第27話 都市伝説の部屋

 笑いすぎたせいで少し疲れた。テーブルからミルクティーとアイスチョコを持ってきてくれた紗和さんと、ベッドの上で喉を潤す。

 さっきは話が逸れてしまったけど、紗和さんの『軽くイキかけた』の話、聞いてみたい。

「紗和さん。さっき、軽くイキかけたって言ってたじゃないですか」

「え? うん。気持ちよかったんだもん」

「その感覚、どういう感じなんですか?」

「え?」

「え?」

「もしかしてヒナちゃん……」

「……聞かないでください」

「ええーっ! 私に聞いておいて、自分には聞くなはないでしょ。フフフ」

 正論だ。

「……はい。無いです」

「この前のって演技だったの? そんな感じには見えなかったけど」

「え?」

「え?」

 ここまで話がかみ合わないことってある?


「そっか……あの痺れた感じが『イク』ってことなのか」

「フフフ。興味ありそうね」

 アイスチョコを飲み干した紗和さんがニヤニヤしながらこっちを見ている。

「いや、ないない。興味なんて全くないですよ!?」

「ふーん」

 まだニヤニヤしている。

「もしかして今日ここに来たのって『イク』を知りたかったりして」

「……」

「え!? 本当にそうなの!!?」

 紗和さんが楽しいモードに入った。これは私がイヤな予感モードに入ったことを意味する。

「ねえねえ。どっちがいいの?」

 紗和さんが捲し立てるように質問してくる。

「どっちって……何と何ですか?」

「一人でするのと、二人でするの」

「何なんですか? その選択肢は」

「どっち? どっち? 一人でする方?」

「……」

「二人でする方?」

「……」

「フフフ。なあんだ。両方なのね」

「! なんでそうなるんですか!!」

 アイスティーを飲み干す直前での紗和さんの発言に、残りを吹きそうになった。

「違うの?」

「違います!」

「でも『イク』を知りたくてきたのは事実よね。否定しなかったもん。フフフ」

「……」

「ヒナちゃん、やっぱりさあ、やろうよ。両方」

「だ、だからぁ。私、そんなこと一言も言ってないですよね? 紗和さん、私のことオモチャにして遊ぼうと思っていませんか?」

「フフフ……そうよ?」

「この変態女め。否定しないのかよ」

「まあ、でもちょっと違うわね」

「どう違うんですか?」

「ヒナちゃんのこと、オモチャで可愛がりながら遊ぼうと思っているわ」

「余計ひどい」

「フフフ。でも一石二鳥じゃない? 私も楽しめて、ヒナちゃんも勉強になる」

「学校の勉強はさっぱりなのに、こんな勉強ってありますか?」

「いいじゃない。社会勉強と思えば。将来、この知識が役に立つときが来るかも知れないわよ?」

「女性が二人ともオモチャで気持ちよくなる知識が、将来使えるとはとても思えませんけどね!」

「じゃあ、イヤなの?」

「……」

「フフフ。ヒナちゃん、わかりやすいわ」

 にっこり笑う紗和さん。もちろんとても楽しそうだ。

「なんで今日、ここに来たんだ私は」

「エッチしに来たんでしょ?」

「それはそうですけど!」

「あーあ。ヒナちゃん、認めちゃったわね」

 噂には聞いていたけど、本当にあるんだな。『二人ともイクまで出られない部屋』って。そこに一緒にいるのは変態女。この絶望感ってどんな比喩も足下に及ばないんだろうな。

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