一.MAID IN FAKE(2)

 起きるといい匂いがしていた。

「ご飯出来ましたよ」

 微笑むスニィ。

「ありがとう……あれ?」

「どうしました?」

「僕、何か持ってなかった?」

「部屋に入ったときにはありませんでしたよ」

「何か持っていたはずなんだ。ベッドから降りて、タンスを開けて、何もなくて……いや、その時だ。何か見つけたんだ」

「ちょっと待ってください。歩いたんですか?」

「うん、暇だったから」

「だ、駄目です! そんな、だって、危ないじゃないですか!」

「ご、ごめん。僕の体ってそんなに怪我だらけなのかい?」

「あ、いや、そこまでじゃないですけど……次からは私に言ってください。付き添いますので」

「ありがとう」

 ウミは昼食を済ませる。

「朝ご飯の時って薬飲んだっけ?」

「はい。飲んでいましたよ」

「そっか、ありがと。ところで、これなんの薬?」

 手に乗った一錠を見る。

「体の痛みを和らげるものです。副作用で眠気が出てきますが」

「なるほどね、怪我に気づけない訳だ」

 頷くウミ。

「あ、そういえばさ、なんで首輪付けてるんだ?」

「首輪……ああ、これですか。あはは、人が首輪なんて付けませんよ。動物じゃないんですから」

 笑うスニィ。

「チョーカーですよ。ウミ様が買ってくれたんですよ」

「チョーカー?」

「ネックレスみたいなもの、と言えばいいでしょうか。アクセサリーのひとつですね」

「へえ、スニィはおしゃれさんだね」

「そうでしょうか。あ、私は仕事に戻ります。晩ご飯の時間にまた来ます」

「うん、おやすみ」


 * * *


 暗い部屋。泣く虫。星と月。

「夜か……」

 照明が点いていない。ご飯がない。スニィがいない。

「電気、点けるか」

 呟いてベッドから降りる。照明のスイッチはドアの横にある。スニィの動きから学んだ。

 スイッチの高さまで腕をあげる。

 その時だ。

 腕に激痛が走る、ドアが開く、体勢を崩す、お互いに目が合う、部屋の外に倒れ込む。

「いたたってうわぁ! ごめんスニィ、大丈夫?」

 ウミはスニィを下敷きにして倒れていた。ウミはすぐに退いた。

「あの……大丈夫?」

 しかしスニィは体を縮め、がたがたと震えていた。ゆっくりと這っている。何か言っているが聞こえない。

「スニィ、スニィ?」

「あ、あっはい。どうしました?」

 パッと立ち上がる。

「怪我してない?」

「あなたが気にするなんて……じゃない、いえ、まあどこも。あ、ご飯! ごめんなさい、今すぐ作り直します」

「ゆっくりでいいよ。僕もこんなだし。お風呂入ろうかな」

 夕食のかかった服を見せて言う。

「ああ、本当にごめんなさい」

「ではお風呂に行きましょう。もうすぐ沸くはずです」

 廊下を歩く、風呂場に着く、構造を教えてもらう、湯船に浸かる。

 アザを見つける、風呂から上がる、スニィと部屋に戻る、ご飯が置いてある。

「それでは私もお風呂に入ってきます」

「うん、準備ありがとう」

 スニィは部屋を出ていく。ウミはご飯を食べる。

 一人になった部屋の中で考える。

(さっきのスニィ、なんか変だったような……)

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