第13話 試練の後

「ん……」


 目を開けると、違う景色となっていた。


「ロフルさん!!」

「え……?」


 その瞬間、フーチェが俺に飛びついてきた。


「あれ、熱くない……」


 いつもはエンハンス状態のフーチェに触れると、熱くて耐えられなかった。

 だが、今はこうして触れていても全く熱さを感じない。


「あ! 私ってばまた……あれ、熱くないんですか?」

「熱くないね。普通に触れられるよ」


 俺は頭を軽く撫でながら言った。

 すると、フーチェは少し顔を赤らめ、

「もう! どさくさに紛れて何してるんですか……!」

 と照れくさそうに言った。


「でも……服を着てない子が飛びつくのはまずいと思うので離れてくれ……」

「そっ……そうですね……!」


 フーチェはそう言いながら少し後退した。

 そして、それを見ていたマグが口を開いた。


「1週間も帰って来なくて心配した。死んだと思った」


 マグのその言葉で、俺は1週間もあの空間にいた事を知った。

 そんなに時間が経っていたのか……。


「そういえばロフルさん、左目だけ赤くなってますね」


 フーチェは俺の顔を見ながら言った。


「そうなのか? もう片方の目はそのまま?」

「そのままです。なんだか不思議な感じですね……」


 片目づつ閉じて見たりもするが、見える景色に変化はない。

 変わったという実感が今のところは無いな……。


「あ、そういえば六輪になれるかな!?」


 早速、目の前にある祭壇に腕を入れた。

 これがなによりも楽しみだ。


――


試練達成……


レベル6 に上昇


六輪 バースト を習得

六輪 キーキューブ を習得


次のレベルまで0.9

レベル7情報

七輪 リジェクション 開放


――


 そして、いつもの通り、冷たい感触が腕全体を走り、

 魔法輪が一つ新たに増えていた。


「あれ? 一つしか増えてない……あ、そうか」


 左手の魔法陣はどうすればと思いながら石板を見ると、左腕を入れろとなっていた。

 なので、そのまま左腕も入れる事にした。


「む、掌が冷たい感じ……」


 そして、腕を引き抜くと、左手の掌に小さな魔法陣が刻印されていた。


「俺にも掌に魔法輪が……どっちの魔法がどっちになるんだ……?」


 そう呟くと、フーチェが後ろから声を掛けてきた。


「左手掌がキーキューブ、右腕の魔法輪がバーストですよ!」

「おお、なるほど! もう色々試したのか?」


 俺が質問を投げかけるとマグが、


「一週間もあった。色々試すに決まっている」


 と答えた。

 そりゃすぐに試すに決まっているよな。


「なら良ければ情報を共有してくれないか!」


 とお願いをしてみると、


「当然です!」


 とフーチェが元気よく答えてくれた。

 俺達はひとまず祭壇を後にし、外でフーチェ様による講習会が始まった。


・・・

・・


 キーキューブ

 この魔法は輪は腕では無く左の掌に小さな魔法陣が印字される。

 右手の五本の指でその魔方陣に触れると右手の指が5本とも光る。

 それぞれキーとなっており、5つの次元倉庫を開く事が出来る。

 親指と人差し指は1つの物しか入れられないが即座に出し入れが出来る。武器などを収納するのに最適。

 光った指でもう片方の掌を押さえると手の甲から手のひらサイズのキューブが現れる。

 触れると目の前で幅高さ50cm程の大きな箱に変化する。

 個人差有りそこに物を入れる事が出来る。両手で左右をぐっと抑えると、元のサイズに戻り浮遊する。

 キューブは他者には見えない。解除はもう一度魔法輪に触れる。


「ま、フーチェ待って! 早口すぎ!」


 俺は想定以上の情報量に思わずフーチェに


「え? そうでした?」


 興味のある物を早口で話すタイプの子か……。


「まぁでもなんとなく理解した。とてつもなく便利なカバンみたいなもんだな!」

「そうですね! 大量の荷物を手ぶらで持つ事が出来ますね!」


 俺は先ほどのフーチェの説明通り、中指の倉庫を出してみた。

 言っていた通り小さい箱が出現したので、触れてみると大きな箱に変化した。


「おお、これが次元倉庫……! 早速何か入れてみるか」


 そう言って持ってきていた食料を詰め込んだ。

 そして、両手でぐっと箱を抑えると、小さなサイズに戻った。


「何これ便利すぎ! あ……そういえばここに入れていても腐るのか……?」


 こういった倉庫は、何となく時間が止まるような認識だったが、これはどうなんだ……?


「一応……腐ると思います」


 フーチェはそう言った。

 俺はふーんと聞き流したが、内心残念な気持ちだった。

 そこまで便利な物ではないか……

 そう思っているとフーチェは続けて、


「でもこの中は限りなく時間の流れが遅いと考えられます。試しに燃えた木を入れて二日程放置したのですが、取り出すと入れた時と殆ど同じ状態で取り出せました」

「完全に止まってるわけでは無いけど限りなく止まっている状態……いや、それなら十分だろ!!」


 俺のテンションはまた上がってきた。


「とにかく大体わかった。必要な物はここに全部入れる事にしよう。限度はあるけど相当有難い」


「いつでも新鮮な食料が食べられる……今までで一番最高の魔法輪」


 マグもこの魔法には大層喜んでいるようだ。

 この魔法で、遠征しやすくなる。活動の幅が大きく変わるな。


「次のバーストですが……」


 フーチェは続けて魔法の説明を始めた。


 自身の前方で魔力を炸裂させる。

 それは、大木が木っ端みじんになる程の威力。

 仮にエンハンスの無い人に当てると跡形も残らないだろうとの事。

 インターバルはブラスト15秒に対し30秒ほど魔法が使用できなくなる。


 バーストにも当然の様に特性が付与されていた。


 フーチェは赤い灼熱の炸裂が発生するようになっており、超高熱の魔法になっていた。


 マグは灰色の炸裂が発生する。効果は一見通常通りだが、近くに鉄があるとそれに引き寄せられるように炸裂、鉄に軽々と穴をあける。


 俺は炸裂する魔力を操作できるかなと思ったが、攻撃が出現しそれに対して操作を行う為、瞬間的な攻撃には間に合わない。

 練習にどうにかなるか分からないが、現時点では無属性みたいなものだ。


「さて……俺はそろそろ元の場所へ戻るよ」


 そういって席を立った。


「もう帰るのですか? 少しくらい休んでからでも……」


 フーチェはそう言って引き留めてくれたがそうも言ってられない。

 気がつけば妹が降りてくる洗礼の試練まで残り3ヶ月を切っている。

 そろそろ祭壇周りの整備に集中しなければならない。


 そう説明すると、フーチェは

「手伝いましょうか?」

 と張り切って言ってくれた。


「有難い話だけど、大丈夫だ。二人はアミナがしっかりここで生き残れるように教えてあげるべきだ」


 そして、自身の胸をトンと叩きながら、


「それに……ここまで強くなった。去年の様に囲まれてもやられる気がしないよ」


 と伝えた。


「そうですが……ロフル、どうか気を付けてください」

「アミナが一人前になったらマグも遊びに行く」


「ああ、楽しみにしてる」


 そんな会話をした後、俺は二人と別れ、神輪の祭壇へと戻った。


・・・

・・

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