ヴァンパイアライフ~不慮の事態で吸血鬼になりましたがなんとか頑張って生きていきます~
ことはゆう(元藤咲一弥)
変化
学校では、吸血鬼の噂話で盛り上がっていた。
町の外にある、誰もいないはずの洋館に吸血鬼がでるという。
吸血鬼に会えば誰も戻ってこれないと噂話がでていた。
教会の人らしき人が入っていったのをみたが、何時間まっても出て来ず、悲鳴のようなものが何度も聞こえて逃げてきた男子生徒がいたから広まった噂話。
吸血鬼なんて想像の生き物が、いるなんて信じられない。
そんな噂話が、私の人生を大きく狂わせた出来事だ。
真宵町という町の、真宵高校という普通の学校。
その学校にもいじめという犯罪は存在し、その被害者はひっそりと加害者に見つからないように日々を過ごしていた。
ある日、その首謀者に被害者は見つかったのだった。
「ちょっと、
「え……?」
「何私のいうことが聞けないって?」
「いえ……はい、いつ頃いけばいいでしょうか……」
「今日学校終わったらすぐ言ってきて、あそこに私忘れものしたから、ネックレス。落としたのばれたらお母さんにドヤされるし」
「わ、解りました……」
首謀者たちが嫌らしい笑みをはりつけて満足そうな顔をして去っていくと、少女――明里は深いため息をついた。
「吸血鬼なんて信じてる訳じゃないけど、噂満載だし、いきたくないなぁ……」
誰にも聞こえない声でそっと呟くと、微笑みかけてくれぬ神様に祈るような顔で頭上を見上げた。
むろん神様などはそこにはおらず、ただ青く晴れ渡る空だけがそこにあった。
学校が終わると、首謀者らに見張られる形で町外れの洋館に訪れ、明里は若干青い顔をする。
古びているはずなのに、誰もいないはずなのに、誰かに手入れされているような小綺麗さが気味悪い感じをかもし出していた。
そして明里は首謀者に突き飛ばされるような形で洋館の中にいれられてしまう。
洋館は薄暗く、静まりかえっていた。
「うう……何事もありませんように……見つかっても見つからなくてもどっちにしろいいことないよね……なんでこうなっちゃうの……」
誰にも聞こえない声でつぶやき続け、洋館の廊下を歩いていく。
長い廊下を歩きながら、目的のネックレスがないか探し始める。
「たぶん、いつもつけてる奴だよね……」
そう呟いてから、床に視線を落としながら探し続ける。
しかし、運の悪いことに目的のものは見つからず、廊下の奥に有る扉まで来てしまった。
「うう……」
大きな扉を開けると、広いホールが目の前に飛び込んできた。
「なんで誰もいないはずなのにこう埃とかないんだろ……みんなこの洋館で肝試ししてるのかな……」
誰にも届くことのないため息と、つぶやきは館の静寂に吸い込まれて消えてしまった。
館のホール内を床を見ながら隅々まで歩き続ける。
そしてホールの舞台の部分できらりと輝くものを発見する。
ネックレスだった。
明里は安堵しながら、それを拾い上げると、よくない顔色のまま、扉を開けて戻ろうとした。
しかし、扉は開かなかった。
何かで接着されたかのようにまったく開かなかったのだ。
明里は扉をたたくが笑い声も反応もない、扉の前には誰もいないことが解った。
ますます顔色を悪くしたまま、他に出口がないか周囲を見渡すと、奥へとつながる扉を発見した。
明里はその扉に手をかけると、扉はすんなりと開いた。
長い通路と、複数の扉があった。
「こんなに広い館だっけ……」
明里は顔色が悪いまま、奥へと歩き、他の扉が開かないか確かめるが、扉は開かなかった。
そして奥の扉へとたどりつき、扉をあけようとすると、突然廊下が明るくなる。
廊下の明かりがついたというのを理解するのに、時間がかかった。
廊下の明かりが彼女の顔を照らす。
「な、何これ……」
恐怖で顔色がさらに悪くなる。
とっさに奥の部屋に逃げ込もうとしたが、扉は開かなかった。
走って、来た道を戻ろうとしたが、こちらも扉が開かなかった。
「おや、このような館に小さき者が何のようかな?」
男の声に顔を上げれば、色白――いな、青白い顔をした身なりのよい格好をした男が上の階の踊り場の部分に立っていた。
真っ赤な目をしてて、黒い髪の毛の男、アルビノとは異なるのがわかった。
口から見える鋭い犬歯に、館の吸血鬼を連想させて、恐怖感情がぶわっと明里の心を支配した。
しかし、口は恐怖ではなく、男の問いかけに対する答えを口にした。
「わ、私をいじめるひ、人がネックレスを落として、それを拾ってこいっていって……」
「おやおや、可哀想に、小さき人。そんな奴らの言うことを聞かなくてはならない君が不憫だよ」
男はにんまりと笑いながら、口調も哀れむようではなく楽しみながら答えに対して口を開いた。
「両親も君には興味がないようだし、そんな両親捨ててしまっても良いのでは?」
男は楽しげに続ける。
明里は答えられなかった。
男は何事もないかのように、上から降りてくると、明里に近寄る。
明里の足は動かなかった。
「今まで不躾な連中で気が滅入ったが、君のような運命に翻弄されている小さき人ならいいだろう、こちら側に来ても」
明里の喉に、男の牙が近づく。
そして、牙が沈むと同時に、明里は絶叫して気を失った。
明里が目を覚ますと、そこは自室だった。
喉をさわると、何もなく、悪い夢だったかと思うとアサヒは憂鬱な顔のまま学校にいく準備を始めた。
誰もいない食卓を片づけ、服を着替えて学校に出かける。
慣れた行為だったが、男の言葉が耳に残りひどく気持ちを陰鬱にさせた。
外にでると、太陽の光がやけに痛く、寒気すら感じた。
気持ち悪いのをぐっとこらえて学校へ向かう、途中影で休みながら、チャイムがなる前に学校にたどり着く。
椅子に座り、汗をぬぐい担任が入ってくるのをみると、いつも姿の見えるいじめの首謀者たちが来てないのに気づく。
つかの間の休みにほっと息をつくと、担任が思いも寄らぬことを口にした。
「飯塚さんと、小野寺さん、それから三好さんが郊外で遺体で発見されました」
「?!」
「山の中ということもあり、熊が出没したのではという意見があります、みなさんも気をつけて下さい」
その言葉に目の前が真っ赤になる感触があった。
思わず気持ち悪くなり、明里は担任に保健室にいってくるといい、教室を後にした。
保健室に行くと、少し小難しい顔をした保険医が出迎え、明里の顔色を
みて顔をしかめる。
「
「ちょっと……今日は朝から調子が悪くて……」
「そういう時は休みなさい……ベッドが空いてるから、とりあえず休んで、大丈夫なら出席してもいいけど、ダメそうなら帰りなさい、ご両親に連絡するから……」
「いえ! 両親はちょっと……」
「ああ……そう、だったね。……無理そうなら私が家に送るから、今はゆっくり休んで」
「はい……」
明里はベッドに横になり、目をつぶる。
そして体を休めようとしたが、突然保健室に来た担任によってそれは妨害された。
「外崎くん、ちょっといいかな?」
「は、はい?」
「昨日、飯塚くん達と一緒にいたというのを聞いたんだが、どこで分かれたか覚えてないか……?」
「えっと……私、町のはずれのお屋敷近くで落とし物して、それ探している間にどこかにいっちゃったので解らないです……」
「あの吸血鬼いるって噂の館か、なんでそこで落とし物――」
「綾野先生、最近そこで肝試しするのがはやってるんですよ、それがあって行ったんですよ」
「肝試しか、わざわざあんなところでしなくてもなぁ……でも、聞いた話だと、どうみても人間のものじゃない傷だって話が……」
「綾野先生!! そういう話をするものじゃないです!! 外崎さんの顔色すごい悪くなってるじゃないですか、謹んで下さい」
「すみません、しかし物騒だな……こんな町中で熊なんて……」
明里は顔が真っ青になるのが、解った。
ぶわっと何かがよみがえる、男が女子高生を引き裂く光景が目に浮かぶ。
思わず吐き気がしてうずくまる。
「外崎さん?! ……今日は帰りなさい、私が送るから……」
「え、先生が? その間保健室は――」
「授業がない綾野先生が見てて下さい、私すこし席をはずしますので、綾野さん、鞄を取りに行きましょう」
保険医の言う言葉に頷くと、明里は保険医に付き添われながら教室にもどり、自分の鞄を手にすると、そのまま教室を出て、校舎を後にする。
そして、保険医の車に乗せられて、自宅に戻り鍵をあけた。
「外崎さん、大丈夫」
「……はい、此処までくれば大丈夫です……」
「明日は休みだから、今日はゆっくり休みなさい」
明里は頷いて、家に入ると、どっと脂汗が吹き出る感触と背筋に悪寒が走る感触、両方におそわれる。
急いで自室に戻ると、カーテンを閉めて、ベッドに横たわる。
日の光が入らなくなったことで、若干気分が落ち着く。
そうして横になっていると、家の電話が鳴り響く。
明里は飛び起きて、カーテンを閉めながら電話のある一階に向かう。
「はい、もしもし外崎です……」
『もしもし、外崎ご夫婦の娘さんですか?』
「は、はい」
『こちら、真宵町警察署なのですが……ご両親が遺体になって発見されました……』
「え……?」
明里は思わず電話を落とす、そして目の前にぶわっと保健室にいたとき同様光景が浮かび上がる。
両親を引き裂く男の姿が。
明里は吐き気をぐっとこらえて電話をとり、話を聞いてからタクシーを呼び警察署に向かう。
顔しか見ることはできなかったが、そこで明里は両親の亡骸と対面した。
ぶわっと涙がこぼれ、その場に座り込む。
警官に付き添われ、なんとか退出するも、呆然と涙をながしたまま、明里は深い喪失感におそわれる。
両親との仲はよくなかった。
仕事ばかりに熱中する両親、子育ては学校などに押しつける両親。
しかし、愛して欲しいという気持ちは強くあった。
自分を見て欲しいと、その為にいじめにも耐えてきた、それなのに――こんな結末で終わるとは考えてもいなかったのだ。
明里は家にタクシーで帰ると、呆然と誰もいなくなった部屋に座り込んだ。
その後、家は見知らぬ訪問者で、対応に追われた。
アサヒは泣きはらした顔のまま、なんとか対応し、時には弁護士に電話をして対応する。
その日、明里は休める暇はなかった。
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