第2話



ほろ酔いになった私たちは

ふらふらとミナミの街を歩いていた


いつもなら上手くかわすのに

なんかその日は物足りなく思えて

声をかけてきたお兄さんについていくことにした


振動が伝わるほどの やけにうるさいBGMが響いていて

高級ボトルが飾られた棚の前を通る

案内されるままに 手前のブースに座った


この店は気になるホストを数名選ぶシステムではないらしい

待っていると、1組目に学生くらいの若い2人が席についた

その子たちは仲が良いのか、テンポよく場を盛り上げてくれた

陽キャと呼ばれる部類の筆頭だと思う

話しながら、学校にいたら人気者なんだろうなと考えていた


「えーじゃあ俺らと歳近いやん!

咲絵ちゃんと杏奈ちゃんは付き合い長いん?」


いま私の対面にいる 杏奈 は高校の同級生

高校時代は好きなバンドのライブによく行ったし 3年間ほとんどを一緒に過ごした

よく笑う明るい子で、彼女の周りにはいつも人が集まっていた

この状況にもすぐに溶け込んで会話の中心になっている

付き合ってきた男の子のことや仕事の愚痴も共有する唯一の理解者だ



私は杏奈とは違って普通の人間

親に愛されて育ったとは思うけど

自信のある強い女ではない

前の彼と別れてからもう2年が経つのに

この貴重な20代前半を楽しめずにいた



ここへ来てから既に30分が過ぎていて

楽しませてもらえるものの、短時間で話す相手が変わってその度に会話も変わり

アルコールでどんどん思考が低下していく脳みそから言葉を選んで発することに疲れていたところだった


「はじめまして。隣いいかな?」


うわ、かっこいい。すぐに魅了された。

シャネルの香りを優しく纏った黒髪のその人は、完全に私の好みそのものだった。


「なんか疲れてない?飲みすぎた?笑」


「久しぶりにホストクラブ来たからちょっと疲れたかも。でも楽しいよ」


「それならよかった。俺とも乾杯して!」


これまで席についてくれたホストとは違って、無理に盛り上げようとすることもなく

初めて私のペースに合わせてくれた


少し歳上ということもあって

すごく居心地がよかった


社会人になったばかりの私たちは

実家のある奈良まで帰らないといけない

切り替え上手な杏奈が時間に気付いて

「咲絵!終電間に合わんくなる!」


そのことを既に理解していた私は

「ごめん、私だけ残ってもいい?」

まだ離れたくなくて、このままもう少し酔いどれていたい

私は珍しく我儘になった


「まだ居てくれるん!めっちゃ嬉しい!

俺が選ばれると思わへんかったわ。」

彼の笑顔がまた気持ちを高ぶらせた



予想外の展開で持ち合わせがなく

2時間ほど話してからその日は店を出た


初回の席で連絡先を交換したがるホストは多いけど

帰り際に思い出したように聞いてくれて

それも好印象だった



かなり久しぶりに充実した週末を過ごすことが出来た

稀咲 諒 ... また会いたいな


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