第134話 制作者の推し?とイレギュラー
≪ディーン・ギャロウェイ≫
前世でゲームをやってた時の彼の印象は・・・はっきり言って「邪魔な奴」だったわ!
チュートリアル的な役目も持つゲームの1部で、ヒロインが最初に出会う攻略者がディーン。
そのせいかどうかは知らないけどぉ、とにかくお互いの好感度が上がりやすいのよ。何もしなくても、ストーリーを追っていくだけでカップルが成立してしまうわけ。
気付かない内に好感度が上がってしまうので、油断できない。他の攻略者とくっつけたい時に何度邪魔された事か・・・。
(製作者ってば、ディーンを贔屓してない?攻略者の中心人物ってトラヴィスのはずよね?)
そう言えばもう一つ、許せない事が有ったわ・・・。
念を押すようだけど、この乙女ゲーム『アンファエルンの光の聖女』において、メイン攻略者はこの
それなのに・・・あろう事かファンサイトでは、カップルのビジュアルのランキングに、ディーンが一位に選ばれていたのよ!?
つまりゲームのイラスト上では、ヒロインはディーンと一番お似合いと認められたって事よ!これは一体どういうわけぇ!?
(全くもう!製作者側の意見を聞きたいもんだわ!)
ヒロインはもちろん可愛くて美しいし、攻略者達は皆それぞれにイケメンだから、誰と並んでもイラストは綺麗だった。だけど、ディーンとのカットだけは、思わずハッとする程、見目麗しく、気合が入ってた気がするわ・・・。
(特にパーティでのダンスシーンは、ゲームでの最高イラストにも選ばれていたしね。イーサン様推しの私ですら、目を奪われたほどだったもん)
これはもう、ゲーム制作者も、イラストレイターも、ディーンを推してるとしか思えないじゃない!?
あいにく私は、ビジュアル重視ではないのよ。もちろん良いのに越した事は無いけど、それだけじゃ満足できないの。
(やっぱ、何処か闇を抱えてて欲しいのよぉ!病んでて欲しいの。一筋縄ではいかない部分が無いとつまんないの!)
まぁ、私の趣味志向を話し出すと、長くなるから置いとくわね。
とにかく完全コンプリートを目指していた当時の私にとっては、ディーンはなるべく出張って欲しくない迷惑な奴だったわけ。
だから、この世界でディーンに初めて会った時は、重箱の隅をつつくぐらいの気持ちで、品定めしてやろうと思ったわ。
(さあて、ゲーム内では贔屓されてたかもしれないけどぉ、リアルではどうかしらね、ふふふ)
だけど、そんな先入観を持っていたにも拘らず、この世界の彼のビジュアルはゲームのイラストなんぞ軽く陵駕してきたのよ。
彫像や絵画の様に整った容姿。サラサラのシルバーブロンドに宇宙を思わせる様な濃い藍色の瞳。
(・・・あはーん、なるほど、確かに『氷の貴公子』だわ。・・・ふん、この世界でもヴィジュアルの良さは健在って事ね)
しかも、真面目で優秀なのも、ゲームの設定以上。残念ながら、文句のつけようは無かったわね。まっ、トラヴィス程では無いけどさ。
(『氷の貴公子』なんて、笑ってしまいそうなニックネームだけど、氷系の魔術が得意な事からも、ファンの間では良くそう呼ばれていたっけねぇ・・・)
ここだけの話だけど、裏の肖像画も、その販売ネームで売らせて貰っているのよねぇ。だって本名で売るわけにはいかないじゃない?それに彼の肖像画はクリフ、トラヴィスと並んで大好評なの。
ちなみにクリフのネームは「紫水晶の少年」私は「黄金の獅子」よ。これもゲームのファンサイトから頂いて来た安直なネーミングだけど、顧客には大好評で、飛ぶように売れるのよ~!
・・・おっと興奮しすぎたわ。話を戻すわね。
ディーン達が入学して一年、今年も恒例のダンスパーティが行われたわ。このパーティでは、ゲームの1部を締めくくる最大イベント『ディーンの断罪、アリアナとの婚約破棄』が行われるはず。
私はパーティの仕切りや、来賓や先生方との挨拶等忙しい身ではあったけど、ヘビーな元ゲームファンとしては見逃せないじゃない!?もちろん、いつ始まるかってそわそわしながら、様子を伺っていたわ。
(生断罪は、絶対に見ておきたいわ!まぁ・・・悪役令嬢とは言え、女の子を吊るし上げるのは、気に入らないけどぉ・・・)
ところがよ?ディーン主体の『断罪』も『婚約破棄』も、全く始まる様子は無かったの。
(ん?)
代わりにアリアナと女生徒達の小競り合いがあったみたい。私は丁度その時、他の来賓との挨拶してたから、はっきり見る事が出来なかったんだけど・・・
(何がどうなってんのよ?)
疑問に思いながらもダンスパーティは進んでいったわ。時折、ダンスホールで歓声が聞こえるのは、攻略者の誰かが踊っているのよね、きっと。つい先ほども、一際大きい感嘆の声が聞こえて来ていたし。
(あ~あ、そろそろエメラインと踊らなくちゃいけないかしら・・・面倒ねぇ)
さっきから凄い目で圧力をかけられているの、怖いったらありゃしないわ。まぁ婚約者だから仕方ないわね。嫌な事はさっさと済ませちゃいましょ。
私はエメラインの手を取って、ホールの方へ向かった。すると丁度ディーンとリリーがダンスを始めるのを見かけたの。思わず足を止めてしまったわ。
(へぇ!これはこれは・・・)
ゲームでの最高イラストにも選ばれていただけあって、ディーンとリリーのダンスは圧巻だったわ。二人の動きにホールにいた全員が目を奪われていたし、踊りを止めて見惚れる人達もいたくらいよ。まるでそこだけスポットライトが当たってるみたいに、二人の姿は輝いていたわ。やるじゃない!
(・・・ふうん)
だけど、私の目は誤魔化されない。直ぐに分かったわ。
(この二人、確かに超お似合い。それなのに、お互いに気持ちは全く無いのね)
ゲームではあれだけ好感度の上がりやすい二人だと言うのに?
どうやら私が思っていた以上に、この世界はゲームの筋から逸脱して行ってるよう。
その原因は一体・・・?
(これは、早急に確認する必要があるわね・・・)
やっぱりこの一年で、一番感じた違和感の正体を調べなくちゃいけない。
私はその張本人である彼女の姿を探した。
(悪役令嬢アリアナ・コールリッジ!)
ダンスパーティで断罪は行われなかった。婚約破棄イベントも無い。それにディーンがリリーと踊っている言うのに、一体彼女は今どこにいるの?
(通常のアリアナなら、怒り狂ってダンスの邪魔をするはずよ?しかも、ディーンの気持ちがリリーに無いなんて、ゲームでは有り得なかったわ)
それに終業式でアリアナは1年生の最優秀生徒に選ばれていた。あの時は賄賂でも使ったかと思ったけれど・・・。
(もし、そうでないとしたら・・・)
エメラインとダンスをしながらも、思考を動かせ続ける。それでも当然ながら、本日最高の歓声がホールに沸き立った。
そしてエメラインとのダンスが終盤に差し掛かった時、私はやっと目の端に、ふわふわのハニーブロンドを見つけたのよ。
(いた!)
ダンスホールの片隅で、アリアナはどこかの子息と話していた。正直、彼女をしっかり認識するのは、この世界に生まれてから初めての事かもしれない。そして彼女を遠目で見た瞬間、ゾクリと背中が泡立った。
(何これ?有り得ない!)
彼女が悪役令嬢?
これが1部で消えるモブ?。
そんな事あるわけがないわ。この私、皇太子トラヴィスが彼女の存在感と強い目の輝きに、一気に心を惹きつけられてしまったのだもん。
そして一つの可能性が、急速に胸に浮上してくる。ならば今日やるべき事はたった一つよ!
音楽が終わった。エメラインの手を離した私は真っすぐ彼女を目指した。無理矢理彼女をダンスに誘い出し、私はアリアナを観察する。
(間違いないわ)
心が浮き立たつのが止められない。再び音楽が終わった時、私は彼女の耳元でささやいた。
「悪役令嬢役はどうしたの?」
アリアナが息を飲み、目が驚きに見開かれる。
(ビンゴ!)
大慌てする彼女が面白くて可愛かった。
そして一番意外だったのは、私とアリアナが踊っていたのを睨むように見据えるディーンの姿よ。え?何?こんな愉快な事になってるの!?
(はーん、若いわねぇ・・・心配と嫉妬が隠せてないわよ?くっくっく・・・ああ、楽しい!新学年からは、今までよりも~っと面白くなりそうだわ、うふっ)
まずはこの一番のイレギュラーの主を、どうやって私の近くに置くかよね?
私は楽しい策略に夢中になった。
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