記憶
老婆の巫女は告げた。
老婆の巫女より大きな白い旗を、胡坐をかいて振りながら。
謎の姿に成り果てた先生に向かって。
呪いをかけられている。
神域へと赴き、神に赦しを乞うのだ。
どうせ酒をしこたま飲んで酔っ払い意気揚々と神域に足を踏み入れた挙句、神聖なスイカを盗んだのだろうこの罰当たりめ。
そんな罰当たりな事はしていない。
先生は反論したが、那由多はそうは思わなかった。
確かに今迄、酒による失態はなかったけれど、いつかはやりそうだと思っていたのだ。
けれどまさか、神域に足を踏み入れてはいけないという禁を犯すばかりか、神聖なスイカを盗むなんて。
いいや、どんな禁を犯しても、失態を侵しても、ここまで育ててくれた先生だ。
川から流れて来たスイカを拾って食べようと家に持ち帰り刃物を持った瞬間、中から飛び出て来た自分を、血の繋がりもなく利益も生み出さない自分を、ここまで育ててくれた先生だ。
今こそ、その恩に報いよう。
先生にかけられた呪いを解くために、神域に行って神に頭を下げよう。
そう思っていたのに。
神域に足を踏み入れた先に広がる光景に。
世界の果てまで続くような空色の泉に、ぷかりぷかりと浮かぶ数多のスイカを見ている内に、ではなく。
ぷかりぷかりと浮かぶ数多のスイカの内の一つが、空に浮かんで那由多と同じ姿に変化したかと思えば、そのスイカに泣きつかれた瞬間。
那由多は記憶が蘇ったのだ。
(2023.7.8)
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