転生したらギャルゲーのかませ犬キャラでした

@Ybarbar

第1話 エピローグ

ピーピーピーピー


ピピピピピピピ


ピリリリリピリリリリリ


ピーピピピーピピピーピピピーピピピー


部屋の静けさを裂くような、過酷な音が突如として鳴り響く。その響きは俺の耳に直接突き刺さり、意識を容赦なく引きずり出される痛みとなる。まるで鉄槌が頭を容赦なく叩く感覚だ。俺は苦し紛れに手を伸ばし、その残酷な音を遮ろうとしたが、身体は二日酔いという名の鎖に縛られまともに動くことすらできない。


(二度と酒なんか飲まねぇぞ・・・くそったれ・・)


人生において何度目か分からないし、これからも一生守られることもない政治家の薄っぺらいマニュフェストのような決意を胸に、この家の主であり今年で大学三年生となる町屋宗の最悪な一日が始まる。


(駄目だ、、、一ミリも布団から出たくない)


朝の光が窓辺を通り抜け、部屋全体を穏やかに照らし出しても。俺の意識はまだその温かさに届かず、深い闇の中で閉ざされたままだ。強烈な頭痛と、まぶたのおもりが目覚めから遠ざけ、布団の誘惑が再び深い眠りへと引きずり込もうとする。


( やばい、、、このままじゃ絶対に二度寝する)


俺は頭を支配している耐えがたい痛みと戦いながら、なんとか布団から這い出た。そしてそのままふらつく足で立ち上がると、壁に手をつけてバランスを保ちながら寝ぼけたままの頭を無理矢理覚醒させるため浴槽の方へと歩を進め始めた。


一歩、また一歩、足を前に進める度に、頭の中が鉛のように重く沈んでいく。脈打つような二日酔いの痛みが、細い血管を伝い、身体の隅々を無情にも蝕む。体を支える手が、自分のものであることを疑うほど、全てが遠く、遠く感じられた。それでも、絶えず額を叩く頭痛と格闘しながら、何とか浴室までたどり着くと


(あれ・・・・・・?)


何故か湯船は暖かいお湯で静かに満たされていた。湯気が空間を優しく、ぼんやりと包み込む。おそらく昨晩、酔っ払いが勝手に湯を張り、あてもなく過ごしたのだろう。普段なら、厚かましい侵入者に水道代を請求してやるところだが、今回ばかりは見逃してやろう。


俺は衣を脱ぎ捨て、生の肌を室温に晒し、その裸の身体で、静かな風呂場へと足を踏み入れる。空気に触れた肌は微かに身震いをしたが、それでもまず二日酔いの症状を和らげるため冷たいシャワーを思いっきり体に浴びせた。無数の冷えきった水滴が肌を打つ度、瞬時に頭がクリアになり、全身がひんやりと冷やされる。そして冷やされた体をゆっくりと温かい湯船に身を沈めると、身体を優しく包み込む湯の温もりが全身を柔らかくほぐしていった。穏やかな安堵感が心を静かに満たし、肩の力がふっと抜けていく。 


「あぁ〜生き返る」


身体全体が柔らかく揺れる湯の中で、時がゆっくりと流れていく感覚に心を奪われる。そうしている間にも、頭の中の痛みが少しずつ和らぎ、思考が明瞭になってくるのを感じた。水面に漂う湯気が、俺の額を撫で上げる。息を深く吸い込むと、痛みは消えていき、二日酔いから解放されていく安堵が心を穏やかにした。


(何とか大学にはいけそうだな)


普通の健全な大学生であればこんな日はお得意の自主休講を決め込み夕方まで惰眠を貪るところだろう。実際に俺もいつもだったら確実にそうしていた。


だが残念ながら今日という日はそういう訳にはいがないのだ。


今日の一限の講義は俺が通う大学の中で一番の楽単と名高い、出席点八十点という破格の成績評価基準を持つ仏の進藤の講義なのだ。卒業する為に必要な単位が著しく不足している俺にとって単位はお宝同然。地を這ってでも出席だけはしなければならない。


もう少しゆっくりしたい。そんな誘惑を力強く払いのけ、風呂から這い上がった俺は、乾きに乾いた喉を潤すために、朝食として冷蔵庫にストックしてあるエナジードリンクとキンキンに冷えたミネラルウォーターを一気に呷り干した。


ようやく完全に頭がスッキリしてきた。


「しっかし、きったなぇ部屋だなぁ」


霧が晴れ、頭がスッキリと軽くなった俺が周囲を見渡すと、飲み会の爪痕があらわになった部屋が目に飛び込んできた。空き缶や食べ残しの包装紙が無造作に散らばり、荒れ果てた部屋はまるで放棄された荒野のような有様だった。


(くっそ、帰ってきたらこれを片付けなきゃいけないのか、憂鬱だなぁ)


俺はそんな考えに後ろ髪を引かれながら、空き缶やゴミやら酔っ払いやらが散乱している部屋から、洗濯した後適当に畳まず放置していたスェットとTシャツ、そして誰のだか分からない帽子を酒臭い匂いが残る体を覆うように身につけて人として最低限の身支度を整える。


「よし、そろそろ行くか」


ふと目を上げると、壁に掛けられた時計が8時半を静かに指し示している。なんとか一限の講義には間に合う時間だ。


俺は最後に洗面所にあるマウスウォッシュで口を濯ぎ、そのまま鏡をチラッと覗いておかしな所がないか一応チェックした後、狭いワンルームの部屋で死屍累々と倒れている友人達を蹴っ飛ばしながら玄関に向かう。


「じゃあ行ってくるわ。もし帰るなら玄関の鍵いつもの所にあるから鍵かけてポストに入れといて」


俺は玄関の扉を開けながら、どうせ大学をサボって夕方まで惰眠を貪るであろう友人達に声をかける。


もちろん誰からも返事は返ってこなかった。

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