第18話 ヒロインと湖
幸いボート乗り場にはボートが1艘だけ残っていた。
(ボートで湖に出てしまおう!そうすれば奴らと関わらなくて済む)
そう思ってボートに乗ろうとしたところでリリーに追いつかれてしまった。
「ア、アリアナ様!」
(げ!リリー、早っ!)
見るとリリー越しに、少し離れてディーンやパーシヴァルが向かってくるのが見える。
(えーい、こうなったら!)
「リリー様!一緒にボートに乗りましょう!」
「えっ?」
戸惑うリリーを引っ張って私は無理やりボートに乗り込んだ。そしてへたっぴながらもオールを使って、湖の中心に向かって漕ぎ出した。
初めて漕いだにしては、私とリリーを乗せたボートはスムーズに岸から離れていく。
「・・・っ!」
ディーン達が岸で何か言ってるのが聞こえたが完全に無視してやった。
少し右に曲がっていくと岸辺に立っていた大きな木のおかげでディーン達の姿も見えなくなり、私はやっとここで一息ついた。
(ふう、やれやれ)
「あの・・・アリアナ様?」
(あっ、しまった!リリーの事すっかり忘れてた)
「ごめんなさい!リリー様。いきなりボートに乗せたりして。あの、ちょっとこれには訳があって・・・」
しどろもどろな私にリリーはふわりと笑った。
「大丈夫ですわ、アリアナ様。私、アリアナ様とボートに乗れてうれしいです」
「えっ?」
「私、学校に女の子の友達が誰も居なくて・・・。ピクニックに来るのも少し憂鬱だったんです」
リリーは少し寂しそうに目を伏せた。
「でも今日はアリアナ様とこんな風に過ごせて、ミリア様達とも親しくなれましたし、とても楽しいんです」
「リリー様・・・。」
「だから、ありがとうございます。アリアナ様」
少し頬を染めて花のような笑みを浮かべ、私をまっすぐ見るアリアナ。
(ぐっ、可愛いっ!)
ヒロインの魅力アタックを受けるのはもう何度目だろうか?
どこまでも青い空、美しい山々、透き通った湖の景色、そして美しい微笑みを浮かべるヒロイン・・・
これ私が攻略相手だったら瞬殺じゃ。
(アリアナも大変だったろうな。こんなヒロイン相手に戦わなきゃいけなかったんだもんね。なんだかアリアナがちょっとだけ可哀そうになって来たわ、はは・・・)
見た目だけならアリアナだって十分可愛い。でもヒロインの魅力は容姿だけじゃない。内面から湧き出る輝きなのだ。
(それに性格も良いでしょ。勉強も出来るし、魔力も強くて・・・おまけに2年生になってからは聖女候補だもんね。敵うわけないじゃんね)
「アリアナ様、どうかされましたか?」
黙ってしまった私に、リリーが心配そうに聞いてきた。
「何でもないですよ。私もリリー様とお友達になれてほんとにうれしいです」
うん、これは嘘じゃない。
(そうよ。逃げ回ったり戦かったりしなくてもいいじゃん)
普通に仲良くすればきっと楽しい。ディーンの事があったからアリアナには出来なかったかもしれない。
だけど私はリリーが好きだ。
ゲームをやってるときは自分がヒロインだった。こんな女の子になりたいってあこがれた。どういう訳か悪役令嬢になっちゃったけど、まだ今ならアリアナだってやり直せる。
(私がちゃんとやっとみせる!)
そう強く思った。
私達はしばらく湖の上で雑談していた。だけどそろそろ戻った方が良いかもしれない。
何も言わずに来たから、ミリア達も心配しているだろう。
それにさすがにディーンもパーシヴァルもボート乗り場で待ってやしないだろう。奴らはモテモテの人気者なのだ。周りにいる女生徒達がフリーで放っておくはずがない。
「リリー様、そろそろ戻りましょうか?」
「そうですね、皆さんも探してらっしゃるかもしれません」
リリーも同じように思っていたようだ。
「アリアナ様、今度は私が漕ぎます。場所を変わりましょう?」
「えっ、良いのですか?」
「はい。私、結構ボートを漕ぐのは慣れてるんですよ」
リリーがそう言ってくれたので私達は場所を変わる事にした。
バランスの悪いボートの上だ。揺らさないように中腰で場所を移動しようとした時だった。 私は持っていたオールの先を間違えて上に待ちあげてしまい、池の水を跳ね上げてしまったのだ。
「きゃっ!」
「あっ」
跳ね上げた水は私たちの近くでボートに乗っていた二人組の女生徒に見事にかかってしまったのだ。
「ご、ごめんなさいっ!」
「も、もう、何をなさるのっ!気を付けてくださいませっ!」
強い口調で言いながら女生徒はこっちを睨んだ。そして私達を見てふと気が付いたように、
「あら、リリー・ハートさんじゃない。さすが平民出なだけあって、なさる事ががさつですこと!」
その言い方にかちんときた。
(嫌な言い方をするなぁ。何なの?この子もリリーをイジメる悪役令嬢なわけ?)
「・・・すみません、水をかけたのは私です。リリー様ではありませんわ。」
私がそう言うと女生徒はこちらの方を見て、
「あら、お嬢ちゃんはどなた?小さいお子様にはこの学園のピクニックはまだ早いのではなくて?」
そう言って二人でクスクス笑い出したのだ。
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