の足元に落ちていた彼女のの服が入った袋を手に取って「バイバイ」と言って僕の前から立ち去った。
「――――」
僕は彼女の背中に向かって声にならない叫びをした。
しばらく濡れるままにそこに立ち尽くして。
「僕にどうしろって言うんだよ……」
雨に流すようにただただ独りごちた。
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