大バズり、そしてボス戦
「はいじゃあ配信を始めていきたいと思います思います」
俺は3回目の配信を始めるために録画ボタンを押してそう言った。巷ではどうやら俺が今有名になっているらしいが、有名になっていると言ってもそんな大したことは無いはずだ。せいぜい見てくれる人が20人に増えるくらいだろう。
そう思いながら配信画面を見ると既に2000人の人が配信を見ていた。
『お、やってるやってる』
『めちゃくちゃ人増えてんじゃん』
「は?え?に、2000人?」
『www』
『目玉まん丸じゃんw』
俺は目を疑った。2000人もいることにも驚いたが、配信を始めて数分足らずで2000人に到達したことに。しかも現在進行形でまだ増えている。4000、6000と数を増やし数分後には1万人を超えていた。
「1万?…あぁ、配信アプリのバグか」
『違うぞ』
『ちゃんと見てるぞ!』
『コメントの量で気づけよww』
俺の一言に大量のコメントが流れてくる。てことは本当に?
「え、な、なんで?」
まだよく状況を理解出来ていないが何とかそう言葉を発する。
『なんでだってww』
『今あんたが日本で一番話題になってんだよww』
『早く魔法見せてくれよ!』
まだ完全に状況を把握出来た訳ではないが1つ分かることがある。それは今は絶好のチャンスだということだ。
「あ、ああ!なんだかよく分からないがとりあえず今日も配信していくぞ!」
俺は意気揚々とそう言った。
『分かってないんかいww』
『ついに魔法が見れるぞ!』
『今日はどんな敵を倒すんだろうな』
『wktk』
せっかくこんなに沢山の人が来てくれているんだ。普段よりちょっと強い魔物にしよう。
「じゃあ今日はちょっと強めの魔物を倒しにいくことにしたからよろしく」
『お!楽しみ!』
『強め…ちょっと?』
『既にそのダンジョンには強敵しかいないんですがそれは…』
「道中にいる魔物なんてめちゃくちゃ弱いだろ?」
『あぁ…さいですか』
『なんなんコイツww』
『もうはよ行けw』
「わかったよ」
コメントに急かされて俺は移動しだす。この時点で同接人数は3万人を超えていた。
「『影を移動する
そう言って魔法を発動すると俺の姿は影に溶けて消えた。
『『影を移動する
『拗らせてんなぁww』
『なんでみんな笑ってんの?かっこいいじゃん』
影に消えた俺は移動を開始する。やはりこの魔法は便利だ。全力で移動しても全く疲れないし魔力の消費も少量で済む。それで移動スピードが大幅にアップして周りからも見えないのだ。万能すぎるな。
『やっぱりなんなんだこの魔法ww』
『てか早すぎだろw』
『俺もこんな魔法使いてぇ』
数分進んでいると大きな扉の前についた。
「よし、ここだな」
そう言って俺は『影を移動する
『…は?』
『え、ここって…』
『ボス部屋だよな…?』
「え?ここってそんな呼び方あるのか?」
どうやらこの大きな扉のついた部屋はボス部屋と言うらしい。
『なんで知らねぇんだよww』
『その部屋の中にはダンジョンの中で一番強い魔物がいるんだよ』
「へー、そうなのか。ちょっと強かったけどすぐ倒せたぞ?それにこの部屋の魔物は何回倒しても次きた時には復活してるからストレスはっさ…さぁ、行こうか」
『は?何回倒しても?』
『どゆこと?』
『封鎖されたダンジョンのボスを何度も倒してる?さすがにそれは…』
『てかお前今なんて言うとしてたww』
この時点で同接人数は8万人を超えていた。やっぱりこれは何かのバグではないのだろうか?たった数日にしてこんなに変わるなんてありえないと思ってしまう。
そんなことを思いながらも目の前の大きな扉に手をかける。そして力強く前へ押すと大きな音を立てながら扉が開いた。
『ついにか…』
『ゴクリ…』
部屋の中心まで歩いていく。部屋の高さ目視では天井が見えないほどの高さがある。周りは壁で丸く囲まれており軽く200メートル程はあるかもしれない。その壁に沿ってトーチのようなものが並べられておりそのトーチにはゆらゆらと揺れている炎が見える。
数秒すると目の前にモヤのようなものが出てきた。それが徐々に形を作っていく。それはとてつもなく大きい。正確には分からないが10メートルはあるだろうその巨体はモヤに包まれていても圧倒的なプレッシャーを放っている。
モヤが徐々に薄れてきてそのシルエットが顕になる。それはおとぎ話に出てくるような見た目のドラゴンだった。全身は赤くまるで探索者の血を塗りたくったかのような色。口に生えている歯はナイフより鋭利で触れるだけで切れてしまいそうだ。
『は?』
『なんだよこいつ!』
『分かんねぇよ!誰もそこまで行ったことないから情報がねぇんだよ!』
『いやこれは無理だろ!早く逃げろ!』
『絶対無理だ!部屋から出ろ!』
「…」
目の前のドラゴンは俺のことを視認すると目つきを鋭いものに変えた。常人ならそれだけで気絶してしまいそうな圧を放っている。
「よぉ、久しぶりだな」
『挨拶してる場合か!』
『やべぇ…やべぇよ…』
『俺画面の前に座ってるだけだけどおしっこチビりそう』
『だっさwwちなみに俺のズボンはもうびちゃびちゃだぜ』
『漏らしてて草』
「矮小なる人間よ。我が誰か分かっていての物言いか?」
『は?喋った?』
『え?魔物って喋るの?』
『そんなわけないだろ!俺も何年もダンジョンに潜ってきたけどこんなの初めて見たぞ!?』
「あぁ、分かってるよ。このダンジョンのボスだろ?」
俺は笑いながらそう言った。久しぶりに少し骨のある魔物が目の前にいるんだ。ワクワクしない方がおかしい。今の同接は12万人に到達していた。だが今はそんな数字気にならない程に気分が高揚感している。この高揚感を、緊張感を、興奮を、みんなに伝えたい。俺が感じたようにみんなに感じて欲しい。熱狂して欲しい。
「ほう。分かっていてまだその態度でいられるとは…余程肝が座っているのかそれともただの馬鹿なのか…すぐ分かる」
ドラゴンがそう言った途端、ドラゴンの口からおびただしい量の炎が吐かれた。
「ほっ」
俺はそれを真上に高く飛び上がることで回避する。俺のジャンプはドラゴンの頭の更に上まで高く飛んだ。
「ほう。どうやらただの馬鹿ではないらしいな」
ドラゴンが目を細めながらそう言ってくる。
『いや飛びすぎだろw』
『人間じゃねぇww』
『セルフバンジージャンプww』
当然飛び上がったということはそこから落下する。俺はその落下のスピードを生かしドラゴンの頭に殴り掛かる。そこで無属性魔法を発動する。無属性魔法とは自身の身体強化くらいしかできることがない魔法で、ダンジョンに入った人間なら誰でも習得している魔法のことだ。
「『
そう唱えた途端、体に莫大なエネルギーが循環するのを感じる。
『『
『いやー先輩、さすがっすww』
『お、俺たちが失った牙をまだ持っているなんて…俺ァ感激したぜ!』
『なんか無駄にかっこよく言ってるけど要するに無属性魔法の『身体強化』だろww』
『おい言ってやるなよww』
莫大なエネルギーを拳に集めそのままドラゴンの頭を思い切り殴る。だがそこには既にドラゴンの姿はなかった。空を切った俺の拳はそのままボス部屋の地面を強打した。その瞬間、地面が抉れ直径10メートル、深さ5メートル程のクレーターが出来る。
『は?!』
『おいおいおい!ただの『身体強化』じゃなかったのかよ!?』
『おかしい…全てがおかしい…』
『今度から俺も『
『やめとけ。それ出来るのは慎也だけだ』
「チッ、外したか…」
出来上がったクレーターの中心にいた俺は勢いよくその場から飛び退いてクレーターから出た。
そして再びドラゴンに目を向ける。ドラゴンは既に俺の前に姿を表していた。そして出来上がったクレーターを見ていた。
「…え?これマジ?たかが人間が地面殴ってこれ出来たの?我やばくね?」
『ど、ドラゴンさん…』
『現状最強ダンジョンと名高い封鎖されたダンジョンのボスでも戦慄してしまう慎也さんマジパネェ!』
『自分の死期悟ってて草』
「いや、まだだ!」
そう言うとドラゴンは腕を大きく振り上げ俺目掛けて振り下ろしてくる。だがあまりに遅い。避けても良いがそれでは変わり映えが無さすぎる。
「『特化強化・
足だけに今まで使っていた強化を付与する。そしてドラゴンか振り下ろして来ている腕に向かって地面を蹴る。
「はぁ!」
そして思い切り蹴りあげる。蹴った感触は岩を蹴っているような感覚だった。
「グオアアァァ!!」
俺が蹴りあげたドラゴンの腕は痛々しく直角に曲がっており、曲がったところからは骨らしき白い物体が見えていた。
『やべぇぇぇぇ!』
『SUGEEEEEEEEEEE!!』
『マジで強すぎんか…?』
ドラゴンは折れた腕を引きずりながらもこちらを睨んでくる。
「…クソ!こうなったら全てを無くしてやる!『全ての
ドラゴンがそう叫ぶと、ドラゴンの口に粒子が集まっていく。そして小さな玉がドラゴンの口の前で浮遊している。
「これは魔力を集めて極限まで集めた純粋な魔力を放つ技だ。これが地面に落ちでもしたらこの世界は滅ぶことになるだろう」
ドラゴンが勝ち誇ったような顔でそう言った。
『え?マジ?』
『これ落ちたらこの世界終わるの?』
『それが本当だとしたら俺らもやばいんじゃね?』
『あ、終わった』
『お父さん、お母さん、今まで育ててくれて本当にありがとうございました』
『ここでそんなこと言うな』
俺は俯いた。
「どうした?あまりの絶望に戦う気が失せたか?」
『う、嘘だろ?』
『え?これ慎也が止められないんじゃもう無理じゃね?』
『え?俺まだ死にたくねぇよ…』
「―かよ」
「何?」
「またそれかよぉぉぉ!!」
「は?」
『は?』
『は?』
『は?』
俺は思わずそう叫んでしまった。さっきも言ったがこのボスと戦うのはこれが初めてでは無い。これまで戦ったドラゴンも最初こそ違う動きをしたものの最後には絶対に『全ての
「もうそれ飽きたんだよ!他に何かないのか?!」
「え、えっと…」
「当たったら物質が粒子レベルで分解されるビームとか触れるだけで全てが腐る毒霧とか、そういうのないのか?!」
「な、無いです…」
『こいつは何を言っているんだ』
『ついに頭がおかしくなったのか?』
『えっと…いまどういう状況?』
『知らん』
「…そっか。うん。そうだよな。期待しすぎた俺が悪いんだよな。ごめんな」
『ドラゴンさん謝られてて草』
『ドラゴンさんが不憫だよ…』
『もうやめたげてぇ!』
「くっ!ここまで我を愚弄した愚か者は初めてだ!消えて無くなれ!」
ドラゴンがそう言うと直径5メートル程までに大きくなっていた魔力の塊が俺に向かって降ってきた。
『やばいって!』
『あぁ、俺ここで死ぬんだ』
『お父さん、お母さん、今まで』
『それもういいから』
「『暗黒の
俺はそう言って魔法を発動した。すると暗闇が魔力の塊を覆い込んだ。
「は?」
『は?』
『は?』
『は?』
暗闇が消えるとそこには先程まであった巨大な魔力の塊が無くなっていた。そして俺の身体には水が全身に流れ込んでくるような感覚があった。どうやらかなりの魔力が身体に流れているらしい。
「それで?もう何もないのか?」
「…」
「そうか。分かった」
俺はそう言うとつい先程手にした魔力を両手に集める。そして魔法を唱える。
「『深淵から出迎える
途端、ドラゴンの居る地面の真下に深淵のように暗い影が広がった。そして次の瞬間、その影から無数の歪な形の手が伸びて来てドラゴンをがんじ絡めにする。
「ぬぐっ!?は、離せ!ぐぅ…があぁぁぁ!!」
そのまま影の中へ引きずり込んだかと思うと影の中から何かをすり潰すような音や、全身の骨を粉々に折られるような音が響いてきた。
「…終わったか」
俺がそう言うと今まで影のあった場所にドラゴンのドロップアイテムと思わしき巨大な牙が落ちていた。
『なんというか…もう凄すぎて何も言えねぇ…』
『慎也だけは絶対に敵に回したくねぇな…』
「いやどういう意味だよ」
俺がそう言うとコメントが加速する。
『そのままの意味だよ!』
『お前やばすぎだろ!』
「それでその素材売るのか?」
俺はその質問に答える。
「あぁ、
『…』
『…』
『…』
「あ、あれ?お前ら?」
何故か急にコメントが止まってしまった。次の瞬間、とてつもないスピードでコメントが流れ出した。
『早く登録しろ!』
『何やってんだお前!!』
『お前それ売れば軽く1000万は超えるぞ?』
「は?え、ま、まじ?」
俺はコメントで提示されたとんでもない金額に目を剥きながらそう言った。
『もしかしたらもっと高いかも知らん』
『当たり前にもっと高いだろ。だって今まで確認されてなかった魔物の素材だぞ?それだけで高い』
そうか。これは高いのか…
『でもやっぱりそれで武器作るのがロマンだろ!』
『だよな!せっかくのあんなに強い魔物のドロップアイテムなんだ。絶対に強力な武器ができるはずだ!』
「よし!売るか!」
俺は笑顔でそう言った。
『はぁ!?』
『お前ふざけんなよ!』
『武器作れよ!』
俺の考えに否定的な意見が多い。とても多い。確かに武器は魅力的だ。だがそれ以上に今はお金がいる。
「あぁ、分かってるよ。この素材で武器を作ったら絶対にいいものが出来る。それに俺だっていつまでも丸腰で戦いたくねぇよ」
『あ、そういえばこいつ丸腰だったわ…』
『でもじゃあなんで売るんだ?』
せっかく聞いてくれてるんだから答えないとな。
「実は俺、今妹と生活保護を受けながら生活してるんだ。だからこれを売って少しでも生活の足しになればって思ったんだが…」
『…』
『…』
『…』
またしてもコメントが止まる。
「お、お前ら?」
何か癪に障るようなことを言ってしまっただろうか?そう不安になっていると先程の比ではないほどのスピードでコメントが流れだした。
『慎也…お前ってやつは!!』
『めちゃくちゃいい兄貴じゃねえかよ…』
『おまっ…いきなりそんな話するんじゃねぇよ…泣いちまうじゃねぇかよ…』
『今涙腺管理に勤しんでるからちょっと待って』
『お前らなに泣いてんだよwwあれ?なんか目から鼻水が…』
『お前も泣いてて泣』
どうやら俺の家庭のことを分かってくれたらしい。
「だ、だからさ、これはちょっと勿体ない気もするけど売ることにするよ」
『売ってこい!』
『めちゃくちゃに売ってこい!』
『でもちょっと待てよ?慎也ってこのダンジョン何回も潜ってるんだよな?』
「え?あ、あぁ。かなり潜ってると思うが…」
『なら今まで倒した魔物のドロップアイテムってどうしてたんだ?』
「それなら全部家に保管してあるけど…」
俺がそう言うとまたも超スピードでコメントが流れた。
『計画変更!ボスのドロップアイテムは保管して家にあるやつ全部売れ!』
『ボスの素材は売るなよ!絶対にだぞ!』
「わ、分かったよ。とりあえず
『おう!最高だったぜ!』
『まじでやばかった!』
『次の配信が今から待ちきれない…』
『またね!お兄ちゃん!』
「まじでやめろ」
『ガチトーンで草』
『お兄ちゃんが地雷だったとは…』
葉由奈『お兄ちゃん、帰ってきたらお話があります』
「は、葉由奈?!な、なんでそんな改まって…」
葉由奈『帰ってきたらお話があります』
『まじ妹キター!』
『葉由奈ちゃんって言うだね…ハァハァ』
『早速ヤバいやつ湧いてて草』
「は、はい…」
何やら葉由奈を怒らせることをしてしまったようだ。帰ったら説教かな…
『おい見ろよお前ら。あんなに強い慎也が敬語使ってるぞ?』
『葉由奈ちゃんやべぇ!』
『家では最弱なんだろうなぁ…』
そんなこんなで配信が終わった。最終的な同接人数は50万人まで膨れ上がっていた。登録者数も既に30万人を超えてしまった。まだ夢なのではないかと疑ってしまう程に非現実的な数字だった。
【あとがき】
面白い、もっと読みたいと感じた人は評価お願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます