闇堕ち確定の主人公を恋する幼馴染が救う異世界の話。

第94話 剣士

　舞台が熱気に包まれる中、身体中に古傷を持つ対戦相手が現れ、4本の大剣を鞘ごと踏みしめられた地面に突き刺した。そして、挑発的な声で空気を切り裂いた。

「おい、少年。チビが短い剣とは、心許ないな。何しにここにきたんだ。女を抱ける歳でもないだろうに。

　俺がゴルバドだ。俺は、戦場で1000人斬った。もっと斬ったがもう数えていない。

　俺の村が悪魔に焼かれて、ここに来て見れば、面白い祭りがあるじゃないか。

　俺は、朝まで10人女を抱いてきたぞ。勝ってこの村の生娘500人を抱くのさ」

　ゴルバドが余裕の笑みを浮かべた。百戦錬磨のオーラが俺を圧倒する。

　でかい。恐怖と不安がお腹をジリジリと焦がす。

「俺を怖れているな。それでいい。10歳になるかならないかの子供よ。静かに死ね。すぐに楽にしてやる」

　ゴングの音が鳴り響き、戦闘が始まった。

　ゴルバドが巨大な長剣一本を鞘から引き抜いた。それを豪快に振り上げ、風を切って俺に向かって突進した。俺を一瞬で追い詰めるその速度と力に、死の危険を感じる。歴戦の強者からの殺意が俺を貫く。

　スピカが叫んだ。

「コフィ、避けて！」

　俺は、その攻撃を最小限の動きで避けた。落ち着け、充分見切れる速さだ。腕力以外は、パバリ師匠より3段くらい落ちる。

　身体の震えが止まらない。冷静にならないと。

　よく見ると、ゴルバドの腕の筋肉には、繊細さが足りない。背中の異常な盛り上がりは何だろう。そうだ、よく相手を見ろと、パバリ師匠がよく言っていた。

　思い出せ、今朝、感じたことを。恐怖だけではなかった。堂々と力を解放することが許されることに、俺は、興奮した。　

　そうだ、この震えは、恐怖だけじゃない。

　無言で剣を構えた。震えは、まだ止まらない。

　ゴルバドが嘲笑いながら再び剣を振り回す。

「どうした、震えているじゃないか。まだ立っていることを褒めてやろう。だが、守るだけか？チビ」

　ゴルバドが力任せに広範囲の圧力をかけてきた。

　しかし、俺は、その全てを避けたり、短剣で受け流す。

　そして、ゴルバドの長剣の隙間から突き進み、瞬時に彼の懐に飛び込んだ。

　ゴルバドが俺の突進を防ぐために後方へ飛び退き、間合いを取り直す。ゴルバドの勝負の勘は、鋭い。

「なかなかやるな、チビ。俺の剣技に対応できるのか。剣圧や重い打ち合いにも慣れている。この剣術、どこかで身に覚えがあるな。

　それにその短剣、普通じゃないな。並の剣ならとっくに折れているはずだ。

　しかし、殺意が足りないな。それでは、俺には勝てないぞ」

　観客たちが俺の健闘に対する拍手と歓声を上がっていた。特に女性の声が目立ち、俺の名前を連呼している。その絶え間ない応援が届く。

　ゴルバドが肉体強化の魔法を唱え、速度を上げた。その動きは目に見えないほどの速さになった。

　やられる！ゴルバドの剣がスローモーションで見える。剣の軌跡が首を狙って迫る。身体を逸らしても、間に合わない。

　ゴルバドの剣が俺の角に当たって、俺は吹っ飛ばされて倒れる。

　不思議だ。全身に力が満ちてくる。額にある角からはキラキラと光が放たれた。角は傷つくどころか、太く長くなった。身体能力が一瞬にして上昇しているようだ。大丈夫、力をコントロールできている。暴走などしない。

　この力を見せてやろう。俺はゆっくりと立ち上がって、ゴルバドを睨みつけた。