続・一条さんには逆らえない~クラスの女王様な彼女に絶対服従な奴隷の僕。だけど、いつか絶対にわからせてやる~

八木崎(やぎさき)

続・女王様な彼女と奴隷の僕


「ねぇ、ポチ。あんたさー、なんでアタシが呼び出したのか、わかる?」


「い、いえ……分かりません……」


 授業の終わった放課後のこと。僕―――犬塚一人いぬづかかずとは教室内にて、目の前で足を組んで座る彼女―――一条有栖いちじょうありすさんに見下ろされていた。彼女は椅子の上で偉そうにふんぞり返っていて、対する僕は床の上で正座している状態だ。


 まるで傍から見れば主人と召使いの関係みたいになっている。いや、まぁ、実際その通りなんだけどさ……。


「ふーん、そっかー、分からないんだぁー?」


 そう言ってニヤニヤと笑う彼女。その顔はとても楽しそうだ。そして同時に、どこか嗜虐的な雰囲気を漂わせている気がする。


 そんな一条さんの様子に恐怖を感じつつも、黙って彼女の次の言葉を待つしかない。下手に刺激したら何をされるか分からないからだ。


「じゃあー、そんなちょっと考えれば分かることも分からない、惨めなポチの為にー、この有栖ちゃんが特別にヒントをあげちゃおっかなー」


 一条さんはそう言うと、自分の鞄の中から棒付きの飴を一本取り出し、それを口に咥えた。そしてそのままこちらに近づいてきて、しゃがみ込み、僕と目線を合わせてくる。


「で、どうするー? ポチはヒント、欲しいのかなー?」


 見下ろしてくるような視線をしつつ、問い掛けてくる彼女。その表情はとても楽しそうだった。どうやら僕が困っている姿を見て楽しんでいるようだ。くそっ、なんて性格の悪い女だ……!


 でも、ここで答えを間違えたらどんな目に遭わされるか分からないし、何よりここで正解に辿り着いて彼女を見返してやりたい。そんな気持ちが僕の中で強くなっていくのを感じた。


 だからこそ、なりふり構っていられなかったのかもしれない。気がつけば僕はこう言っていたのだ。


「はい! 欲しいです!」


 その瞬間、教室にいた生徒たちが一斉に僕らの方を向いた気がしたけど、今はそんなことはどうでもいい。


 とにかく目の前の問題に集中するべきだと思ったから。


「……ふふ、あははっ♪ そんなに必死になって答えることないのにぃ〜♪」


 すると、それを聞いた一条さんが笑い出した。その様子はまるで新しい玩具を見つけた子供のようだった。


 それからしばらくの間、彼女はずっと笑っていた。何が面白いのか分からないけれど、とりあえず機嫌が良いことは僕にとって都合が良い。


 そのまま上機嫌でいてくれれば、答えに近いヒントをくれるかもしれない。なので、僕はまるでエサを待つ犬のようにじっと待ち続けた。


 その間も、周囲からの視線を感じるが気にしないことにする。気にしたところでどうしようもないから。それに、どうせすぐに飽きてみんな興味を失うだろう。


「うーん、そうねー。それじゃあー、可哀想なポチの為にも、ヒントをあげちゃいまーす♪」


「あ、ありがとうございます!」


 ようやく貰えたヒントだ。これを絶対に聞き逃さないようにしないと……!


 そう思った次の瞬間には、既に彼女は口を開いていた。それはまさに一瞬の出来事であった。


「昨日の放課後」


「えっ?」


「はい、ヒントおわり~♪ さぁて、頑張って考えなさい♪」


 え、いや、ヒントってそれだけ……? いやいやいやいや、流石に少なすぎるでしょ!?


 というか、昨日の放課後って言うけど、それじゃあ範囲が広すぎだって! ヒントをくれるにしても、もっと分かりやすく範囲を絞ってもらわないと困るよ!! これじゃ全然分からないじゃないか!!


「あれあれ~、どうしたのぉ? そんな難しい顔してぇ~」


 ニヤニヤしながら聞いてくる一条さん。くっ、こいつめ……! 完全に僕のことを弄んでやがる……!! ちくしょう、見てろよ……! 絶対当ててやるからな……!!


 僕はそう決意を固めつつ、再び思考を巡らせていく。しかし、やはり何も思い浮かばない。どれだけ考えても、答えは見えてこないままだった。


「は~い、じゃあ……残り10秒以内に答えてねー? 10、9、8……」


 そして無慈悲にも、そこで突然カウントダウンを始める一条さん。ちょっ、ちょっと待って! まだ考えが纏まっていないんだってば……!


 焦る気持ちとは裏腹に、時間はどんどん過ぎ去っていく。このままでは不味いと思い、必死で頭を働かせるが、それでも答えは見つからないまま時間だけが過ぎていった。


「えっと、昨日の放課後は確か……図書委員の仕事があって……それで……」


 あぁ、そうだ。それで図書室で同じく図書委員である二階堂さん(眼鏡を掛けた文学女子)と一緒に仕事をしていたはずだ。それで仕事の合間に彼女と会話をしていて、それで……


「はい、5、4……」


「ちょ、ちょっと待ってください!!」


 僕は慌てて叫ぶように言った。そして急いで脳内の記憶を掘り起こし、必死に思い出す。思い出せ、思い出すんだ……! あの時何があったのかを……!


「3、2……」


「あっ!? 分かった! 分かりました!」


 思い出した! そうだ、そうだった! あの時の会話の内容を考えればいいんだ! そうすればきっと……!


「ズバリ! 二階堂さんと一条さんの話で盛り上がっていたことですね!」


 そうそう。あの時、僕は二階堂さんを相手に一条さんに対する愚痴を話していたんだっけ。その内容は『一条さんは僕にだけやたらと厳しい』とか『僕の人権を踏みにじってくる悪魔みたいな人だ!』といったものだったと思う。


 そんな僕に対して二階堂さんは苦笑しながらも慰めてくれたっけな。『私だったら、そんな酷いことはしないけどね』とか言ってくれて、本当に優しい人だったよ。


 で、多分だけど、その時の会話を誰かが聞いていて、それが一条さんに伝わったんだと思う。つまり、彼女が怒っている理由はそれしか考えられない。


「はぁ? あんた馬鹿?」


「……へ?」


 だが、返ってきた言葉は予想外のものだった。てっきり肯定されると思っていたのだが、まさか否定されるとは思わなくて唖然としてしまう僕。


 そんな僕を見て、彼女は呆れたように溜息を吐いた後、言葉を続けた。


「つか、何それ。アタシのいないところで、そんな会話でポチは盛り上がってた訳?」


「え、いや、その……」


「ふーん、へぇー、ほぉーん……?」


 じろり、とこちらを睨んでくる一条さん。その視線からは怒りの感情がひしひしと伝わってくる。正直言ってめちゃくちゃ怖い。今すぐ逃げ出したかった。


「あ、あの、違うんです……これはあくまで冗談というか……むごっ!?」


 震える声で弁明しようとする僕だったが、それは言葉の途中で止まってしまう。というよりも、止められてしまったと言った方が正しいだろうか。


 何で止められたのか。それは……一条さんがしゃべっている僕の口に、自分が口にしていた棒付きの飴を咥えさせたからだ。


「はーい、それ以上の口答えは禁止でーす」


 そう言ってにっこり笑う彼女。しかしその目は笑っていなかった。むしろ冷たい眼差しを向けてきているようにすら思える。


「ねぇ、ポチ。アタシの話ちゃんと聞いてる?」


「ふぁ、ひゃい」


「よろしい」


 そう言って頷く一条さん。そして彼女は僕に向かってにんまりと笑みを浮かべると、こう言ってきた。


「じゃあ、残念なことにー、ヒントも与えたのに正解出来なかった、ちょーダメダメなポチには、いつものアレがが必要よねぇ……?」


 耳元で囁かれるように言われた言葉にゾクッとする感覚を覚えた。それと同時に嫌な予感を覚える。何故なら、その言葉を聞いただけで何をさせられるのか予想がついてしまったから。


「罰ゲーム、決定ぃ♡」


 ニヤリと笑みを浮かべる彼女を見て、僕は恐怖のあまり身体が震え始めた。そしてこれから行われるであろう出来事を想像してしまい、絶望感に打ちひしがれてしまうのだった。


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