魔女が佇む四角い箱
山の上にあるという病院がインディゴだと聞いてから三日後――
今日は久しぶりにホームで彼女を見つけた。
ファッション自体は相変わらず地雷系ではあるが前回とは違う、ピンクを中心としたファッションだった。
そんな彼女を眺めていると、ふと彼女と目が合った。
目が合った瞬間、彼女は僕に笑いかけた気がした。
なので当然彼女は僕のことには気づいているだろう。
だけど、僕は何食わぬ顔をして電車に乗ると彼女の動向を追った。
電車の走る何度目かのゴーっという音がするうち、気が付くとこの車両には彼女と僕しかいなくなっていた。
「次は――、次は――」
駅の名前は電車のいつもよりも大きなゴーっという音にかき消されてうまく聞こえなかった。
駅に着くと彼女はいつも通り降りていき、僕も彼女の後ろをつけていく。
駅を出ると道路の両脇は田んぼしかなく、後ろを歩く僕は彼女から隠れるすべすらもないままその後ろをついて歩いた。
彼女が僕のことを気づいていないはずもないにも関わらず一切後ろを振り返ることなく歩き続ける。
そのうち山道に入り、彼女は登っていく。
彼女の背中を見失わないように少し遠くからついていく。
「なんであんな厚底の靴を履いてるのにペースを変えることなく登れるんだ......」
僕は少し息を切らしながらその山道を登っていた。
登り切る頃には彼女の背中も見えなくなり、目の前には廃病院とも見える建物がそこに建っていた。
どう考えても彼女はこの中に入っていった。
僕は唾を一度飲み込むと、教室に来た彼女のやり取り相手が通ってるといういう言葉を信じて足を踏み入れた。
中は外観とは違い普通の病院で受付の前に待合室があるいわゆる普通の病院だった。
僕が中に入りあたりをきょろきょろしていると。
「今日はどうされましたか」
と突然声をかけられた。
その声は正面にある受付からで、少ししどろもどろになりながら今来たであろう彼女の特徴と探していることを伝える。
「あなた『ちづら』ちゃんのお友達ね、君が来たら先へ通すよう頼まれてたの。このまま奥へ言ってちょうだい」
受付の看護師さんにそう促され僕はそのまま奥へと進んだ。
促されるまま歩くこと、突き当り右側に大きく分厚い鉄の両開きになった引き戸だけが真っ白な壁に据えられてるかのように、浮いて見える状態でそこにあった。
振り返るもそれ以外に来た道には扉はなかった。
僕はその扉を少し開けて中を覗き見た。
ガキンッ、バシュッ――
中から金属音と空気を切り裂くような音が聞こえてきた。
奥には彼女らしき人影とそれを囲むように何人もの人がいろいろな武器を持っていた。
そしてよく見ると彼女の服はズタボロであちこちから血を流していた。
「また今日もダメじゃったか」
扉側より少し奥に居た、車いすのおばあさんがそういう。
みんな武器を降ろすと僕の方へと向かう。
反射的にヤバいと思ったが隠れるところもなく、ただそこに佇んでいた。
一番最初に出てきたおじいさんに声を掛けられる。
「しっかりみとくんじゃぞ」
と言い残すと僕の肩を軽くたたいてそのまま僕が来た方へと歩いていった。
それに続くように何人ものおじいさん、おばあさんたちがぞろぞろと部屋から出ていく。
そして僕はたった一人置きざりにされた彼女へと向かった。
さっきまでおびただしいほどの血が地面を這い、彼女自身も身にまとっていたファッションもズタボロになっていたはず......はずなのに、あたりには服の破片どころか血の一滴すらなかった。
彼女のもとまで行くと彼女はまるでなにごともなかったかのように。
「やぁ、君やっぱり来たんだね」
とそう僕に笑いかけ、それから。
「君にだけは来てほしくなかったなぁ」
少しだけ悲しそうに彼女は僕にそう言った。
僕は彼女のその言葉になんて返せばいいのかわからなかった。
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