37話『国王陛下』

37話『国王陛下』


 地球と同じようにこの世界も、島や大陸、そして海があり、人々はその地の特徴や地形を活かして生活している。


 カナデやフーガ達が暮らす国『クラヴィーア王国』はバロック大陸にある王政国家である。

今代の王が差別や貧困への政策に力を注いでおり、最近は獣人やエルフ等、数多くの種族がこの国に移住して生活をしている。


「勇敢なる冒険者諸君、我が城へよくぞ参った」


威厳のある立ち振る舞いで、カナデ達の前に立つ男性。

試すように見つめながら話すこの方こそ、クラヴィーア王国 国王 ラルゴ グランディオーソ陛下である。


「はっ、この度はお招きにあずかり大変恐縮でございます」


陛下の御前で片膝をつき、敬服の意を示すカナデ、アリア、フーガ、カノン、そしてギルドマスター。

フーガが代表して、陛下のお言葉に応えた。


「あぁ、まずは此度の大森林での件、国を代表して感謝する。数千という魔物の群れがもしこの国へ押し寄せていたならば、甚大な被害は免れなかっただろう」

「身に余るお言葉、恐悦至極にございます」


やけに慣れた口調で話すフーガに少し驚くカナデ。

アリアは落ち着いて頭を下げており、カノンは緊張で顔が強張っていた。


「さて、騎士団長から話は聞いているが、改めてお主らの口からあの日のことを聞かせてもらおう」

「はっ、私からご説明させていただきます」


陛下の目を見てそう応えると、フーガは大森林騒動の発端から顛末までを細かく語った。


 要約すると、見知らぬ魔物が多数目撃され調査に向かった。

そこで魔物の暴走に巻き込まれ、さらに魔族が糸を引いており、膨大な数の魔物と魔族を同時に相手することになった。

ボロボロになりながらもなんとか魔物を全て討伐し、魔族の幹部であるバアルを撃退することに成功した。

といったところだ。


 話を聞いた国王陛下は腰を浮かせて椅子へ深く座り直すと、整った立派な黒髭を触りながら考え事を始めた。

少しして、陛下はゆっくりと口を開いて話し出した。


「うむ、騎士団長の話と差異はない。現場の状況報告とも一致するな。詳細な説明をご苦労。ただ一つ、話を聞いて思い出したことがある。おい、あれを持ってこい」


陛下の指示を聞いた執事らしき男は「畏まりました」と言い、一度会釈をして部屋を出て行った。


「待つ間に少し世間話でもさせて貰おう。久しいなトロボ」

「えぇ、陛下もお変わりないようで」

「あーむず痒い。昔のままで構わん。礼儀なんぞお前には似合わんぞ」

「……相変わらず口の悪い王様だ。久しぶりだな、ラルゴ」


アリアとフーガ、カナデはその光景開いた口が塞がらない。カノンは口をパクパクさせて顔面蒼白、今にも気絶しそうである。


「えっと、あの、お知り合いだったのですか?」


問いかけるカナデにマスターはニヤリと笑った。


「コイツは学生時代からの友人だ。最近はお互い忙しくて会ってなかったが、昔は一緒に酒を飲んだり、お互いの分野の知識を共有し合っていた」

「懐かしい話だ。トロボは当時から荒れてはいたが、良き友であり、かけがえのない仲間だった。皆緊張させて悪かった。楽にしてくれて構わん」


フーガは大きく息をすると立ち上がり、国王陛下へ再び眼差しを向けた。

それに続き、アリア、カナデ、そしてガチガチだったカノンが心底安心したように立ち上がった。


「マスター、お知り合いであれば先に言っておいてくださいよ」

「なかなかよく話せてたぞ。経験の差かねぇ?」

「馬鹿なこと言わないでください。これでも緊張してたんですから」

「はっはっはっ、相変わらず意地が悪い男だ」


 フーガとマスターの言い合いに少し場の空気が和んだ頃、先程出て行った執事が何かを持って戻ってきた。


「陛下、お持ちいたしました」

「ご苦労。さて、皆に問いたい。先程フーガ殿からの報告にあった『魔物を操る笛』とは、これのことか?」


陛下が見せた物は間違いなく、バアルがニーズヘッグを呼ぶ時、そして魔物をアリアとカナデに仕向ける時に吹いていた笛そのものであった。

よく見ると木製の小さな笛で、魔法陣のようなものが刻まれている。


「はい。間違いありません」


一番近くで見ていたカナデがそう答えると、国王陛下は頷いて再び話し始めた。


「これは魔笛と呼ばれる魔族に伝わる伝統的な笛だ。笛に魔物のマナを認識させることで、その魔物の意思をある程度操作できるものらしい」

「お詳しいのですね」

「私は学生時代、各種族の特徴や歴史、生活等を専門に学んでいたのでな。とはいえ、魔族は交流が叶わずわからないことも多いが……な」


カナデの質問に陛下が答えると、続けてアリアが口を開いた。


「認識させる……ということは、かなり前から大森林に潜み、準備をしていたということになりますね」


アリアの言葉に陛下はまた頷いて見せた。


「この笛は大森林に落ちていたものだ。恐らく、そのバアルとやらが使ったものだろう。また同じ手で攻めてくるとは考えにくいが、これの解析と研究は国家に帰属する研究者達に進めさせている。成果はトロボを通してギルドにも共有しよう」

「あぁ、感謝する」


マスターの謝意に賛同して全員でお辞儀をする。

陛下は手を挙げてそれに応えた。


「魔王国には人間を敵視する輩も多い。歴代の魔王も先祖代々人間を妬み、何度か戦争もしている。これまでは魔大陸に近いオペラニア王国が標的となっていたが、我が国にまで手を出してきたところを見ると、他国も狙われている可能性があるな……」

「あぁ、その懸念はもっともだ。まずは情報を集めるべきだろう」

「そうだな。同盟国へ使者を送る。騎士団と魔法師団へ伝え、人選を急がせよ。特にオペラニアへは早急に送り出せ」


陛下が再び執事へ命令を下すと「畏まりました」と言ってまた下がっていった。

アリアとフーガが少し暗い顔をしているのが少し気になった。


「さて、では本題に入ろう」

「えっ?報告と方針決定が本題ではないのですか?」


カナデの質問へ国王陛下はマスターと同じようにニヤリと笑った。

(この二人似てるな)


「それは国側としての本題であって、皆が期待しているものは違うであろう?」


陛下はそう言って立ち上がると右手を開き前へ突き出してみせた。

そして、最初に見せたのと同じ威厳を再び纏い、宣言をするように大きな声で言い放った。


「フーガ、カナデ、カノン、アリア。それぞれに褒美を与える。望みを申せ!」


次話「」

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