第57話 決着

――ソヴリンスター大聖堂 最深部


 セレナスはエルミラから極力距離を取りつつ、水蛇の槍を構えていた。


「いつまで守りに徹しているつもりですか? それでは私を倒す事は出来ませんよ」


 エルミラは冷静にそう言っているつもりだが、少しイラついているのが見て取れた。


「何と言われようと、僕はこのままロフルが戻るのを待つさ」


 セレナスは一人になった以降、自身の周囲の雪に集中していた。


 エルミラの攻撃は、必ず剣先から射出される為、飛んでくる位置の予測はある程度出来た。

 その攻撃は見えない上に瞬間的に着弾するが、ぎりぎり纏っている雪で感知し、回避する事が出来ていた。


「まったく……仕方が無いですね」


 そう言ってエルミラは右腕を上げた。

 そして、魔法輪を起動する。

 セレナスはそれをみて、すぐにある事に気がついていた。


「エルミラ……! ユニークリングじゃないか!」

「ええそうですね」


 エルミラのその問いに、セレナスは怒りをあらわにした。


「ユニークリングはお前らSの者によって排除されていた……その張本人がユニークリングとは笑わせてくれるな!」


 エルミラはその質問に淡々と


「ユニークリングによる特性は未知の力……我々には管理できません。なので排除する仕組みを作っただけです」


 と言った。


「そんな馬鹿な理由でユニークリングは悪と教えて来たのか……!? その考えを生み出したお前が一番の悪じゃないか!!」


 セレナスがそう言った瞬間……


――ザンッ!


 という音と共に、セレナスは背中から剣で一突きにされていた。


「がはっ……!」


「遅くなり申し訳ございません!! エルミラ様」

「やっと来ましたかレオネル」


 セレナスを刺したのは、レオネルだった。


「レオネル……ッ!」


 セレナスはその場で倒れ込んだ。


「セレナス、お前には失望したぞ」

「僕は……お前ら腐ったSランクに失望したよ……」

「ふん、戯言を……エルミラ様、こいつを如何いたしましょうか」


 セレナスに刺した剣を引き抜きながらレオネルは言った。

 そして、エルミラはセレナスを蔑むような目で見ながら、


「直ちに首を刎ねよ」


 と言った。

 レオネルは、承知しましたと頷き、そのままセレナスの首元で剣を振り上げた。


「ロフル……! 後は頼んだぞ……!」


 セレナスが諦めそうになったその時だった。


――バンッ!!


「ごふ……ッ!」


 レオネルは頭部を蹴られ、思いっきり吹き飛んだ。

 そして、そのまま気を失ってしまった。


「ロフル……来ましたか」


 ロフルは空中に浮かんでいた。

 周囲には二つの魔法陣が浮遊している。

 これは七輪エアリジェクションの効果で、空中を自在に動ける状態となっていた為だった。


「セレナス……! すまない遅くなって……! すぐ終わらせてお前を連れ帰るからな」

「ああ、頼んだぞ……」


 その瞬間、エルミラは剣先をこちらに向け、攻撃を放っていた。

 しかし、ロフルには攻撃は通らず、代わりに周囲に飛んでいた魔法陣がガラスの様に砕け散った。


 ロフルのそのまま何事も無かったかのように、セレナスの止血だけは済ませた。


「攻撃が通らない……?」


 エルミラはその状況を見て、少し困惑している。


「おいおい、こういう時は黙ってみてるもんだろうが」


 ロフルはそのまま魔装具を構えた。


「魔装具……? 紫髪ごときが持っていい代物ではありませんよ……!」

「紫髪とか関係ない。これは俺にしか使えない魔装具だ……天装剣・打毀(てんそうけん・うちこわし)!」


 魔装具はすぐに形状を変えた。

 グラディウスの様に幅広の剣だが、その剣身には無数のひびが入っておりバラバラになっている。

 しかし、切れ目の隙間と剣全体を白い光で包まれており、形状を保っている。


 ロフルの周囲にはセレナスのような雪やエルミラの白羽ではなく、

 三方手裏剣のような形の刃が無数に舞っていた。


「たしかにこれは危ないな」


 その瞬間、エルミラは再度剣先を向け、攻撃を試みた。

 しかし、ロフルはそれを浮遊する刃でガードし無効化した。


「く……!」


 エルミラからは少し焦りの表情が見え始めた。


「この無数の刃……俺の制御で操作できそうだ」


 ロフルはそう呟き、全ての刃を剣先へと集中させ、エルミラへと射出した。


――ガガガガッ!


 無数の刃はエルミラの致命傷を避け、服や腕に突き刺さった。

 そして、そのまま壁に貼り付け状態となり身動きが取れなくなった。


 そのままエルミラの魔装具を奪い取り、剣先を首につきつけた。


 その時点でエルミラは全てを諦めた表情となり、ゆっくりと目を閉じた。

 だが、ロフルはそのまま剣を収め、貼り付け状態になったエルミラをゆっくりと地上へ降ろした。


「何をしているのですか」


 エルミラがそう質問すると、ロフルは


「エルミラ、切り離しを考え直してくれ」


 と言った。

 だが、エルミラは表情を変えず、


「それは出来ません」


 と一言だけ言った。

 だがロフルはそのまま話を続けた。


「世界の崩壊は俺が止める。方法があるんだ」


 その言葉にエルミラは一瞬驚きの表情を見せた後、すぐに無表情へと戻った。


「紫髪が何故その事をしっている……」

「今はそんな事はどうでもいい。とにかく、原因は人口増加……ならば他の場所に移住して貰ったらいい」

「どの場所に行っても同じです。この4層世界は全てで一つなのですから……」

「確証はまだないが、この世界以外に行く事が出来るかもしれない」


 ロフルはそう続け、


「全部調べる! 1年だけ待ってくれ。必ず崩壊を止めてやる」


 とエルミラの目を見て伝えた。

 言葉の通り、実際にはまだそれが可能か確証を得ていないロフルだが、

 その自信と覚悟の表情をみたエルミラは諦めた表情で


「分かりました。切り離しは待ちましょう……」


 と言った。


「ありがとう。必ず崩壊はさせない。待っていてくれ」


 そう言って気を失ったセレナスをすぐに抱えて帰還した。


・・・

・・

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