第96話 火鳥

 アーシヤ村長が重々しい声で発表をした。


「勝者、コフィ!我々は、2人目の戦士を待っている!」


 しかし、誰も立候補はしなかった。観覧席からザイドの声がする。


「本当につまらない村だぜ。俺の親父も戦士だった。2人倒して、3人目と戦ってやられちまったよ。

 何十年も勝者が出ていないから、村の連中、命が惜しくて、誰も出場しやしない。腰抜けばかりさ。

 いけよ、グイン。力を見せてやれ」


 その静寂が続く中、見覚えがある若者が闘技場に降り立った。

 マツモト村の幼馴染グインだ。しかし、背中に炎の翼を生やして、足が鳥のようになっている。


「コフィ、お前を倒す日を待ちわびたぞ。アスタロト様に頂いた力で、お前を燃やし尽くしてやる!」


「グイン、お前、アスタロトの手下になって、人間を辞めてしまったのか...?」


「どうせ人間は、滅びるのさ。さっさとモンスターになってしまった方が賢明ってことだよ、コフィ。お前だって、ずいぶん人間離れしているじゃないか。

 相変わらず見境なく女の子を誘惑しているようだな。スピカが可哀想だぜ」


 グインがためらいなく秘薬を飲み干した。瞬く間に形を変え、20メートルの巨大な鳥の形を取り、炎を纏っていった。

 これは、まずいことになった。


「お前が2人目の戦士なのか?グイン....炎の鳥か。水には自信があるけど、炎は……最悪だ」


 突如ゴングが鳴り響き、2戦目が始まった。

 炎の鳥に短剣を振るうが、実体がないため斬ることができない。

 足元が炎で覆われ始め、グインの高音と低音が混ざったような声が聞こえた。


「弱っちいねぇ。わざわざ火の鳥と融合しなくても勝てたかもな。剣など痛くも痒くもないぜ」


 観客席にも炎が飛び火し、観客が慌てて炎から逃げ惑う。 

 俺も身体が火傷で覆われ、どこに逃げてもグインが目の前に現れて、灼熱の攻撃を仕掛けてくる。


「ふん、お前はいつも逃げてばっかりだな!

 アスタロト様には悪いけど、黒焦げになるような弱虫なら、仕方ないよな!一気に燃やし尽くしてやる!」


 グインが微笑むように言い放つと、炎の放射が次々と俺に降りかかった。


 もうダメだ。敵う相手じゃない。相性も悪すぎる。

 俺は、闘技場の隅に追い詰められていく。四方八方から迫ってくる炎の鳥。

 あれは!闘技場の向こう端に水たまりがある!

俺は、炎を振り切って、その方向に走る。炎の中を走り、さらに酷い火傷を負う。

 闘技場の端にやっと辿りつくとそこには、炎の海しかない。また反対側に水たまりが見える。くそっ、これは、蜃気楼だ。幻まで見せれるのかよ。

 俺は、炎に焼かれ、どんどん追い詰められる。


「哀れだね。熱の耐性がないからな。お前の水の耐性は、炎や氷にかえって弱いのさ。そろそろお終いにするか。あっけなかったな」


 そんな中、観客席からスピカが俺に向けて、バッグを投げてきた。


「ナミちゃんが、コフィを呼んでる!」


 バッグを開けてみると、中には強い光を放つ卵が。卵の「ナミ」が久しぶりにしゃべった。


「コフィ、お待たせ♪クフフフ」


 卵が不思議な力で宙に浮かぶ。ピキピキと内側から殻が破られていく。

 グインが闘技場全体を大きな炎の竜巻で満たした。

 なんて強力な炎の力!


「なんだ?卵がどうしたって?目玉焼きにしてやるよ!」


 俺は、炎の渦に巻かれて全身に激痛が走る。もうダメだ。火だるまになって、意識が遠のいていく。


 炎の中で、太陽より眩しい光が卵のヒビから漏れ出す。卵が割れた瞬間、大量の水が爆発的に湧き出てきた。 

 そして、いきなりバケツをひっくり返したような雨が降る。

 グインを水の竜巻が襲う。


「ぎゃぁぁぁ!!!!」


 グインの断末魔が闘技場に響き渡る。

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